人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

文字の大きさ
上 下
24 / 78

問題

しおりを挟む
側近2人はハデスにフローラの話しをしようとしたのだが、結局出来ないまま1週間が過ぎていた。
イアンからそれを聞いた私はホッと胸を撫で下ろしたのだった。
私がハデス様を好きな気持ちはバレてはいけない。恋をしてすぐに失恋などごめんだ。

私の悩みといえばそれぐらいで、日々平和に過ごしていた。
平和だ。平和なのだが、、。

「マズいわ、フローラ。」

滞在している私達の部屋の中で私はボヤいた。品の良い調度品に囲まれた私達の部屋は、ピンクを基調にした可愛らしい雰囲気の部屋だ。
真ん中に馬鹿みたいに大きい天蓋付きのベッドが置かれており、そこで私は抱き枕を抱えてゴロゴロと転がっている。

「ナタリー様どうしたのですか?」

フローラは自分の赤い髪を器用に編み込み、うなじが見えるように頭の高い位置でまとめていく。
その後ろ姿を見ながら、イアンの巻貝の様な髪型を思い出していた。

「ねぇ、その髪型流行ってるの?」

「えっ?」

「嫌、良いの。ごめんなさい。そうじゃなくて、私あれから外に出られていないでしょ?」

「狼に襲われかけてからですよね?ハデス様も心配して下さっているみたいですし、当然じゃありませんか?」

「うっ、そうね。分かっているのよ。でも、このままではカイエンの魔力が枯渇してしまうわ。1週間も離れた事など今まで一度も無いのよ。」

そうなのだ。レッドウルフに襲われかける前にカイエンが私の漏れ出した魔力を吸収したのが最後、それから彼に魔力を与えていない。
カイエンは魔力が無くなると小さい身体を元の大きさに戻す事が出来ない。小さい身体では腕力など無く、もちろん魔力が無ければ魔法も使えない。要するに戦うすべが皆無なのだ。

「もう言ってしまったらどうですか?ハデス様のお兄様を飼育していると。」

「ブーッ!!飼育ってフローラ!!あなた可愛い顔してキツイ事言うわね!」

涙を流しながら笑う私にフローラは真っ赤な顔で手を振りながら訂正した。

「違うんです!!言い間違えただけです!!どう言ったら良いのでしょうか?奴隷でも無いし、契約?使役!?使役ですか!!??」

「フフフッ、そうね私もどう説明したら良いのか分からないわ。ワガママで乱暴で、昔は大嫌いだったのに、長く一緒に居過ぎたのね。彼はそうね、家族。その言葉が一番しっくりくるわね。」

「、、家族ですか。」

フローラがしんみりと呟いた。あまりに頼りなくそう彼女が呟いたので、私は彼女の顔を見るために身体を起こした。

「フローラ?あなた泣いているの?」

鏡ごしに見た彼女の瞳は潤んでいるように見える。私は慌てて立ち上がり彼女の側まで行くと椅子に座るフローラの横に片膝をついた。

「ナタリー様、服が汚れます!」

それを見たフローラが慌てて私を立ち上がらせようとしたが、私は首を振った。フローラは情け無い顔でオロオロしている。

「何で泣いたのフローラ?」

私は出来るだけ優しい声音で聞いた。フローラは私の顔をチラチラと見ながら、頬を染めて話し出した。

「カイエン様に嫉妬したのです。」

「カイエンに?何であんな男に嫉妬するの?」

「ナタリー様がカイエン様の事を家族と言ったからです。私はナタリー様の事が大好きなのに家族にはなれません。」

そう言いながらフローラは溜めていた涙をポロリと零した。

(あぁ、私は何でこの子に嫉妬なんかしたのだろう。私を大切に想ってくれるこの子を、私のくだらない感情で傷付けるところだった。)
 
私はそう思いながら人差し指でフローラの涙を拭った。

「フローラ、あなたは私の親友でしょう?」

「親友?」

「親友はこの世でたった1人唯一無二の存在よ。そうでしょ?」

「ナタリー様。」

フローラの涙腺は決壊し、先程より大量の涙が溢れ出した。

「あらあら、嬉しくても泣くなんて忙しい人ね?ほら、泣かないで?」

私は持っていたハンカチを取り出しフローラにそっと渡した。
彼女の頭を撫でながら、もう二度とこんな心の綺麗なフローラに馬鹿な考えを持つのはやめよう。そう彼女の涙に誓おうと思ったが、、やめた。
私はそんなに強くない。これからも馬鹿な考えをいっぱいするだろう。
それならば全てフローラに打ち明けよう。私が馬鹿なところも彼女に知って貰おう。

「ナタリー様、それでどうなさるのですか?」

泣き止んだフローラは話しを本題に戻してくれた。

「お父様が密偵を出してバゼルハイド王の事を探っているらしいのだけど、そろそろその報告が来てるのじゃないかと思うの。それも聞きたいから、カイエンを探しがてら両親に会いに行こうかと。でもハデス様には馬鹿正直にこんな話し言えないし。そうね、両親に会いに行きたいとそう素直に訴えてみるわ。」

「さすがヘンリー様ですね。この状況でも密偵を出せるなんて。」

ヘンリーとはてっぷりとお腹の出た可愛い私のお父様の事だ。 

「ハデス様も向こうの人間達を探っているはずだから、隠しても仕方ないとは思うのだけれど、、。でも報告の内容が聞かれれば立場が危うくなるようなものだったのなら、真相がちゃんと分かるまで彼に知られたくないわ。」

「それはそうですね。こちらが先に情報を手にしたならば、下手に知られるより、ある程度手立てを考えてから知られる方が良いですね。」

「そうね。とりあえずハデス様の所へ行ってくるわ!とにかく彼を説得出来ないことには話しにならなくてよ。」

カイエンが死んでしまう前に!そんな言葉を飲み込んで私はハデス様の元へ向かった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

処理中です...