人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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前途多難な恋

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サイレーイスが訓練所へと向かった時、一同はちょうど休憩中だった。
軍の指揮官、ナイトバルと目が合えば彼は綺麗な礼をして近寄って来る。
ナイトバルはゴーレムの魔物であり、全身岩で出来ていて体長3m程の横にも縦にも巨大な男だ。

『サイレーイス様、どうされましたか?』

ナイトバルは動くと小石が体から落ちてくる。彼とは少し距離を置いて話すのがコツだ。

『あぁ、訓練中悪いな。ヴェルディス様が行方をくらました件なのだが、人質3人に知らせていなかったので報告に来た。』

『サイレーイス様が直々にですか?』

ナイトバルは目を丸くした。それもそのはずだ。ハデスも働き詰めで休めていないが、ハデスの右腕であるサイレーイスも同様である。その様な雑用をサイレーイスがする理由が分からなかったのだ。

『あぁ、色々あってな。それで、フローラ様とミカエル殿は?』

『あの2人ならあそこに。』

ナイトバルが指差した方向を見るとそこには仲睦まじく語り合う2人の姿が見えた。フローラが頬を染めている様に見えるのは気のせいではないだろう。

『ハァー、前途多難だな。それでナイトバル、ミカエル殿はどうなんだ?言葉も通じずに訓練に参加出来ているのか?』

『はい。彼は騎士団の団長だったとか?さすがに強いですね。魔法を使えば私が勝つでしょうが、お互い魔力無しで戦うとなればどうなるか分かりませんな。』

『それほどなのか!?』

サイレーイスは目を見張った。ナイトバルは魔物の中では最強を誇っている。
それでも魔族と呼ばれる者達とは比べようも無いのだが、それでも驚きであった。

『本当に彼を訓練に参加させて良いのですか?彼を強くするメリットを感じないのですが。』

『そうだな。ハデス様に一度進言してみよう。』

そう言うとサイレーイスはフローラとミカエルの元へと向かった。

フローラは魔族の彼から見ても本当に美しい。
朝の光を浴びて、彼女の赤く美しい髪と瞳がキラキラと輝いていた。肌も透き通るほど白く、豊満な身体は魔物達の目をも釘付けにしている。
そして、その横でフローラからお茶を受け取っているミカエルも、淡い金の短い髪に青く澄んだ瞳、スッと通った鼻筋、そして鍛え上げた身体、文句のつけようの無い美青年だ。
お似合いな2人の元へ足を運ぶ度に、サイレーイスは頭が痛くなるのを感じていた。

「ウォホンッ、フローラ様、ミカエル殿、おはようございます。」

甘ったるい雰囲気に入って行くのが気まずく、サイレーイスはわざとらしく咳をする。

「おはようございます。サイレーイス様。」

「おはようございます。」

サイレーイスは、急に話しかけられた2人が恥じらったり驚いたりするのかと思っていたのだが、至って普通だった事に違和感を感じた。
2人自身は甘い雰囲気を出していた事に気付いていないのかもしれない。そう思った彼は、まだハデス様にも入り込む隙があると踏んだ。

「お2人に話しがあって来ました。」

「話しですか?」

ミカエルが警戒した顔になる。

「ハデス様の弟君ヴェルディス様の話しは聞きましたか?」

2人は顔を見合わせ頷いた。

「今日、そのヴェルディス様を見張っていた偵察部隊の者からヴェルディス様が姿を消したと連絡が入りました。」

「姿を消した?」

「えぇ、突如消えたように。」

「それは誰かに消されたとかではなく?」

「それは考えられないでしょう。今彼に敵うとすればハデス様か、ご存命であればカイエン様ぐらいです。簡単に殺されるような相手ではありません。」

「ではなぜ?」

「何か行動を起こそうとしている。これが我々の考えです。」

サイレーイスとしてはフローラと話しがしたかったのだが、口を開くのはミカエルである。サイレーイスは内心イライラしていた。

「何か行動をとは?」

「分かりません。良からぬ事が起こるかもしれないとしか。そこでです!!」

サイレーイスはわざと大きな声を出すとフローラの方へ身体を向ける。

「あなた方人質の皆様も命を狙われる危険が存分にあります!ハデス様はそれを心配して、私にその旨皆様に伝えるようおっしゃりました。」

フローラはサイレーイスの迫力に驚きながら彼の話しに聞き入っている。
サイレーイスはその時思った。

(この娘、私を見ても頬を染めていないか?)

見間違いかと思ったが、確かに頬が赤い。
サイレーイスはコテリと首を傾げた。彼のその可愛らしい仕草を見てフローラの顔はさらに赤くなる。

(あぁ、この娘、ミカエル殿に恋をしている訳ではなく、この系統の顔が好きなのかも知れないな。)

自分を見つめるフローラの顔を見てサイレーイスはそう感じた。
一見線が細そうに見えるが、筋肉がしっかり付いている美青年。
サイレーイスとミカエルを比べれば、ミカエルの方が男臭さがあるものの系統は同じであろう。
そして、ハデスとは系統が全く違う。
その事実を知ってサイレーイスは頭を抱えそうになる。

(ハデス様は元はと言えばこの様なタイプの女性は嫌いだったはず。恋の成就の足掛かりに、ハデス様よりフローラ様を好きになった経緯を聞くことにするか。)

「とりあえず気を付けるように。外にも勝手に出ないように。お願い致しますね。」

「しかし、サイレーイス様、ナタリー様が朝から1人で出かけてしまったのですが!」

サイレーイスの言葉にフローラが弾かれたように立ち上がり不安な顔を見せた。
サイレーイスはここだとばかりにフローラを見つめ安心させるように優しく、そして心に残るよう丁寧に説明する。

「それなら問題ありません。ハデス様が直々にナタリー様を探しに行きました。あなたの大切な友人ですからね。必ず無事に連れて帰られる事でしょう。」

「ハデス様が?」

「そうです。あなたの大切なナタリー様ですからね。あなたに悲しい思いをさせないよう、それは全力でお守りして連れて帰る事でしょう。」

「そうですか。良かった。」

フローラは安堵し嬉しそうに微笑んだ。サイレーイスはその顔を見て手応えを感じたのだが、当の本人はハデスがナタリーをお姫様抱っこしながら帰って来る妄想をし頬を染めていた。
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