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「ねぇ、イアン。」
「あら、起きてたの?」
「うん。」
私は湯船の中で目を覚ました。イアンの広い胸板に支えられているので、溺れずにすんでいるのだが、背中に当たるプニプニという感覚が気になって仕方なかった。
(気にしたら負け!それに確認したらまた気絶しそうだわ。)
そのプニプニしたものから意識をそらしながら話す。
「それで?どうしたの?」
「このお風呂どう思う?」
「どうって?バカみたいだと思うわ。」
「そう。そうよね。」
イアンにもたれかかりながら私は上を見た。
天窓が付けられた高い天井には巨大なシャンデリアがぶら下がっている。その天窓から入り込んだ外の光をシャンデリアが反射してキラキラと至る所が煌めいていた。
そして湯船や壁面等、ほとんどが白の大理石で作られたこの大浴場は、いくらかかったのか見当もつかない程豪華絢爛な造りをしているのだ。
「この大浴場はね、一部の人間しか使う事ができなかったの。」
「一部の人間?」
「そう。王族や国外からの客人、上位の貴族達でさえ入れる人は限られていたし、もちろん城で働いてる人達は入らせて貰えなかったのよ。」
「何それ、勿体ないわね。」
イアンは話しをしながら私の白銀の髪を指先でもて遊んでいた。フルメイクを完全に落としたイアンの顔は、男らしくて惚れ惚れする程のイケメンだった。
頬が赤くなっているのはお湯であったまったせいだと心の中で言い訳する。
「私はいずれ王妃になる身だった。城へ来る度に思っていたわ。なぜこんな無駄なお金の使い方をするのかと、民から取り上げた税という名のお金をどうして民の為に使えないのかと。」
「そうね。ハデス様の城はもっと質素な物よ。災害があった時、沢山の魔物が集まっても入れるようにと広さだけは馬鹿みたいに広いけど、調度品や絵画なんて物はほとんど無いし、花の一つも置かれてないの。本当味気ない城よ。」
「フフッ、羨ましいわ。」
「あんたって、ホント噂とは全く違う女なのね。」
「噂?」
不穏な話しに私の眉間にシワが入る。イアンは私のシワを人差し指で伸ばしながら話し始めた。
「あんたが人質に選ばれた時に、どんな令嬢なのか調査したのよ。」
「えっ!?そんなの聞いてないわ。」
「わざわざ言わないわよ。人質を品定めするみたいなもんじゃない?そりゃぁ、秘密裏に行ったわよ。」
「ん?それなら、今私に言うのはマズイんじゃないの?」
「あら、良いのよ。調査の内容なんて何も当たってなかったんだもの!あんなの意味ないわ。」
「調査にはどんな内容が書いてあったの?」
私は恐る恐る聞いた。そんな私の顔を見てイアンの目元が優しく細められる。
「大丈夫、信じてないわよ。あんたがマリアとかいう女をイジメ倒して命まで狙ったとか?公爵家の身分を振りかざし、学園でやりたい放題だったとか?アルベルト王子にも楯突いて、あれがダメこれがダメとダメ出しばかりしていたとか?」
「フフッ、ハハハハッ。そんな事言われてたのね。フフッ。まぁ、そうね。そんな事を言われていたのを知っていて私は否定しなかった。嫌、否定しても意味無かったと言うべきね。」
「と言うと?」
「マリアさんは私よりも何枚も上手な人だったの。気に入って貰えれば自分の立場が良くなる人に媚びを売って信用を勝ち得ていったわ。私はそんな事しなくても毎日頑張っていれば必ず認めて貰える。そう思って馬鹿正直に努力し続けたの。でも、アルベルト様の気持ちを手に入れたのはマリアさんだった、、。」
「あんたらしいわね。」
そう言うと、イアンは私の頭を優しく撫でる。
「私は努力しても報われない事を一度知ってしまった。臆病になってしまったのね。」
「それがあなたが今日元気が無い事に繋がってくるの?」
「えっ!?」
「ナタリー、、あなたハデス様の事が好きなんでしょ?」
私は驚いて立ち上がった。余りに勢い良く立ったので、立ちくらみがしてそのまま倒れそうになる。
それをイアンが優しく受け止め、私を湯船の端に座らせてくれた。
「大丈夫?のぼせた?」
「大丈夫。少しクラッとしただけ。」
「そう。それで?あなたの本心を聞かせて?」
イアンの真剣な瞳が私の瞳を捉える。嘘は許さないその瞳に私は嘆息した。
「ハァー、イアンには敵いそうもないわね。ハデス様に恋をしたわ。イアン、あなたも好きなんでしょう?あなたは怒るかしら?」
私がそう言うとイアンは私の横に座り、同じように嘆息した。
「ハァー、そうね。私もハデス様が好きだったわ。ずーっと、ずーっとお慕いしていたの。でもね、報われない恋を何十年もして、恋は形を変えてしまったのよ。」
「形を?」
「初めは純粋に好きっていうだけの気持ちだったはずなのよ?でも、どうして自分を見てくれないのって憤ってみたり。ハデス様の目に映る全ての者に嫉妬したり。何だか疲れちゃって。」
「そうね。私も一緒だったわ。彼を好きという気持ちより、彼を好きでいる醜い自分が嫌いという気持ちの方が大きくなった。」
「そうね。私はそれで逃げちゃったの。私を好きと言ってくれる人の所へ。最初はその彼にも悪くて、逃げた自分が許せなくて葛藤したけど、、。今はね、今はとっても幸せなの。ハデス様の事は今でも大好きよ。でも、彼を想う気持ちはまた別なの。」
「イアン。良かったわね。」
アルベルト様を想う気持ちが報われなかった私に、イアンの新しい恋はとても眩しくて、羨ましくて、、
でも、心から良かったと思えた。そして、そう思える事の出来る自分がまだ居た事が嬉しかった。
「ありがとう。ねぇ、ナタリー、あなたが腐ってたのはフローラのせい?」
私はギクリという顔をしてしまった。それを見たイアンは全てを悟ってしまう。
「そう。ハデス様はフローラに恋をしたのね。でも、なぜかしら?ハデス様はフローラの様な見た目の女性は苦手なはずなのだけれど。」
「そうなの?」
「えぇ、派手な美人って感じじゃない?ハデス様のお母様がそういう見た目だったのだけど、ハデス様はお母様の事が大嫌いだったのよ。」
「お母様の事が、、。」
「分かったわ!私が一肌脱いであげる!」
「えっ!?」
「ハデス様が何でフローラを好きになったのか分かれば、あなたにだってチャンスがあるかもしれないわ。」
「えっ!?良いです!!むしろほっといて!!嫌な予感しかしないから!!」
「そうと決まれば行ってくるわね。あなた少し涼んでからいらっしゃい。」
「えっ!?行かないで!!行かないでイアン!!!やめてーーー!!!」
私は大絶叫したが、イアンは鼻歌を歌いながら大浴場を後にした。
「あら、起きてたの?」
「うん。」
私は湯船の中で目を覚ました。イアンの広い胸板に支えられているので、溺れずにすんでいるのだが、背中に当たるプニプニという感覚が気になって仕方なかった。
(気にしたら負け!それに確認したらまた気絶しそうだわ。)
そのプニプニしたものから意識をそらしながら話す。
「それで?どうしたの?」
「このお風呂どう思う?」
「どうって?バカみたいだと思うわ。」
「そう。そうよね。」
イアンにもたれかかりながら私は上を見た。
天窓が付けられた高い天井には巨大なシャンデリアがぶら下がっている。その天窓から入り込んだ外の光をシャンデリアが反射してキラキラと至る所が煌めいていた。
そして湯船や壁面等、ほとんどが白の大理石で作られたこの大浴場は、いくらかかったのか見当もつかない程豪華絢爛な造りをしているのだ。
「この大浴場はね、一部の人間しか使う事ができなかったの。」
「一部の人間?」
「そう。王族や国外からの客人、上位の貴族達でさえ入れる人は限られていたし、もちろん城で働いてる人達は入らせて貰えなかったのよ。」
「何それ、勿体ないわね。」
イアンは話しをしながら私の白銀の髪を指先でもて遊んでいた。フルメイクを完全に落としたイアンの顔は、男らしくて惚れ惚れする程のイケメンだった。
頬が赤くなっているのはお湯であったまったせいだと心の中で言い訳する。
「私はいずれ王妃になる身だった。城へ来る度に思っていたわ。なぜこんな無駄なお金の使い方をするのかと、民から取り上げた税という名のお金をどうして民の為に使えないのかと。」
「そうね。ハデス様の城はもっと質素な物よ。災害があった時、沢山の魔物が集まっても入れるようにと広さだけは馬鹿みたいに広いけど、調度品や絵画なんて物はほとんど無いし、花の一つも置かれてないの。本当味気ない城よ。」
「フフッ、羨ましいわ。」
「あんたって、ホント噂とは全く違う女なのね。」
「噂?」
不穏な話しに私の眉間にシワが入る。イアンは私のシワを人差し指で伸ばしながら話し始めた。
「あんたが人質に選ばれた時に、どんな令嬢なのか調査したのよ。」
「えっ!?そんなの聞いてないわ。」
「わざわざ言わないわよ。人質を品定めするみたいなもんじゃない?そりゃぁ、秘密裏に行ったわよ。」
「ん?それなら、今私に言うのはマズイんじゃないの?」
「あら、良いのよ。調査の内容なんて何も当たってなかったんだもの!あんなの意味ないわ。」
「調査にはどんな内容が書いてあったの?」
私は恐る恐る聞いた。そんな私の顔を見てイアンの目元が優しく細められる。
「大丈夫、信じてないわよ。あんたがマリアとかいう女をイジメ倒して命まで狙ったとか?公爵家の身分を振りかざし、学園でやりたい放題だったとか?アルベルト王子にも楯突いて、あれがダメこれがダメとダメ出しばかりしていたとか?」
「フフッ、ハハハハッ。そんな事言われてたのね。フフッ。まぁ、そうね。そんな事を言われていたのを知っていて私は否定しなかった。嫌、否定しても意味無かったと言うべきね。」
「と言うと?」
「マリアさんは私よりも何枚も上手な人だったの。気に入って貰えれば自分の立場が良くなる人に媚びを売って信用を勝ち得ていったわ。私はそんな事しなくても毎日頑張っていれば必ず認めて貰える。そう思って馬鹿正直に努力し続けたの。でも、アルベルト様の気持ちを手に入れたのはマリアさんだった、、。」
「あんたらしいわね。」
そう言うと、イアンは私の頭を優しく撫でる。
「私は努力しても報われない事を一度知ってしまった。臆病になってしまったのね。」
「それがあなたが今日元気が無い事に繋がってくるの?」
「えっ!?」
「ナタリー、、あなたハデス様の事が好きなんでしょ?」
私は驚いて立ち上がった。余りに勢い良く立ったので、立ちくらみがしてそのまま倒れそうになる。
それをイアンが優しく受け止め、私を湯船の端に座らせてくれた。
「大丈夫?のぼせた?」
「大丈夫。少しクラッとしただけ。」
「そう。それで?あなたの本心を聞かせて?」
イアンの真剣な瞳が私の瞳を捉える。嘘は許さないその瞳に私は嘆息した。
「ハァー、イアンには敵いそうもないわね。ハデス様に恋をしたわ。イアン、あなたも好きなんでしょう?あなたは怒るかしら?」
私がそう言うとイアンは私の横に座り、同じように嘆息した。
「ハァー、そうね。私もハデス様が好きだったわ。ずーっと、ずーっとお慕いしていたの。でもね、報われない恋を何十年もして、恋は形を変えてしまったのよ。」
「形を?」
「初めは純粋に好きっていうだけの気持ちだったはずなのよ?でも、どうして自分を見てくれないのって憤ってみたり。ハデス様の目に映る全ての者に嫉妬したり。何だか疲れちゃって。」
「そうね。私も一緒だったわ。彼を好きという気持ちより、彼を好きでいる醜い自分が嫌いという気持ちの方が大きくなった。」
「そうね。私はそれで逃げちゃったの。私を好きと言ってくれる人の所へ。最初はその彼にも悪くて、逃げた自分が許せなくて葛藤したけど、、。今はね、今はとっても幸せなの。ハデス様の事は今でも大好きよ。でも、彼を想う気持ちはまた別なの。」
「イアン。良かったわね。」
アルベルト様を想う気持ちが報われなかった私に、イアンの新しい恋はとても眩しくて、羨ましくて、、
でも、心から良かったと思えた。そして、そう思える事の出来る自分がまだ居た事が嬉しかった。
「ありがとう。ねぇ、ナタリー、あなたが腐ってたのはフローラのせい?」
私はギクリという顔をしてしまった。それを見たイアンは全てを悟ってしまう。
「そう。ハデス様はフローラに恋をしたのね。でも、なぜかしら?ハデス様はフローラの様な見た目の女性は苦手なはずなのだけれど。」
「そうなの?」
「えぇ、派手な美人って感じじゃない?ハデス様のお母様がそういう見た目だったのだけど、ハデス様はお母様の事が大嫌いだったのよ。」
「お母様の事が、、。」
「分かったわ!私が一肌脱いであげる!」
「えっ!?」
「ハデス様が何でフローラを好きになったのか分かれば、あなたにだってチャンスがあるかもしれないわ。」
「えっ!?良いです!!むしろほっといて!!嫌な予感しかしないから!!」
「そうと決まれば行ってくるわね。あなた少し涼んでからいらっしゃい。」
「えっ!?行かないで!!行かないでイアン!!!やめてーーー!!!」
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