人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

文字の大きさ
上 下
16 / 78

初恋

しおりを挟む
『ハデス様?ハデス様聞いてますか?』

サイレーイスは今日何度目かの言葉を口にした。
昨日の夕方からハデスの様子がおかしかったのだが、サイレーイスには心当たりが無かった。

『あぁ、聞いている。』

『大丈夫ですか?やはり少し横になった方が良いのでは?』

サイレーイスは心配してそう言ったのだが、ハデスの眉間に深いシワが寄った。

『大丈夫だ。体調ならばすこぶる良い。何ならここ数年で一番元気なぐらいだ。』

『そうですか。それならば良いのですが、、。』

サイレーイスは尚もハデスの顔色を伺った。確かにハデスの言う通りいつもより顔色は良く、しかも魔力も身体の隅々まで行き渡ったおり、ここ数年で一番というのもあながち嘘ではないように思えた。
ならばなぜこんなにも上の空なのかと首をひねる。

『それで?何の報告だ?』

『ですから、ヴェルディス様が行方をくらましたと。』

『何!?それは緊急事態ではないか!!』

『ですから、先程からそう言っています。』

『しかし、ヴェルディスほどの魔力の持ち主がどうやって消えたというのだ。あり得ん。』

ヴェルディスが魔物の住む国を飛び出してから、彼の居場所を把握する為にこっそりと見張りを付けていたのだ。それを振り切り姿を消したとなれば、彼が今どこにいるかもう知るすべは無かった。今、彼が姿を消したという事は人間達を滅ぼす為に何かしらの行動に出たという事だ。
ハデスに緊張が走った。

『この事を皆には知らせたのか?』

『はい。各地に伝令を出しました。城の者達にも伝えております。』

『そうか、ご苦労だったな。引き続き偵察部隊を出し、ヴェルディスの行方と人間達の監視を頼む。』

『はい。あのバゼルハイドという男も曲者のようですからね。』

『あぁ。この事人質の3人には知らせているのか?』

『いえ。必要でしたか?』

サイレーイスは不思議そうな顔で首をひねった。なぜ人質の者達にヴェルディスが行方をくらませた事を知らせる必要があるのか分からなかったからだ。

『必要でしたか?だと!!当たり前であろう!!今すぐに、、嫌、私が行こう。3人は今どこにいるんだ?』

『えっ!?あっ、はい!えーっとですね、ナタリー様は家へ行って来ると言って朝出かけました。フローラ様とミカエル殿は、ミカエル殿が訓練に参加しているので我が軍の訓練場の方でいます。』

怒られると思っていなかったサイレーイスは慌てながらしどろもどろに説明した。
その最中もハデスの機嫌はどんどん悪くなっていく。

『ナタリーが家へ!?家とはなんだ!?何でそいつは毎日出かけてるんだ!?』

ハデスは大声でサイレーイスを怒鳴った。その飛び上がる程の怒号に彼は慌てて平伏し謝る。

『申し訳ございません。出入りは自由にとおっしゃっていましたので、特に行動を止める必要は無いかと思いました。家とはナタリー様が生まれ育った家の事です。人質3人の出身国はここなので、、。』

青い顔でペコペコしながら話すサイレーイスを見て、ハデスは我に返った。バツが悪そうな顔をしながらサイレーイスに片手を上げる。

『嫌、悪かった。怒鳴るつもりでは無かった。』

『ハデス様?』

『ハァー、何でもない。ナタリーの所へは私が行こう。お前は残りの2人に伝えておいてくれ。あと、街に見張りに行く者に、街の人間達にも伝えておくよう言っておいてくれ。』

『分かりました!しかし、ハデス様、ナタリー様の所へ直々に行くのですか?』

このクソ忙しい時になぜ?という言葉を、サイレーイスは飲み込む。

『あぁ、少し自由過ぎるゆえに釘を刺しておく。それに魔族の馬の使い方を知らぬようだからな、指導してくる。』

『はぁ、、。では、私は2人の元へ行ってきます。』

『頼んだ。フローラ嬢に危険が及ばぬよう気を付けてくれ。』

『???分かりました。』

サイレーイスは頭にハテナを作りながら訓練所へと向かった。
しかし、頭の良い彼は直ぐに気づいて吹き出した。

『そういう事ですか。どちらの令嬢を気に入ったのか分かりませんでしたが、フローラ様の方でしたか。それにしても、ハデス様のあの狼狽えようを見る限り、初恋でしょうか?ハァー、怒鳴られたのはとばっちりですね。』

サイレーイスは深いため息を吐く。

『やれやれ、あの様子では中々進展はしないでしょう。私が人肌脱ぐしかないようですね。』

謀り事が大好きな彼は黒い笑顔で笑った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

処理中です...