5 / 78
出航
しおりを挟む
次の日の朝、私が甲板に出るとミカエルが木刀を持ち素振りをしていた。
もう薄っすらと汗をかいているので、朝早くから鍛錬をしていた事が伺える。
その努力する姿とキラキラと光る美しい金の髪が相まって、何だか神々しく見えた。
「ミカエル、おはようございます。」
私が声をかけるとミカエルは素振りをやめて笑顔を見せた。
後ろでフローラがポーッとした顔をしている。隠しているつもりのようだが、彼女が筋肉フェチな上に美少年が好きな事を私は知っている。きっとミカエルの容姿はストライクゾーンドンピシャなのだろう。
私が振り返りニヤリとした顔でフローラを見ると、私の意図に気付きフローラの顔は真っ赤になった。赤い髪と合わさってゆでダコ状態である。
その様子を見た私は、凶悪な顔に屈強な身体の男が私の好みだという事を今後フローラからかわれることは無いだろうと安堵した。
「ミカエル、
「フローラをお願いします。彼女は私と違って普通の女の子だから。」
「それは良いけど、お前だって少し強いだけで普通の女の子だろ?」
ミカエルの言葉にフローラが大きく頷き加勢してくる。
「そんな事無いよ。コイツまあまあ化け物だから心配すんな!」
大丈夫と私が口を開く前に、ポンッと音を立てて現れたカイエンがそう言い放った。
「誰がバケモンよ!!」
怒る私にカイエンはニヤリと笑う。それは秘密を暴露するのを楽しむ悪ガキの様な顔だ。
「コイツ、激強の魔物並みに魔法が使えるんだよ。」
「「えっ!!??」」
その言葉を聞いたフローラとミカエルは、同じ様な顔で驚きそして固まった。
ってか、激強って何よ!?私は心の中でツッコミを入れる。
この世界で魔法が使えるのはそれほど驚くべき事ではない。
しかし、人間で魔法を使えるのは一部の者だけだ。
使えても激強の魔物ほど使えるとなると、騎士団に所属する極一部の先鋭達だけだろう。
そしてそれが魔物との戦争で人間達が敗北した大きな原因であった。
魔物は種族に関わらず、皆魔法が使える上に魔力量も桁外れに多い。
魔物達の先鋭をよりすぐれば、数人だけで人間を殲滅する事が出来るだろう。
それほど歴然の差があった事が、今回判明したのだ。
生まれつき魔力量の多い魔物達と違い、人間は魔法の腕を磨かなければ魔力量が増えていかない。
騎士団の先鋭達が強いのは、魔法の腕を磨き続けているからだ。
ただの令嬢がそれに匹敵するほど、いやそれ以上に魔法が使えるなどと聞けば普通の人は驚いて当然である。
「それは、、カイエン様と契約しているからですか?」
フローラが恐る恐る聞いた。
「いや、元はと言えば、コイツの魔力に引き寄せられてコイツと出会ったんだ。ガキの頃からコイツの魔力量は桁外れだったよ。」
カイエンの言葉にフローラとミカエルがまた驚いた。
ギギギギッと音がするのでは?と思うほどぎこちない首の動きをして、私の顔を見てくる。
「もう、2人とも大げさですよ?カイエンが大袈裟に言っているだけなのだから気にしないで!!で?そんな事よりミカエル!あなたはフローラを守ってくれるんですよね!?」
「えっ?あっ、、はい。てか、もう隠し事は無いのか?」
半眼で見つめてくるミカエルに私は腕組みに仁王立ちで答えた。
「ありません!」
ハッキリそう答えたにも関わらず、2人にジト目で見つめられ居心地悪くなり、その場をそそくさと後にした。
「もう、隠し事なんて無いのに!」
プリプリと怒りながら廊下を歩き、ちょうど朝食時だった事を思い出した私は、コックを手伝いに厨房へと向かった。
貴族の令嬢は普通家事は出来無い。
はしたない事とされていたからだ。
嫁入り前の嗜みとして、侍女として位の高い人に仕える事はあるが、洗濯、料理といった事までは普通しない。
実家にお金が無いとなれば話しは別なのだが。
私は小さな厨房で忙しなく動き回るコックの横に立った。コックのルフランは自然に私を受け入れてくれる。
最近40歳になったルフランという名のこの男は、我が家のお抱えコックだった。
彼は私達と一緒に逃げていたのだが、今回人質として故郷へと帰る私に付いて行くと申し出てくれたのだ。
そしてそんな彼の横で料理を手伝うのは私の昔からの日課だったのだ。
「今日は何にするのルフラン?」
ルフランは彫りの深いラテン系の男である。
彼は20歳で結婚したのだが、妻を30歳の若さで亡くし、それからは誰とも関係を持たず妻を愛し続けている、、、と私はそう思っていた。
どうやら、知らぬ所で遊びまくっていたらしい。お母様に、あの色香にやられて手を出されない様にと注意された時には、驚き過ぎてドン引きしたものだ。
「サンドウィッチにしますね、お嬢様。」
ルフランにウィンクされて私の胸はドキリと跳ねる。
ここ数日忙しかった為か無精髭が生えたワイルドな彼に私の心は鷲掴みだ。
「ルフラン、あなたわざとやってる?」
私が睨むとルフランは笑った。
「お嬢様が可愛らしいからですよ。」
「、、ルフラン、あなた熟女好きだったわよね?」
「フフフッ、お嬢様、私の守備範囲は海より広いのですよ。」
「、、、それ自慢になるの?まぁ、良いわ。皆がお腹空かして来る前に作りましょうよ。」
「そうですね。」
軽口を叩いていると昔に戻ったみたいである。だからこそこんな事を口に出してしまったのかもしれない。
「お父様とお母様はどうしているかしら?」
「、、お嬢様。」
一瞬空気が凍ったような気がした。しかし、ルフランはいつものようにヘラッと笑いながら言った。
「あの人達の事です。上手く生き延びて今頃新しい事業を立ち上げているかもしれませんよ?」
ルフランは私を元気付ける為にそう言ったのだが、2人を思い出せばあながち間違いではないような気がした。
「そうね。そうかもしれないわ。」
また穏やかになった厨房で、ルフランの鼻歌が聞こえていた。
もう薄っすらと汗をかいているので、朝早くから鍛錬をしていた事が伺える。
その努力する姿とキラキラと光る美しい金の髪が相まって、何だか神々しく見えた。
「ミカエル、おはようございます。」
私が声をかけるとミカエルは素振りをやめて笑顔を見せた。
後ろでフローラがポーッとした顔をしている。隠しているつもりのようだが、彼女が筋肉フェチな上に美少年が好きな事を私は知っている。きっとミカエルの容姿はストライクゾーンドンピシャなのだろう。
私が振り返りニヤリとした顔でフローラを見ると、私の意図に気付きフローラの顔は真っ赤になった。赤い髪と合わさってゆでダコ状態である。
その様子を見た私は、凶悪な顔に屈強な身体の男が私の好みだという事を今後フローラからかわれることは無いだろうと安堵した。
「ミカエル、
「フローラをお願いします。彼女は私と違って普通の女の子だから。」
「それは良いけど、お前だって少し強いだけで普通の女の子だろ?」
ミカエルの言葉にフローラが大きく頷き加勢してくる。
「そんな事無いよ。コイツまあまあ化け物だから心配すんな!」
大丈夫と私が口を開く前に、ポンッと音を立てて現れたカイエンがそう言い放った。
「誰がバケモンよ!!」
怒る私にカイエンはニヤリと笑う。それは秘密を暴露するのを楽しむ悪ガキの様な顔だ。
「コイツ、激強の魔物並みに魔法が使えるんだよ。」
「「えっ!!??」」
その言葉を聞いたフローラとミカエルは、同じ様な顔で驚きそして固まった。
ってか、激強って何よ!?私は心の中でツッコミを入れる。
この世界で魔法が使えるのはそれほど驚くべき事ではない。
しかし、人間で魔法を使えるのは一部の者だけだ。
使えても激強の魔物ほど使えるとなると、騎士団に所属する極一部の先鋭達だけだろう。
そしてそれが魔物との戦争で人間達が敗北した大きな原因であった。
魔物は種族に関わらず、皆魔法が使える上に魔力量も桁外れに多い。
魔物達の先鋭をよりすぐれば、数人だけで人間を殲滅する事が出来るだろう。
それほど歴然の差があった事が、今回判明したのだ。
生まれつき魔力量の多い魔物達と違い、人間は魔法の腕を磨かなければ魔力量が増えていかない。
騎士団の先鋭達が強いのは、魔法の腕を磨き続けているからだ。
ただの令嬢がそれに匹敵するほど、いやそれ以上に魔法が使えるなどと聞けば普通の人は驚いて当然である。
「それは、、カイエン様と契約しているからですか?」
フローラが恐る恐る聞いた。
「いや、元はと言えば、コイツの魔力に引き寄せられてコイツと出会ったんだ。ガキの頃からコイツの魔力量は桁外れだったよ。」
カイエンの言葉にフローラとミカエルがまた驚いた。
ギギギギッと音がするのでは?と思うほどぎこちない首の動きをして、私の顔を見てくる。
「もう、2人とも大げさですよ?カイエンが大袈裟に言っているだけなのだから気にしないで!!で?そんな事よりミカエル!あなたはフローラを守ってくれるんですよね!?」
「えっ?あっ、、はい。てか、もう隠し事は無いのか?」
半眼で見つめてくるミカエルに私は腕組みに仁王立ちで答えた。
「ありません!」
ハッキリそう答えたにも関わらず、2人にジト目で見つめられ居心地悪くなり、その場をそそくさと後にした。
「もう、隠し事なんて無いのに!」
プリプリと怒りながら廊下を歩き、ちょうど朝食時だった事を思い出した私は、コックを手伝いに厨房へと向かった。
貴族の令嬢は普通家事は出来無い。
はしたない事とされていたからだ。
嫁入り前の嗜みとして、侍女として位の高い人に仕える事はあるが、洗濯、料理といった事までは普通しない。
実家にお金が無いとなれば話しは別なのだが。
私は小さな厨房で忙しなく動き回るコックの横に立った。コックのルフランは自然に私を受け入れてくれる。
最近40歳になったルフランという名のこの男は、我が家のお抱えコックだった。
彼は私達と一緒に逃げていたのだが、今回人質として故郷へと帰る私に付いて行くと申し出てくれたのだ。
そしてそんな彼の横で料理を手伝うのは私の昔からの日課だったのだ。
「今日は何にするのルフラン?」
ルフランは彫りの深いラテン系の男である。
彼は20歳で結婚したのだが、妻を30歳の若さで亡くし、それからは誰とも関係を持たず妻を愛し続けている、、、と私はそう思っていた。
どうやら、知らぬ所で遊びまくっていたらしい。お母様に、あの色香にやられて手を出されない様にと注意された時には、驚き過ぎてドン引きしたものだ。
「サンドウィッチにしますね、お嬢様。」
ルフランにウィンクされて私の胸はドキリと跳ねる。
ここ数日忙しかった為か無精髭が生えたワイルドな彼に私の心は鷲掴みだ。
「ルフラン、あなたわざとやってる?」
私が睨むとルフランは笑った。
「お嬢様が可愛らしいからですよ。」
「、、ルフラン、あなた熟女好きだったわよね?」
「フフフッ、お嬢様、私の守備範囲は海より広いのですよ。」
「、、、それ自慢になるの?まぁ、良いわ。皆がお腹空かして来る前に作りましょうよ。」
「そうですね。」
軽口を叩いていると昔に戻ったみたいである。だからこそこんな事を口に出してしまったのかもしれない。
「お父様とお母様はどうしているかしら?」
「、、お嬢様。」
一瞬空気が凍ったような気がした。しかし、ルフランはいつものようにヘラッと笑いながら言った。
「あの人達の事です。上手く生き延びて今頃新しい事業を立ち上げているかもしれませんよ?」
ルフランは私を元気付ける為にそう言ったのだが、2人を思い出せばあながち間違いではないような気がした。
「そうね。そうかもしれないわ。」
また穏やかになった厨房で、ルフランの鼻歌が聞こえていた。
0
お気に入りに追加
199
あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる