人質となった悪役令嬢は魔王の元で幸せになれるのか?

たま

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悪魔の秘密

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私達は部屋には入らず、まだ見えぬ故郷を思いながら広い海を眺めていた。

魔王より指定された港へ行くには丸一日ほどかかる。そこは私のお父様が国より任され治めていた領地内にある港であった。

我が領地は、ハーベスター王国の中でも一番と言って良い程栄えていた。
海に面しているので他国との貿易も盛んだったし、それに観光地としても有名だった。それだけでも十分財政は潤っていたのだが、少し行けば広大な農園も広がっており、そこで珍しい高値で取引される農作物やワインなどの加工品も生産されていた。
お父様の領地を自分が治めたいと王様に進言する貴族が後を絶えなかったいう。

しかし、その潤沢な資金を狙いゴロツキや海賊等の襲撃も度々で、お父様の手腕があったからそこ領地が豊かで平和であったのだと私はそう思っている。

そんな領地が、住む人を失い廃れてしまったのを想像すると、私の心は沈んでいった。

「ナタリー様聞いても良いか?」

振り返るとミカエル様が後ろに立っていた。彼は先程私に丁寧な言葉使いをしていた気がしたのだが、もうやめたようだ。

「どうしたのですか?」

私とミカエル様が話し始めると、心配そうな顔をしたフローラも近付いてくる。

「悪魔を使役すると身体の成長が遅くなるのか?」

ミカエル様は私の身体を上から下まで眺めた後、何か思う所があったのか気まずそうに目を逸らした。
何となく腹が立ったが、それを顔には出さずに私は説明した。

「悪魔と契約をした者は、普通すぐ願い事を叶えて貰って契約解消になるんです。」

「そうそう。」

カイエンが私の肩に乗ると、必要以上に頷いてくる。

「普通はすぐ何か願い事を言うのに、コイツは出会って13年、何の願い事も言わないんだ!お陰で俺はコイツから離れられずにずーっと側でいるわけ。」

「カイエン、、。あなたねぇ、、元はと言えば私に願い事など無かったのに、あなたが無理矢理契約して来たんじゃない!」

「そうだっけ?」

カイエンはとぼけた顔をしながら帆の上へと舞い上がって行った。

「逃げたな、、。」

ミカエル様がそのやり取りを見て大体の事情を察したのか苦笑いを見せた。

「それで?一緒にいると成長が遅れるのか?」

「あっ、えぇ、そうなのです。契約状態が長く続くと身体が少しずつ魔物化していくんですって。そのせいで寿命が延びた分成長もゆっくりになるみたいで、、。」

「それでお前そんなに小さいんだな。」

「、、、ミカエル様、、お前って、、さっきの騎士様はどこへ行ってしまわれたので、、?」

先程彼が片膝をつき私に忠誠を誓ったあの姿は騎士の鏡といえるものだった。

「あぁ?まぁ先は長いし、無理してボロが出るより自分らしく過ごす方が良いかなと思ってな。それにさっきはアルベルトやマリアの手前、お前を立てた感じにした方が良かっただろ?」

ミカエル様が悪戯少年のような顔で私にウィンクして来た。

「そうですね、、。途中で急に態度が変わるよりはその方が良いと思いますわ。」

「おぉ、物分かりが良くて助かる。お前も俺の事様付けで呼ばなくて良いからな。」

「、、分かりました。私もナタリーで良いので、、せめて名前を読んで頂けると嬉しいです。」

「分かった!ナタリーこれからよろしくな!フローラも!」

ミカエル様、、いえ、ミカエルが爽やかな笑顔で右手を差し出してきたので、私、そしてフローラも彼と握手を交わした。
ミカエルの変貌ぶりにはガッカリだったが、これから大変だろう日々を目の前にミカエルと信頼関係を築けたのは私にとって大きな前進と言えるだろう。

その日の夜、船の一室で眠りについていた私は、頬をつねられたような痛みで目が覚めた。

「ん、、ん?」

暗い船内で目を覚せば何も見えない。しばらくして目が慣れてくると、目の前にカイエンの顔が現れた。どうやらカイエンが私の頬をつねっていたらしい。

「何?」

側で眠るフローラを起こさないように注意を払いながらカイエンに話しかる。

「おぉ、ちょっとな。」

そう言いながら彼は手の平に小さな星を生み出す。
船内が少しだけ明るくなり、彼の顔がハッキリ見えるようになった。
カイエンが私の膝上辺りに移動したので、私は渋々と体を起こし話しを聞く体制になった。

「それで何?」

「あぁ、、これからお前ら魔王のトコへ行くんだろ?」

「えぇ、そうだけど?」

「そっか、、。俺さ、しばらくお前から離れるわ。」

カイエンは頭をポリポリと掻きながら気まずそうにそう言った。

「ん?契約解消してくれるの?」

「目を輝かして言うな!違うから!」

「チョット声が大きい!!フローラが起きたらどうするの!?」

「いやいや、お前の方が大きいから。」

カイエンに半眼で睨まれ私は慌てて自分の口に手を当てた。横を見るとフローラが規則正しい寝息を立てていたので、ホッと胸をなでおろす。

「それで?何で急に?」

「俺さぁ、魔王の義理の兄にあたるわけ。」

「はっ?」

「だから、異母兄弟なの魔王と!」

「本当に?」

「マジマジ!俺嘘付かないだろ?」

私はカイエンの目をしばらく凝視した。しょうもない嘘は良く付くのだが、こんな大事な場面で嘘を付くような奴では無いと思う、、多分。

「分かった。信用するわ。魔王と異母兄弟だとして私から離れる理由は?」

「その顔、、信用してないだろ?まぁ良いや。俺と魔王ハデスは仲が悪い訳よ。俺は別にアイツを嫌いって訳じゃないんだけど、俺派だのハデス派だの周りが囃し立てるからよ。それで何か溝が出来ちまって。」

「そう、、。」

「ん?信じる気になったのか?」

「一応は、、でも、あんたが偉い人だなんて、、やっぱり嘘なんじゃないの?」

「はぁー、まぁ良いや。とりあえず俺はお前から離れるから、何かあれば心の中で俺を呼べ。」

「ねぇ、この機会に契約解消するのはどう?」

「、、それはダメ。俺はお前が必要だから。」

カイエンが珍しく真剣な顔で私の目を見る。何だか居心地が悪くなり私は目を逸らし、どうでも良い話しを振ってみた。

「ハデス様はあなたに似てるの?」

「いや、全然。似ても似つかない。」

「そんなに?」

「あぁ、俺は今時の美形って感じだろ?」

「それ自分で言う?」

だが確かにカイエンは女性にモテる顔をしている。
切れ長な二重の目は長い睫毛に縁取られ、その中にはルビーの様に美しい瞳が収まっている。そして鼻筋の通った高い鼻にシュッと細い顎。
しっかりと筋肉が付いているがしなやかな身体、とても美しいのだが、、美しいのだが私の好みでは無い。

「おぉ、まあな。ハデスはどう言ったら分かりやすいかなぁ?俺を黒豹と例えると、、あいつは熊かな?」

「熊!?それはえらく可愛らしいのね。」

私がそう言うとカイエンは大袈裟げに首をブンブンと振った。

「可愛くない可愛くない!熊は熊でもピリピリした熊!山賊とか、海賊とか?目が合っただけで女子供なら泣きながら土下座してしまうぐらい怖い見た目な訳よ!」

「その話し詳しく聞かせて下さい!」

「「フローラ!?」」

カイエンがハデス様の事を力説していると、それに食いついたのはいつの間にか起き出して来ていたフローラだった。

「お2人の声が大きいので起きてしまいました。」

「ごめんなさい。」
「それはすまん。」

「いえ、良いのです。それよりもハデス様の見た目をもっと詳しく教えて下さい。」

「フローラ?」

私は首を傾げながらフローラの顔を見た。なぜ彼女がこんなにも必死でハデス様の見た目を聞いているのか分からなかったからだ。
カイエンも気圧されたのか少し焦った様子でフローラに説明し始めた。

「俺も長い事会ってないからな。えーっと、、俺と違ってガッチリしてる感じで、筋肉隆々みたいな?そういえば目は俺と似てるって言われてたなぁ。でも俺よりももっと睨みを利かせた感じの無愛想な奴なんだよ。背も高かったなぁ、、185は超えてたかなぁ?」

フローラがふんふんと真剣な顔で頷いた後に私の顔を見た。

「フローラ一体どうしたというの?」

「ナタリー様、、どうしましょう。魔王ハデス様はナタリー様の好みドンピシャじゃないですか、、。これは一目惚れの可能性もあり得ます、、。でも私達は人質な訳で、、」

フローラがブツブツと言いながら考え込んでしまった。

「ナタリーの好みにドンピシャって、コイツの好みと言えばアルベルトみたいな優男だろ?どっちかと言えば俺寄りの顔じゃねえか?まぁ、アイツは俺ほどは格好良く無いけど。」

立てた親指を自分に向け得意げに話すカイエンに、フローラはあっさりと首を振ってしまう。

「いえ、カイエン様、アルベルト様の見た目はナタリー様の好みではありません。ナタリー様は昔からガッチリした凶悪な顔の男が好きなのです!」

「フローラ、、落ち着いて。私あなたにそんな事言った?」

「だってナタリー様が頬を染める相手はいつもそんな方だったじゃないですか!騎士団を引退したマークス様に、王様の右腕のガイア様、まだ言いましょうか?」

「、、いえ良いわ。そうね、、確かにそうね。」

「ナタリー、マジかよ。あんなに惚れてたのにアルベルトの容姿が全く好みじゃ無いって、、お前どんだけ面白いんだよ。」

「うるさいわね。しょうがないじゃない、好みなんて勝手に出来上がってるものなのだから。」

「それでナタリー様、私思うのですが、向こうでは私がナタリー様のフリをしようかと思うのですけど。」

「なっ!?何で!?そんなの私の方がどんな目に合わされるか分からないのに、そんな代役みたいな事させられないわよ。」

唐突にそんな提案をしてくるフローラに私は目を白黒させながらそれを否定した。

「いえ、聞いて下さい。ナタリー様はお強いのです。頭も良いし、しかもカイエン様という守って下さる方もいらっしゃる。」

私はカイエンを見た。コイツが守ってくれる?そんな事有り得ないのだが。

「色々動くにしても、私の立場でいる方がナタリー様が自由に動けると思います。きっとその方が私達が安全だと私はそう思ったのです。」

「フローラ、、」

「よしそれで行こう。俺もハデスの目が無い時はお前達に合流するからよ。」

私が悩んでいると、カイエンが爽やかな笑顔で勝手にそれを了承した。

「カイエン勝手に、、」

私はまだ納得していなかったのだが、私の目の前でカイエンとフローラが握手をして頷き合っていた。
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