人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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ナタリーの恋 前

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ハデスは大広間を出ると馬小屋へと向かった。
本当は彼自身がフローラの所へ行きたかったのだが、彼女と上手く話せる気がせずに逃げてしまったのだ。

『嫌、ナタリーを優先すべきだと思っただけだ。別に逃げた訳ではない。』

そんな言い訳を口にしながら、目的地へと向かった。

馬小屋へ着くと、馬の身体を持つ魔物マートンが、ちょうどハデスの愛馬オルフェーを連れて馬小屋から出て来た所だった。
オルフェーはヴォルフの双子馬で、先代魔王より息子達へ一頭ずつ贈られたのだ。
その時ヴェルディスはまだ産まれておらず、のちに自分だけ血統の違う馬を贈られ真っ赤な顔で怒っていたのをハデスは思い出した。
昔を懐かしみ目を細め口元を緩めて彼は珍しく柔らかな表情を見せる。

『ハデス様ぁ。いらっしゃるって聞いてましたがぁ、グッドタイミングでしたねぇ~。』

のんびりした口調で現れたマートンにより、ハデスは現実に引き戻される。笑っていた事がバレないように口元を隠しながら、眉間にシワを入れてみる。

『あぁ、ご苦労だったな。ナタリーが出掛けたのはいつだ?』

『えーっと、1時間前ぐらいですかねぇ~。』

『そうか。』

彼はオルフェーの手綱を受け取ると、オルフェーの身体に自分の魔力を送り込んだ。
本来魔族の馬は地を走らない。己の魔力を送り込む事で馬を変化させる。

オルフェーの背中より毛と同じ漆黒の羽が生えた。バサッバサッと音を立てながら羽を動かす。
そう、魔族の馬は飛ぶのだ。
背に羽の生えた馬、皆が想像するより禍々しい姿だがこれがペガサスと呼ばれる魔物である。
ハデスはオルフェーにまたがると、そのまま出発しようとして足を止め振り返った。

『そう言えばマートン、ナタリーは魔族の馬が飛べるのを知らないようだが、なぜ教えない?』

彼がそう聞くとマートンはヘラリと笑った。

『教えても出来ないでしょ~?人間ごときが馬を操れるはずないじゃないですかぁ?』

のっぺりとした優しい彼の顔とは似合わない黒い発言にハデスは少し驚いた。

『マートン、お前人間嫌いだったか?』

『いいえ~。好きとか嫌いとかではなくぅ。出来る出来ないがあるのは仕方ないというかぁ?教えてもどうしようも無い事を教えるのは不毛というかぁ~?そんな感じですぅ。』

『私は出来る出来ないを決め付けるのは嫌いだ。』

『???』

『マートン、上を見上げて待っておれ。帰りはナタリーと空から戻って来よう。』

マートンはハデスの顔を見て、目を丸くした後に笑った。こんなイタズラ小僧の様な顔をした彼を見るのはとても久しぶりだった。

『分かりましたぁ。上ばっかり見ながら待っていましょう~。』

ハデスはその答えに満足そうに頷くと、オルフェーの腹を軽く蹴り空へと舞い上がった。
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