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出会い編

再会

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「フローラ様!フローラ様!!」

私を呼ぶ声がする。
朦朧とする意識の中で聞こえた声は、心配するようなそれでいて優しい、とても心地良い声だった。

「……アリス?」

「あぁ、良かった…。お嬢様、心配しました。」

少しずつ焦点が定まってくると、視界いっぱいアリスの顔が見えた。
可哀想なぐらい泣き腫らした目をしている。

「…心配?アッ、イタタタッ。」

そのアリスの姿に起き上がって彼女を労ろうとしたが、全身が痛くて起き上がる事が出来なかった。

「あぁ、急に動いては身体にさわります。フローラ様は3日間も寝たきりだったのですから。」

「…3日間?」

ポフッと柔らかい枕に頭を預け、眠る前の事を思い出そうとして、見た事のない天井だと気が付いた。
キョロキョロと目だけ動かして周りを見ても、やはり見覚えのない部屋のようだ。

「アリス、ここは?」

「覚えていらっしゃいませんか?フローラ様がロンドバース伯爵家に顔合わせに行った後、ダルトワ辺境伯様がフローラ様を助けて下さって。」

「……あっ!?」

お姫様抱っこで助けられ、ウトウトと眠ってしまった事まで思い出して私の顔はゆでダコの様に真っ赤に染め上がった。
もう恥ずかし過ぎて彼の顔は見れないかもしれない。

「思い出したようですね。あのあと本当ならば辺境伯様の領地へ移動するはずだったのですが、フローラ様の身体に負担だろうとの手配をして下さったのです。」

「…そうだったの。」

「もう二度とお目覚めにならないのではと…心配しました…。本当に良かったです。」

「…アリス。ごめんなさい。あなた…メルヴィス家を出て私について来てくれたのね。…本当にありがとう。」

私がお礼を伝えると、アリスは瞳から大粒の涙を流しながらコクコクと何度も頷いた。

「当たり前です。私の居場所はお嬢様のそば以外無いのですから…。」

「えぇ。…そうね。」

優しいメイドに手を握られ、また少し眠ってしまい、私が本格的に機能し出したのは次の日の朝のことだった。

「アリス、マグリッド様はどこにいらっしゃるの?」

少し身体が動かせるようになった私は、朝からお風呂に入れてもらい、さっぱりしたところで重湯を食べていた。
どの世界でも始めの食事は同じようだ。

「辺境伯様は領地を守るため、先に戻られました。私達に護衛を残して下さったので、フローラ様の体調が戻り次第その方達と辺境伯様の元へ向かう予定です。」

「そう。すぐに会えるわけじゃないのね。」

ホッとしたようなガッカリしたような、複雑な顔で頷いた私をアリスがニヨニヨと見つめてくる。

「な、何?」

「いやぁ、寂しそうな顔をしてらっしゃったんで。フフフッ。」

「なっ!?そ、そんな事ないわ!?私と彼の方は何の関係もないわけで!!」

「はいはい。」

まだニヨニヨと見つめてくるアリスの顔が見れなくて、意味もなく重湯をグルグルとかき混ぜてみる。

「良かったですね。」

揶揄う声ではない真剣なアリスの声で顔を上げると、アリスが心底嬉しそうな顔で笑っていた。

「アリス…。あなたは血の繋がりも無いのに、誰よりも私の事を愛してくれているわ。…本当に感謝しているの。」

アリスがいなければあの家で私は狂ってしまっていたかもしれない。
愛されず、蔑まれ、虐待され、アリスがいなかったらと思うだけで身体が震えてくる。

「フローラ様に助けられたという恩があるというのももちろんありますが…。フローラ様の人柄自体を愛してますし、それにフローラ様が妹と似ているので、余計に守りたいと感じているのかもしれません。」

「…そう。フフフッ。」

アリスに妹はいない。
今は没落したアリスの家とメルヴィス家は昔は仲が良く家族ぐるみで良く会っていた。
私とアリスは兄のハーネストに2人揃って虐められたのを覚えている。
アリスの両親が馬車の事故で揃ってこの世を去った時、お父様はアリスを助けなかった。
助けるふりだけして財産を掠め取り、アリスを売り払おうとまでしたのだ。
私は自分付きのメイドが欲しいと必死で訴えた。
お父様はアリスを売り払って出来るお金とメイド1人雇うお金を天秤にかけ、アリスはその日から私付きのメイドとなったのだ。

私を高貴な貴族の嫁に嫁がせようとお父様が目論んでいなければ、私付きのメイドなど与えてくれなかっただろう。
本当の意味で助けれなかった私などアリスの恩人でも何でもないのだ。

「妹の名前はチナって言うです。」

「…えっ?」

その言葉に私の身体は凍りついた。

「とても頑張り屋な子で、本当に可愛いかったんですよ?」

アリスは照れくさそうに笑っていた。
こちらでチナという名前は珍しい。
でも、アリスの近所で暮らしていた子の名前がたまたまチナだったのかもしれない。
その子を妹の様に可愛がっていたという可能性もある。
もしかしたら、この場を和ます為についたアリスの嘘かもしれない。
何個もの可能性があったのに、気付いたら私は叫んでいた。

「お姉ちゃん!!!」

だって、優しく笑ったその顔が、前世で私を愛してくれたお姉ちゃんそのものだったのだから。
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