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学園編

神様の言う事には ライズ視点

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「ハァー。」

リリーを避けてしまった。
確かに森の奥へ先に偵察に行くという任務を与えられはしたが、朝彼女に顔を合わす事は出来たのに。
朝早くエミリアから聞かされたのだ。
レイが俺の前世の話しをリリーに話したと。
エミリアは気にしてないみたいだったと言っていたが、そんな事あるのだろうか?
子供の頃からずっと一緒にいた奴が前世魔王だったと聞いて、気にしない人間などいるのだろうか?

いやリリーは気にしないと思う。
そんな確信も確かにあるのだが、それでも彼女の瞳に怯えの色が見えたらと思うと、今朝はリリーと顔を合わせる気にはなれなかった。

「ライズ、ため息なんかついてどうかしたのか?」

能天気な顔をしたザックがやって来たので、八つ当たりに殴ろうかと思ったが面倒くさくなってやめた。
殴ってもリリーの本心が聞ける訳じゃない。

「…別に。」

「えー!?相変わらずつれないヤツだな。仲良くやろうぜぇ~。」

「…うざい。」

中には俺の前世を知っていてもこうやって能天気に絡んでくる奴がいる。
あいつもそうだ。

「あっ、皆さんここでいたんですねぇ。いや、いたんだ。私も混ぜてくれよ。」

下手に敬語をやめたせいで変な喋り方になった阿呆勇者がニコニコと手を振りながらやって来た。

「阿呆が増えた。」

ただでさえ頭が痛いのに、阿呆はリリーだけで十分だ。

「ライズ、俺は一応先輩なんだぞ?阿呆はないだろ、阿呆は。確かにアイツは阿呆かもしれないが。」

何も知らないグラムがさらにニコニコしながら近づいて来る。

「こうやって遠出するのは初めてだね。いやぁ、こうやって見ると2人とも頼もしいなぁ!」

「…うざい。」

この能天気な男を誰かどこかへやってくれ。そう思いながら足を進めていると妙な気配を感じた。

「おい!!阿呆2人!!」

「「誰が阿呆だ!!」」

「来るぞ!!」

「「!!!???」」

そこに現れたのは黒い禍々しい亀裂。
その亀裂は徐々に広がっていく。

「皆戦闘体制を取れ!!!魔物が現れるぞ!!!」

ザックの一声でその場にいた者達は一瞬で隊列を組み替えていた。
流石に戦える者達だけを選んだだけはある。
俺は感心しながらも、魔力を全身に巡らせいつでも戦える様に準備をした。

最初の一体が姿を現した時、真っ黒でヒョロ長い姿をした気持ち悪い姿の魔物。その魔物はポカリと真っ黒な口を開けて咆哮した。

「グァァァァァアアア!!!」

それに応えるようにその場に無数の亀裂が発生したのだ。
そこから聞こえる凄い数の雄叫び。
皆は緊張に身体を震わせた。

「「「グァァァァァアアア!!!」」」

無数に裂け目が現れたのは予想外だったが、やる事は一緒だ。
俺は最初の一体にお得意の雷魔法を放っていた。

「おいどれぐらい経った?」

「えっ?15分くらいかな?凄いねライズ、余裕じゃん!」

「チッ、お前こそ余裕そうな顔だな。まぁ良い。向こうからも嫌な気配がしている。ここは俺に任せてお前あっちに行け。」

「あっち?」

俺が指差した方を見てグラムが青ざめた。それはリリーがいる方向だ。
本当は俺が行きたいのだが、広範囲に攻撃出来る俺がこの場に残り、確実に一撃で殺す事の出来る聖剣を持ったコイツを向かわせた方が良いのだ。

「リリーに何かあったらお前を殺すからな。」

真剣な俺の声にグラムはしっかりと頷いた。

「レイ…。」

グラムが移動する刹那、口に出したのはリリーではなくあのへんちくりんな人間の名前だった。
それがアイツの想い人なのか?
他に気になる奴がいるのにリリーに想いを告げようとしたのかと思うと、今から追いかけて殺してやろうかと思ったが、やめた。

「ライバルが減ったなら良いことではないか。」

俺は不敵に笑うと、残りの魔物達の掃除に取り掛かったのだった。

しばらく経ってその場にいる魔物達を全て殲滅した事を確認した俺は、リリーの元へと急いだ。

「リリー、ごめん。避けたりして…。」

どうして朝顔を見てから行かなかったのかと、今さらながら後悔で胸が締め付けられていた。
その時、巨大な魔力の衝突がその場に爆風を撒き散らした。
皆障壁を築き対応していたが、あまりの衝撃に吹き飛ばされる者や、その場に倒れ込むものが続出した。

「リリー!!!!!」

俺は急いで愛しい人の姿を探した。

「リリー!!!」

リリーは最後まで持ち堪えていたが、限界が来たのだろうパタリとその場に崩れ落ちた。
俺はすぐさま駆けつけ、リリーの身体を抱き起こした。

「…生きてる。」

顔色は悪いものの、しっかりと息をするリリーに心底安心し、彼女の身体をしっかりと抱きしめた。

「…愛してる。愛してるんだ…リリー。」

無性に彼女に伝えたくなって、眠っていると分かっているのに気付けば、何度も耳元で愛を囁いていた。

しかし俺はその時、唐突に思い出してしまったのだ。

神様との約束を。

「えー、生き返ってよ?」

真っ白な肌に真っ白な長い髪をした変な男が俺の前で転げ回っている。
まるで駄々をこねる子供のようだ。
よく見ればその男の肌には小さな鱗が生えているし、瞳も見た事ないほど美しく7色の光を放っていた。
こんな美しい、そして奇妙な男は魔王である俺も初めて見た。

「ねぇ、同胞が殺されてるんだよ?僕は直接手は出せないし。ねぇねぇ、生き返ってよぉ~。」

「…嫌だ。というかお前は誰だ。俺に意見するな。」

何となく神だという事は分かっていたが、その男の口から聞くまでは納得出来ない。こんなふざけた奴が神様であるはずがないと思う自分も確かにいるからだ。

「えー、分かってるのに何で聞くのぉ??僕神様だよぉ。凄い??ねぇ凄いでしょ??」

「…別に凄くない。」

「もう!!そんな事ばっかり言って!!あっ、忘れてた。ねぇねぇ生き返ってよぉ!!」

「…忘れてたのか。ハァー、絶対嫌だ。俺はもう疲れた。」

「…疲れたって。何が嫌なわけぇ??強いし寿命も無いし、最高の身体に作ってあげたのに。」

神は心底分からないという顔で首を傾げていた。

「戻ってどうする?勇者を殺して、攻め入って来た人間を殺すのか?その後は?人間がまた力を付けて来た頃に、俺達の国へと攻め入って来るだろう。俺はもうこりごりだ。終わりのない戦いに身を置き続けるのに飽きた。」

「…そんな事、今さら。」

神は少し悲しそうに呟いた。
自分と同じ不老不死のモノを失って悲しいのかもしれない。
神も孤独なのだろうと唐突に理解したが、それでも俺の考えは変わらなかった。

「…分かった。でも条件がある。君は今から人間として生まれ変わるんだ。」

「…人間に?」

「うん。その一度きりの人生を全うしたら、魂ごと消滅させてあげるよ。」

「…分かった。」

魔王として長い月日を生きて来た俺にとって、人間の人生などあっという間の出来事だろう。
それで消滅出来るなら安いモノだとこの時は思っていた。

「ただし、君に大切な者が出来たら、僕はそれを奪いに行くよ?君が今世で魔王として生き返らなかった罰を、僕は君に与えなければならない。」

「…大切なモノ。そんなもん…俺に出来るはずない。」

「そうかなぁ?まぁ良いや。覚えておいて。大切な者が出来たら。会いに行くからね?」

それが魔王だった俺が覚えている最後の記憶だった。
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