【完結】アイツとオレ

奈知

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教訓〜約束は、破るべからず〜

おしかけ(お仕掛け?)来訪者!

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光一と別れて家路を急ぐ。


もう大分陽もおちてきた。


そのとき!


もうすぐ家だという所で、息なり誰かに後ろから口を塞がれて羽交い締めにされた。


「んんーーーーーッッ!」


そのまま細い路地へズルズルと引きずり込まれる。


ウソ!オレ殺されるっ?


突然襲ってきた恐怖に、オレは力一杯手足をバタつかせた。


「んんーーっ!んむ・・っ」


「しっ。静かにしないと押し倒しちゃうよ?」


!?


こ、この声、まさか!


聞き覚えのある声の主を振り仰ぐと、薄暗い中でもよく映える美貌があった。


言わずと知れた新藤だ。


バッカヤロウ!寿命縮んだらどうすんだ!


心の中で叫んで、ギッとヤツを睨み付けた。


が。


「ね、遊利。静かにできるだろう?」


ヤバい!コワイ!


ニコリと笑った顔が妙に恐ろしくて、オレは素早く首を縦に振った。


何か、最近オレ、ビビらされてばっかだなぁ。


その大半がコイツのせいだけど。


オレが抵抗をやめると、口を塞いだ手を離して、そのまま、オレの身体を包み込むようにして抱き締めてくる。


その行為に急に緊張してきて、ドギマギしてしまう。


変だな?何か顔が熱いような気がする。


オレは無理に離れることはせず、そのまま言いたいことを言った。


「あのさぁ、突然背後から襲うのやめてくんない?癖なのか?コレ」


「ん?そんなの、遊利だからに決まってるだろ?好きなら抱き締めたくなるよ。そんなことより、思い出してくれた?」


新藤の言葉の意味を理解して、オレは頷いた。


「ああ。あおいだろ?お前の名前」


「良く出来ました」


そう言って、素早くオレの頬にキスしてきた。


うわっ!


チュッと音をたてて直ぐに離れたが、不意打ちのキスにオレは更に顔が熱くなった。


「だからっ!何でそういう事するんだよ?オレは女じゃないんだぞっ?」


新藤の腕から逃れたくて、もっともらしい理由をつけるが、背後で新藤がクスッと笑った。


「分かってるよ。そんなこと今更だろ?バカだなぁ遊利は」


クスクス笑いながら楽しそうにオレの顔に頬擦りしてくる。


楽しげな新藤に頬擦りされて、何だかちょっとだけこそばゆい。


まるで、なついている犬か猫に擦り寄られてる感覚だ。


自然と表情が弛んでしまう。


「新藤、コラ!ヤメロってば、もう!」


「蒼。だろ?可愛いなぁ遊利は。男か女かなんて関係ないよ。俺にとって遊利は全てだよ。ーーーだから、浮気なんかしたら、只じゃおかないよ?特に松井なんかと並んで歩いて欲しくないなぁ。ねぇ、遊利?」


あれ?楽しげな空気から、一転してどす黒い空気が・・・??


恐る恐る新藤の顔を見ると。


ひょええぇっ!


おおおお鬼がっ!


鬼がオレを睨んでいる~~!


こえぇよぉぉ、夢にみちゃうよ~~!


なまじ男前な分、かなり凄みがある。


似合いすぎる眼鏡の奥の瞳には、暗い炎が見えるようだ。


あまりの恐ろしさに、蛇に睨まれた蛙のように、カチン、と固まってしまう。


「ね、遊利。遊利は俺のものだろう?」


さっきの鬼のような顔がウソのように消えて、ニコリと笑顔になった。


けど、新藤の声色は答えないと許さないといっている。


いくら顔が笑っていようと、オレには鬼畜な悪魔に見える。


オレは恐ろしさにぎくしゃくと縦に頷いた。


だってこえぇんだよ?肯定するしかないじゃん!


ぜっっってぇコイツ、二重人格者だ!


くっそ~、コロコロ人格変えやがってぇぇ!


口にしたら今にも逆鱗に触れ、殺されそうだから、オレは心の中だけで悪態をついた。


オレってば小さい・・(泣)




問いかけに、オレが頷いた事を確認すると、ふっ、と空気が柔らかくなった。


ニコニコと笑顔でオレの頭を撫でる。


その雰囲気に、やっと身体の力を抜いて、緊張を解いた。


「じゃ、行こうか?」


新藤がオレの手を引いて歩き出した。


はっ?て、何処へ?


「ちょちょ、ちょっと待て!何処連れてく気だっ?オレは家に帰るんだぞ!」


突然の事にオレは焦りまくる。


「だから、遊利の家にいくんだよ」


「なんだそっか家に・・・・って、ええぇっ?なな何でお前がオレんちに行くんだよッ?」


「うん?細かいことは気にしなくていいから」


「気にするっ!離せぇぇ!」


新藤の手を引き剥がそうとしても。


くっ…、剥がれねぇ!


力の差が恨めしい!


ズルズルと引きずられて、オレの家の前で立ち止まると、新藤がさも当然のようにインターホンを鳴らした。


ガチャリとドアを開けて、母さんがにこやかな顔で出てきた。


「いらっしゃ~い!待ってたのよ蒼くん。上がって」


「今晩わ。今日はお招き頂いてありがとうございます」


「そんな遠慮しなくていいのよぉ。あら遊利、お帰りなさい」


「あ、うん。ただいま」


・・ってちょっと待て!


何だ?一体どういう事だ?何故母さんと新藤がこんなフレンドリーに?


驚きで、呆然としていると、母さんが呆れた声をあげた。


「あんた、何ボーッとしてんの。せっかく久しぶりに蒼くんが遊びに来てくれたんだから、早く部屋に通しなさいよ」


「って、え?いや、母さんコイツの事知ってたの?」


疑問を素直に投げかけると、更に呆れたように言う。


「何言ってんの!幼稚園の頃よく遊びに来てたじゃないの。そりゃ憶えてるわよ。人を記憶の怪しい老婆を見るような目で見て、嫌な子ねぇ。母さんそこまで年じゃありません!」


今年で四十になろうかというのに、見た目は二十代後半に見られるというオレの母親は、プイッとそっぽを向いてふくれている。


いや、そういう事じゃあなくてね。


てことは、あきらかに新藤とオレは仲のいい友達だったって事か。


本当にオレ、スッパリ忘れてたんだなぁ。


「ほら蒼くん、上がって上がって」


「おじゃまします」


若い、しかも絶世の美男子を前に、これでもかというようにはしゃいでいる。


ハァ・・。母さんあんた、テンション上がりすぎだろ。


早く早くと、新藤の手を掴んで、リビングに引っ張っていってしまった。


一人玄関に残されたオレは、無気力に家の中に入った。


「ハァ・・・・、着替えよ」


そのまま二階の自分の部屋に入り、バサッとカバンを投げ捨てて、ボフンとベッドに身を投げた。


母さんも憶えてるくらい仲良かったのか。


母さんが憶えてるのに、何でオレは覚えてなかったんだ?


しかも綺麗さっぱり忘れてた上、思い出せたのは名前とプロポーズしたって事くらいだ。


「オレ。何で忘れてたんだろ?」


「バカだなぁ遊利は。そんなの、俺ともう一度恋するために決まってるだろ?」


「ぅわぁぁッ!なっ、何してんだよ?勝手に人の部屋入ってくんなよっ!」


だから、気配ないんだってば!


お前は忍者かっ!


「おばさんが早く着替えて降りて来いって。なんだったら手伝おうか?着替え」


ニヤリと笑って近づいてくる。


オレは即座にブルブルと首を横に振った。


「いいいい、いいっ!自分で着替えるからっ」


「恥ずかしがることないだろ?遅かれ早かれ、そういう仲になるんだから」


そう言いながら、新藤はどんどんオレに近づいてくる。


「恥ずかしがってないッ!てか、そういう仲って何だ!ってうわあぁっ、来るな~!」


ワタワタと、四つん這いでベッドの上を逃げ惑うが、この狭い空間では逃げるところは限られている。


とうとう壁に追い詰められて、逃げ道が塞がれてしまった。


すぐ目の前に新藤の顔が近づいてきて、その綺麗な顔でじっとオレの顔を見つめてくる。


ううう・・、どうしよう!
額に嫌な汗が浮き出てくる。


怯えるオレを見て、新藤がプッと吹き出した。


「ウソだよ。可愛いなぁ、本当に」


クスクス笑いながら、素早くオレの鼻先にチュッとキスをして、新藤はベッドから降りた。


う・・・、ナチュラルすぎて文句言うタイミングが・・・・。


「早く着替えて降りておいで」


そう言ってオレの部屋から出ていった。


「つっ・・疲れる・・・・」


オレは脱力して深く息を吐いた。


着替えを終え、一階に降りると、リビングから母さんの楽しげな笑い声が聞こえてきた。


「本当、昔はあんなに可愛くてお人形さんみたいだったのに、こんなに男前に成長するなんて。男の子って分からないものねぇ。あ、そうそう、憶えてる?蒼くん。昔遊利がプロポーズしたこと」


あっ、あんのババ~ァッ!


なんちゅう話題を振るんだよ?


マズイ。今入っていったら、絶対弄られる!


「はい、もちろん」


「バカよねぇ?遊利ったら本気で蒼くんの事女の子と思ってたのよ?」


「それが遊利のいいところですからね」


くっ・・、二人して人の事バカバカ言いやがって!


「それでね?蒼くんが引っ越ししてからかしら、あの子に真実を言ってやったのよ。そしたら泣き崩れちゃって」


そういやあったなそんな過去。映像を巻き戻すように、だんだんと記憶が甦ってくる。


「その時のあの子のショックな顔ったら傑作だったわ~!あの子その時の記憶が何だかあやふやみたいだけど、別にいいわよねぇ」


ババァ~ッ!いたいけな幼児になんという仕打ちを!


だけど、思い出してきた。
あおいちゃんが男だと知って、すっげぇショック受けたんだ。その時の喪失感は例えがたかった気がする。


オレ小さかったから、ショックがデカすぎて、アイツの事忘れちまったんだ。


もし、その時の事をオレがしっかり覚えてたら、あの時のプロポーズは間違いだったと、もっと早くに説明できたかもしれないのに。


そしたら今頃オレと新藤は、昔のまま仲のいい友人でいられたかもしれない。


アイツも考えを改めたかもしれないのに・・・。


まぁ、過ぎたことを悔やんでも仕方ないけど。


とか思ってたら、とんでもない会話が耳に聞こえてきた。


「でも、蒼くんならおばさん貰いたいわぁ」


何ですとぉぉっ?


母さん、あんたはバカですかっ?


誰が男同士で結婚出来るかよ!


「喜んで。いつでもお受けしますよ」


コラァーッ、お前も何承諾してんだよ!


たまらずにオレはリビングに足を踏み入れた。


「何言ってんだ!男同士で結婚出来るわけないだろ?ったく、新藤も悪ノリしすぎだろ!」


肩をイカらせながら、入ると、母さんは心底残念そうに抗議してくる。


「え~?ダメなの~?いいじゃないの。幸い蒼くんもOKみたいだし、今時そういうの珍しくないって聞くし。大体プロポーズしたのはあんたでしょお?」


「そっ・・・、それは、だな」


オレ達親子のやり取りを、声を圧し殺して笑っているのが約一名。


「ソコ!笑わないッ」


オレは新藤に向かって、ビシッと人差し指を突き付けた。


その横から母さんが頬杖ついて、勝ち誇ったように言う。


「男に二言はなかったんじゃないのぉ?自分の言葉には責任もつのよねぇ?」


さすが母親。弱い所を突いてくる。


「ぐっ・・・・!」  


形勢不利だ。


言い返せねぇ!


「いいですよおばさん。ゆっくり口説きますから」


新藤が極上の笑顔で言う。


「もう、蒼くんったら」


冗談か本気か判断しかねる会話が飛び交う。


くっそ~、コイツら勝手なことばっか言いやがって!


「母さん、メシ!」


つっけんどんに言いはなった。


「まぁ、機嫌が悪い。やぁねぇ」


誰のせいだっつーの!


「じゃあご飯にしましょうか。蒼くん、遠慮しないで沢山たべてね」


ケッ!なぁにが「沢山たべてね」だ。


女ってのはいい男にはすぐコレだよ。


その後、食事を終えたオレ達は、久しぶりに話したい事が沢山あるからと言う新藤の一言で、二階の俺の部屋に行くことになった。




「お前さぁ、母さんの言うこといちいち間に受けんなよ」


「別に問題ないだろう?遊利は俺のものなんだし」


当たり前のような口振りにカチンとくる。


「誰がっ・・・!うわっ」


反論しようとしたが、いきなり腕を掴まれて引き寄せられた。


新藤の顔が間近にあって、思わず見つめてしまう。


やっぱ綺麗な顔してんなコイツ。


そんな目で見るなよ。


その綺麗な顔で見つめられたら、女の子じゃなくてもドキドキするんだってば!


「遊利が俺のものだってさっき確認したばかりだろう?忘れたとはいわせないよ」


さっき?どこでそんな確認・・?


あっ!そういえば・・・!


さっき新藤に路地に引きずり込まれた時に、あまりの恐怖に頷いてしまったんだった。


オレのバカァーーーッ!


「ね。遊利は俺のものだろう?」


もう一度確認してくる。


「や、でもホラ、母さんも言ってたろ?お前の事女の子と思ってたって。だからさ、あの時のプロポーズは無効って事で、な?」


よし!良い理由だ。オレ偉い!


自分自身を賛辞するが。


「だから、それは今更だって。それなら俺はどうして遊利に会いに戻ってきたんだろうねぇ。ね?」


逆に問い詰められてしまう。


ダメか、やっぱ。


オレが言うのも何だけど、コイツのオレに対する執着は半端ないもんなぁ。


それって将来の約束ってのを果たすため…だよなぁ、やっぱ。


オレが男だって分かっていながら、10年以上も想ってくれてたってのは、そりゃちょっとは嬉しいかな~、て気もするけどさぁ。


まぁ、ある意味オレが新藤の人生を半分潰したみたいなもんだもんなぁ。


はっきり言ってちょっと責任感じるんだよな。


いや、オレだって好きで忘れてたわけじゃないんだけどさ。


男同士で恋人にはなれない。


なのに、向けられるその一途な想いが、オレを困惑させる。


ここまで熱く思われると、相手が男なのに、それでもいいかと思ってしまう。


今時女の子でもここまで一途な子はいないかもしれない。


てゆうか、実際新藤って魅力的なんだよ。


男のオレがみてもうっとりするくらいだ。


じっと見られているのが、なんとなく恥ずかしくなって、オレは顔を背けてしまう。


ヤバい、やっぱオレほだされてる?


心なしか頬が熱い気がする。


そんなオレを見て、新藤が楽しそうにクスッと笑った。


「幼い頃の遊利は、本当にバカで可愛かった。今でも可愛いけどね」


新藤はそう言うと、背中に手を回して、更にグッとオレを引き寄せた。


「わわっ」


唇が触れ合うくらいピッタリと身体が密着して、思わず鼓動がドキンと跳ねた。


新藤の次の行動は、口にしなくても分かりきっている。


そのまま唇を重ねてきた。


「んっ・・」


どうしようオレ、抵抗しなきゃ。


でも、なんだろう。抵抗する気が起きない。


オレ、おかしくなっちゃったのかな?


新藤が唇を舌でこじ開けて、口腔をまさぐり始める。


あ・・。やっぱオレ、コイツのキス好きかも。


クチュリと舌が絡められる。


トロリととろけそうなくらいの甘いくちづけが、オレの思考を鈍らせる。


「っは・・・んっ」


オレの声もいつの間にか甘いソレに変わっている。


いったん唇を離して、新藤が囁いてくる。


「遊利、俺の事好きだろう?」


低く、甘い、良い声で囁かれて、ゾクリと身体が震えた。


へ?何が…?


もはやメロメロ状態のオレは、新藤の言葉も耳に心地良い。


「返事は?言わないとこのままだよ」


返事…?


完全に気持ちよさに翻弄されているオレは、早く新藤の甘い口づけが欲しくて、知らず頷いていた。


新藤が嬉しそうに微笑む。


そうしてまた、再び唇が重ね合わされた。


あまりに気持ち良くて、いつまででもしていたいとさえ思ってしまう。


ふ・・・と唇が離れた。


あ・・いやだ。


物足りなさに、オレは自然と追うように、自分から口づけていた。


新藤は直ぐにソレに応えて、今度はもっと深く口づけてくる。


何だか宙に浮いてるみたいに足下がフワフワする。


身体中の力が抜けていくみたいだ。


長い口づけがようやく離れた時には、オレは放心状態だった。




気が付くと、いつの間に眠っていたのか、オレはベッドの中にいた。


部屋の中は電気が消されていて、目が慣れてくるまでに時間がかかる。


「あれ~?オレ、いつベッドに入ったっけ?」


あやふやな記憶に首を傾げて、眠るまでの経緯を思い出す。


そのとたん一気にかぁっと顔が熱を帯びた。


「ヤッバー・・・・そうだった。あんときオレ、意識飛んでて・・・。ハァ~、どうしようオレ」


新藤とのキス、全然嫌じゃなかった。


つか、またしてぇとか思っちまう。


これで新藤にキスされたのは三度目だ。


その三度目にはあまつさえ自分から新藤にキス・・・ってぅわぁぁっ!オレってばなんちゅう事を!


自分の大それた行為に悶えてしまう。


とりあえずいったん落ち着こう。


起き上がろうとして、ベッドに手をつくと何かに手が当たった。


あれ?何かある。何だ?
手探りで形状を確かめてみる。


こっ、こここれはもしやっ!


バッと隣を見ると、新藤が穏やかな寝息を立てて眠っていた。


どどどどどゆことっ?


えーとえーと、つまりキスしたあと、オレ達は一緒にベッドで寝た・・・って事か!


ハッ!寝た?寝たって、ま、まさかっ?


慌て布団の中の自分の姿を確認する。


「ハァ~、良かった。ちゃんと服着てる」


何もされてないことを確認して、オレは安堵の溜め息をついた。


いくらなんでもそりゃないわな。


身体の関係なんか持ったらそれこそ後戻りできない。


オレ自身、自分の気持ちがあやふやなのにこれ以上考え事が増えるのは勘弁してほしい。


―それにしても、寝姿まで完璧ってどんだけ男前なんだよ。


何か腹たってきた。


よっしゃ!イタズラしちゃろ。


オレはベッドから降りると、机の引き出しから油性マジックを取り出した。


新藤の眠っているベッドの脇に立って、オレは悪い笑みを浮かべて、キラーン!とマジックを掲げた。


フッフッフッ、今までの不意打ちの数々。


よくもやってくれましたねぇ新藤くん。


その綺麗な顔が阿鼻叫喚に歪むのが目に見えるようだよ。


いざっ!


オレはキュポンッとキャップを外すとウキウキと新藤の顔にマジックを近づける。


どんな風にしてやろーかなぁ?


オレは出来上がりを思案する。


やっぱ両頬渦巻きは必須でしょう!


あとは~、髭かいてぇ~、デコシワもいるよな~。鼻の頭は黒く塗りつぶして~…。


仕上がりを思い浮かべて、オレは思わずブフーッと吹き出してしまう。


ヤバい!すっげぇ楽しくなってきた!


たまらん!この快感!


落書きする順番を決めたオレは、早速書き始めることにする。


マジックの太いペン先が、新藤の顔に触れるか触れないかと言うところで、新藤が目を開けた。


「ぉわぅひょう!」


オレは驚いて、思わずマジックを放り投げてしまった。


新藤がムクリと起き上がる。


あわわわわ!バレたっ?


心臓がバクバクいっている。


イタズラが見付かった子供のように、挙動不審になってしまう。


そんなオレを知ってか知らずか、新藤はニコリと微笑んだ。


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