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ラストダンス

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私は走っていた。
短いドレスが翻り、ただでさえ露わになった太ももが、さらに露わになる事もいとわずに。
ただ彼の元へ急いだ。

会場の入り口まであと少し。
私の視界に彼を捉えた。
もう何年も会っていなかった様な気持ちになり、涙が溢れた。
彼が私をどう思うか、ずっと怖かった気持ちは今はない。
彼に隠し事をし続ける事、その方がずっと怖い、それに気付いたから。

「イサキオス!」

私は息を整えて彼の名を呼んだ。
彼は私を見て息を飲んだ。
それはそうだ。男だと思っていた私が、ボロボロのドレスを来て女になって現れたのだから。

許しを請うために口を開こうとしたその時、無情にも最後の演奏が始まった。

彼は私の方へ真っ直ぐ歩み寄り、私の腕を取った。
何も言わず会場へと連れて行く。
彼の顔は見えない。
不安に胸が潰れそうになる。

彼は私に向かい合うと、腰を引き寄せ、手を重ねた。
ラストダンスは穏やかなワルツ。
彼が一歩を踏み出した。私は一呼吸遅れて続く。

しばらくして彼は優しく聞いて来た。

「本当の名前は?」

私は彼の美しい金色の瞳を見る。

「クリスティーナ、、クリスティーナ・バレンティア。」

彼は私の名前を聞くと頷いた。
きっとバレンティアの名前で悟ったのだろう。
脳筋化するはずだった彼の姿はもうどこにも無い。
私の目の前にいるのは、強く、美しく、そして努力家で聡明な私の大好きな人だ。

「クリスティーナ、俺はずっとこの気持ちを考えていた。好きと言うにはこの気持ちは重過ぎて、愛を語るには俺は幼い。でも、、でもこれが愛じゃないなら、、この気持ちが愛じゃないなら、きっと俺は生涯誰も愛する事など出来ない。」

私は瞬きもせずに彼を見る。
涙が溢れていた。

「クリスティーナ、あなたを愛しています。」

あぁ、彼は私を何1つ責めないのか。
私は、私は彼に何が出来る?こんな私に、、

「私も、私も愛しています。」

私のしなければいけない事。真実を口にする事。これからは真実だけを、、
涙が後から後から溢れる。

最後の曲が終わり、皆が優雅に向かい合いお辞儀する中、イサキオスは私の事を抱き上げた。

私は両手で顔を覆って泣いている。

「泣かないでくれ。俺はお前にもう泣いて欲しくない。」

私は顔から手を離し、彼の首に腕を回し抱きつく。
彼も私の背中を抱きしめた。
少しして、彼は私をそっと下ろす。
私の涙を手で拭いて、真剣な目で見つめる。
私達は触れるだけのキスをして、そしてもう一度長い長いキスをした。

周りの人達が拍手をして祝福してくれていたが、私達の耳には届かなかった。

あと少し、もう少し、、

私達は幸せなこの時間を惜しむように、長く抱き合った。
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