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教訓〜約束は、破るべからず〜
出会いは必然だった?
しおりを挟む次の日、オレを待ち受けていたのは、どこか不機嫌そうな新藤だった。
「遊利、ちょっと」
オレの下駄箱の直ぐ隣に、スラリとした長身の、美と才を兼ね備えたような男が、腕組みをして有無を言わさない迫力でオレを連行しようとする。
ジリッと半歩後ずさってオレはゴクリと生唾を飲んだ。
ヤバい!今ヤツについていったらヒジョーにヤバい気がするっ!
しかし、オレの足はオレの意思を無視して前に進もうとする。
だから、ヤバいってぇオレッ!
自分自身を叱咤しながらも、オレは足を止めることが出来なかった。
連れていかれた先は、一番最初に屈辱を味わったあの体育用具室だった。
「こ、こんなとこに連れ込んで何の用だよ?」
警戒心はそのままでオレは新藤を睨み付けた。
いかにも何か起きそうな雰囲気に冷や汗がジットリと身体中に浮き上がる。
だが、新藤はニコリと極上の笑顔になった。
「昨日はあの子達と楽しんできたかい?」
斜に構えていたオレは、何だか拍子抜けしてしまった。
「ま、まぁな。オレとしては菜摘ちゃんが狙い目なんだけどな。向こうもオレの事気にしてたし。で、お前は誰狙ってんだよ?」
あのあとオレも新藤同様途中で帰ったんだから、別に進展などしていないが、つい見栄を張って大きく語ってしまう。
嘘も混じっているからか、自然と早口になってしまう。
「狙ってる?俺が狙ってるのは遊利だけだよ」
「っ・・!」
いつの間に近づいていたのか、新藤がオレの顎を鷲掴みにして、強引に口付けてきた。
「んんー~っ・・ふっ・・・んっ」
噛みつくように唇を重ねて、そのまま口腔内を新藤の舌が蹂躙する。
クチュリと舌を絡め取られると、だんだん頭の芯が痺れて、ぼぉ~っとしてくる。
何でだろぉ・・・、何でこんなきもちーんだろぉ?
前もそうだった。初めて新藤にキスされたときと同じ。
頭の芯からトロトロととろけそうな口づけに翻弄されて、何も考えられなくなる。
息苦しいくらいの口づけに、僅かにできる隙間から、オレは小さく喘いでしまう。
「はっ・・ぁ・・ん・・・」
朦朧とする意識の中で、新藤の声が何故だか切なく響く。
「遊利は、俺だけのものだ。誰にも渡さない」
そう言って、再びオレの唇を奪ったのだ。
完全に身体の力が抜けきってしまったオレは、そのままヘニャリと床にヘタリ込んでしまった。
「好きだよ」
耳元で新藤が囁いた。
そのセリフで一気に我に返る。
また!何でコイツの言葉はオレの胸を掻き乱すんだ?
男に想われたって嬉しくもなんともない!
嬉しいわけないんだよ。
でも、何でだ?
何でこんな胸が締め付けられるみたいな気分になるんだよ。
どうにも例えがたい感情に、自分で自分にイライラする。
その言い様のない思いを、オレは新藤にぶつけた。
「何でだよ!オレは男なんだぞっ?大体、あって間もない、オレの事良く知りもしないくせに何でそんな、すっ、す、好きとか言えるんだよ!」
そう言ったオレに、新藤はこれ以上ないってくらいの笑顔になった。
うっ!だからその笑顔はヤバイって!
新藤のこの顔を見てると、どうしてもドキドキと鼓動が速くなってしまう。
「それはね、遊利と俺は将来を誓いあった仲だからだよ。だから浮気なんてしようものなら、殺しちゃうよ?」
極上の笑顔で、サラリと恐ろしい事を言いやがった!
つうか、今、将来誓いあったって言ったかっ?
しかも浮気ってなんだっ!
身に覚えのない事を語られて、胸の苦しさも一気にぶっ飛んでしまった。
「あは・・・、あははは・・~」
オレは冷や汗びっしょりで空笑いを浮かべてしまう。
「えーっと、将来・・って、いつ誓ったかな?」
「うーん、幼稚園のころかな?」
「浮気ってなにかな?」
「愛し合うもの同士のどちらかが、どちらかを裏切ることかな?」
思考の噛み合わない恐ろしい会話に、段々と付いていけなくなり、オレはガクリと項垂れてしまう。
「つっ、つまり、オレとお前は、幼少の頃既に知り合っていて、その時に将来を誓いあったと?」
「うん、まぁそうだね」
ショックを隠しきれないままぐるぐると思考を働かせる。
じゃあ、オレは5歳やそこらで、しかも同性にプロポーズしたってのかっ?
つか、自分で言うのもなんだけど、何てマセたガキだ。
で、でも、そんなガキの頃に将来の約束をした相手なんて・・・・・??
!!!!???
そこまで考えて、ハタ、ど思い出した。
多分、一生思い出さない方が良かった事を、わざわざ思い出してしまった。
いた、確かにいた。将来を約束した子が。
でも、あの子は確か女の子だったはずじゃ・・・?
はっ!!
まっ、まさかっ・・!?
「な、なぁ?お前のフルネーム、なんだっけ?」
渇いた笑いを浮かべたまま訊ねると、新藤は更に笑顔になる。
「遊利は本当に記憶力ないなぁ。教えてあげないよ。ちゃんと自分で思い出してね」
そう言った新藤は確かに笑顔なんだけどぉっ。
あわわわわわ……。
目がっ、目が笑ってねぇ。
コエェよぉ~!
『キーンコーン、カーンコーン』
驚愕している俺の耳に、チャイムが鳴り響いた。
一瞬ビクッとして胸を押さえた。
びび、ビックリしたぁ~。
でも、何か逆に落ち着いてきたかも。
「ああ。一限目が終わってしまったな。じゃあ、遊利。じっくり思い出してね」
爽やかに笑って新藤は立ち去ってしまった。
その場に一人残されたオレは、とりあえず頭の中を整理する。
えーと、オレと新藤は幼稚園の時に出逢ってて、その頃オレ達は将来を約束したんだよな。
んでもって、当時のオレの記憶の中の女の子(微塵も疑ってなかった)と思ってたのが新藤だったって事か・・・。
「ハァ~・・、マジかよ」
衝撃の事実にオレは額を押さえた。
でも、それなら今までの新藤の言動にも合点がいくよな。
遊利と俺は結ばれる運命だよ。
「あぁ~ッ!!つったってなぁ~。オレ、ガキの頃のアイツの事は女の子だと思ってたしさ、大体あんないかにも女の子だった子があんな男前になってるなんて誰が想像出来るかよ?しかも性別まんま男だし?ここ男子校だし?間違いねぇし・・。はぁ・・・」
ため息ばかりが口から溢れる
考えても考えてもどうしたらいいか分からないまま、オレは二時限目の終業チャイムを聞くはめになるのだった。
打開策も見つからないまま次の授業を受
けるため、オレは教室へと足を運んだ。
重い足取りで教室に入り、自分の席に着くと、良平が声をかけてきた。
「遅かったなユウ。休みかと思ったぜ」
「良平か。んー、まぁ・・なぁ」
「そうそう、あれから結構あの子達と仲良くなってさ。また遊ぼうって言ってるんだけど、ユウ行くだろ?」
「んー・・。オレ、いいや。今回パス」
「なぁんでだよ?お前、菜摘ちゃんといい感じだったじゃん!」
誘いを断ったオレに、良平は不満たらたらのようだ。
正直、今はそんな気分じゃない。
今、問題なのは・・・・。
そう、何が問題かって。
一番の問題は、オレが新藤にプロポーズしちゃってるって事なんだよぉ~っ!
いくらガキの頃の約束ったって、女の子だと思ってたからって。
オレが男だって分かってる筈なのに、相手は思いっきりマジなんだし。
やっぱ、責任取れって事なんだろうか?
「はあぁぁぁっ・・」
魂まで一緒に出てきそうなでっかいため息が出る。
そういや、新藤の名前。昔聞いた覚えがある筈だけど・・。
えーっと、なんだっけ~。
必死に昔の事を思い出そうとするオレの頭の中に浮かんだのは途切れ途切れの言葉。
・・・・いちゃん。
??なんだっけ?ゆいちゃん?いや、あいちゃんだったか?
・・お、い・・・ちゃん
そうそう!あおいちゃんだ!
思い出した思い出した。
はぁ~、スッキリしたぁ~。
・・て、そうじゃねぇだろオレ!
んなこたぁどーだっていいんだよ!
思わず自分で自分に突っ込みを入れてしまう。
とにかく、これからどうすればいいのか考えねぇと。
でも、アイツ、10年以上もオレのこと想ってたんだ。
感心しながらも、その一途さにちょっとだけ胸が熱くなった。
でもオレ、男と付き合うのはちょっとなぁ~・・。
こんなわけわからん問題、無視しておけばいいんだろうけど、ガキの頃から自分の言ったことには必ず責任を持つという事をモットーとしているオレは、妙に真面目に考えてしまう。
て、オレってば損な性格。
トホホ・・・。
考えるのに疲れてしまったオレは、机の上にぐたりと突っ伏した。
「おーいユウ、生きてっかー?」
「ん~、死んでる」
良平に頭をツンツンと突つかれるが、反撃する気にならない。
「なぁ、ところでさ、光一のヤツ、何か変なんだよな。お前何か知ってる?」
え?光一?
光一という名前を耳にしたとたん、ギクリと身体が強張った。
昨日の一件以来、光一とは一度も顔を合わせていない。
新藤はともかく、光一は何考えてるのかさっぱりわからん。
オレの事を好きだと言ってみたり、かと思ったら女の子達と合コンしてみたり。
いや、新藤もやってることは一緒なんだけど、アイツは合コンはついでみたいな感じだったし、それに、アイツの方がオレへの想いに真剣ていうか、あの一途な想いに引き込まれるっていうか、ほだされるっていうか・・・。
イヤイヤ、引き込まれるって何だ!
ほだされてどぉすんだよ!
そんなんまるで・・。
そこまで考えて、オレは重大な事に気付いてしまった。
やややややばいっ、もしかしたらオレ、相当鈍い?
いや、でもそれはマズイだろオレ!
だって、男同士だぞ?
男なんて冗談じゃねぇし、オレ、女の子大好きだし!
でも、新藤美人だし、キスもめちゃくちゃ気持ちいいし。
光一と新藤だったら、間違いなく新藤の方が・・・って、違ぁ~~うっ!
何考えてんだオレは!
「ユウ?お前、何さっきから百面相してんの?」
頭を抱えて、赤くなったり蒼くなったりしていたオレを、良平は危ないヤツを見るように顔をしかめた。
「ああ!いや、何でもない。ところで何だっけ?」
「だーかーら!光一の事。アイツさぁ・・と、ウワサをすれば本人の登場だな」
教室の入り口に立って、こちらを伺っている光一を良平が見つけた。
視線に気付いて、光一がいつになく真剣な面持ちで、オレ達の方に歩いてくる。
どうしよ。何話したらいいんだ?
俯いて、目を泳がせながらオレは焦りを隠せない。
光一は迷いなくオレの机に手をついた。
「遊利。ちょっと話しあるんだけど、放課後あけといてくれるか?」
いつになく神妙な口振りだ。
マズイ展開・・だよなぁ、やっぱり・・・。
だけど、いつまでもこんな状態じゃ、そのうち良平もおかしく思うだろうし。
ここはいっちょ男らしく腹くくるか!
決心を固くしたオレは、光一を見上げて頷いた。
「分かった」
承諾すると、少しホッとしたように光一は表情を和らげた。
「じゃあ、こないだの体育用具室で待ってるから」
そう言って、光一は自分の教室に戻っていった。
体育用具室・・・。またか・・・。
オレにとっちゃ嫌な場所を何でわざわざチョイスするかなぁっ、アイツらは!
「何だ?光一のヤツ、えらく真剣な顔して。何、お前ら珍しくケンカでもしてんの?」
「ん~、まぁ、大したことじゃねぇよ」
本当は十分大したことだけど。
「ふぅん。ま、何にしろ早く仲直りしとけよ?長引くと溝は深まる一方だからな」
いや~、別の意味で十分溝は深まってるんだけどさ。
「ははは・・・、そうだな」
まさか、光一に愛の告白をされて、その事で関係が縺れてる…。
なんて、良平には口が裂けてもいえねぇもんなぁ。
オレは誤魔化し笑いを浮かべるしかなかった。
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