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深崎香菜

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夏の思い出

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「どっか遠出したいなー泊まりで!」

本屋にて、彼女のこの一言から始まった僕らの夏休み。
いろいろあって僕らのクラスは八月に入ってやっと夏休みに入れた。
彼女とは確かにそんな遠出はしていない。
電車、バスなんかで一時間もあれば着く所までだな。
そう思うと初めて二人で過ごす夏休み。旅行なんかもありかもしれない。

「どっか行ってみましょうか。
 どんなところへ行きたいです?」
「んー。私温泉とかでもいいのよー!
 でもなー…んー」
真剣に悩む彼女を見ながら僕は適当に旅行雑誌を手に取る。
ペラペラとめくって宿や穴場を探してみる。

「あ!!」
「こ、声大きいです」
「はっごめんなさい」
本屋の中で大きな声を上げる彼女。
少し反省した顔をして数秒後(こりゃ反省してないな。)
目を輝かせて言った。
「静かなところ!
 ほら、夏の課題で絵を描かないとッ
 だから、うーん。湖とか川とか?そんなとこ!
 泊まるのはペンションとかがいいなー」
ナルホド。
それはいいアイディアだと思った。
課題も出来て、思いでも出来る…
一石二鳥というやつか!
「それいいですね。
 そうしましょうよ。んー。湖…んー。」
また違う雑誌をめくる。
彼女もそれを真似るようにする…。

「お、二人で旅行ッスかー?」
声をかけてきたのは…誰だろう。
確か同じ科な気がする。
「あー、横峰くーん」
彼女は人の名前と顔を覚えるのが得意だからなぁ…。
そういえば昨日も話してたよ・・横峰君。
「夏休みだもんねー。何処行くの?」
「ん。湖とか川とか静かなところにって。
 ペンションに泊まりたいみたいでね。確かにいいなーと思ってそういうことに。」
「で、見つかったの?」
「いや、今決まったとこだし、まぁ今日中に調べて早めに予約かな」
「俺、いいとこ知ってるよ?」

横峰君が教えてくれたのは
僕らの住むところからそんなに離れた場所ではなかった。
彼女とクスクス笑いながら、
「結局近場になったね」
なんていいながらそこに決定した。


ペンションの管理人に電話すると
横峰君が言った通りまだ空きがあった。
すごい穴場だと言っていたが、確かつりをする人がたまに来るだけとか…。
僕らは早めに行きたかったので、
明後日から三泊四日で行く事にした。
「近場だからこんなにいらないかもだけど
 私はこういうのも好きだなぁー」
「今度はもっと早めに計画して新幹線とかに乗ってどっか行きましょうね」
「そしたら冬の温泉旅行だー!」
「温泉…そんな好きです?僕も好きですけど。」
「年寄りって言ったら殴るよ?」
「はい…」
一通り笑った後、僕らはそれぞれの家に帰る。
僕は用意は早めにしたい性格なので
とにかく帰宅後すぐにバッグに荷物を詰め込む。


行きしなは…この服でいいかな。
川も湖もあるのかぁ…。確か彼女は皮で遊ぶから水着を持ってくるとか言ってたな…。
水着・・・・なんとなくニヤけてみる。
そしたら二着は余分にTシャツを持っていくとしようか。
二日目はこれを着て…。

こういう用意をしていると時間を忘れてしまう。
気づけば帰宅から四時間。なんと夜の11時をさしていた。
「うぉっと…。」
僕はお風呂に入る前に彼女にメールを送っておいて
その日はお風呂に入るとベッドにもぐる…
ふと見ると彼女の髪の毛が枕もとに落ちていた。





「夏休み中?」
「うん。どうしようかなって。」
「ん?!」
「だーかーらー。
 今までは休み前の金曜に亮ちゃん家行って、休日二日泊まったでしょう?」
「はい。」
「けど今度からずーっとお休みでしょう。
 だからいつお泊り行こうかなって。」
「んー。僕もバイトがあるので
 毎日いてもらっても大丈夫なのですが寂しい思いも…させます。」
「んー…ならさ、亮ちゃんが迷惑じゃないなら
 お泊りは今までどおりでもいい?
 それと、他の日に遊びに行ったときにそのままーってのもいい?」
「もちろんですよっ
 大歓迎です」


あの時はそう言ったものの、
夏休みみたいな長期休みには毎日泊まってくれると思っていた。
まぁ、甘いですね…。
それに、毎日一緒に一つの部屋で住むと、
帰るときに寂しくなるな…なんて考えていたら気づけば眠りに着いていた。





「きゃぁぁっぁぁあっぁ!かわいすぎぃぃぃ!!!」
彼女の第一声はコレだ。
何が可愛いんだ?!と僕は驚いているのだが悪くはない。いやむしろ良い。
自然がいっぱいなところが田舎のほうに行かなくてもあったのね!?状態なわけだ。
川は静かに流れ、湖では小さなボートが所々に浮いている。
(僕らのようなカップルや親子連れのようだ。)
そして目の前には彼女いわく可愛すぎなペンション。(つかロッジ?!)
うん、何処で課題を済ませようか迷えるくらいだ!

「なななな中入ろう?!
 亮ちゃん私たちのところは何処!?」
僕は思わず声を上げて笑いながら彼女の手を引く。
ここでいつもの彼女ながら赤くなりながら
「笑わないで!」
と、言うはずなのだが何も言わない。
ただひたすら
「可愛いよぉ!何これ!?可愛いんだけど!ねぇ!」
と喜んでくれていた。
僕は心の中で『ありがとう…横峰君』とやっぱり顔が思い出せない彼に御礼を言った。




荷物を置いて、自炊しようと思い行きに買った食材を冷蔵庫に入れ、
「釣り道具とか借りられないのかなぁ?」
僕がそう言っていろいろ見ている間、彼女ははしゃぎ続ける…
「亮ちゃん!?外でないの!?ねぇぇ」
「はいはい。
 なんか今日の明日香さん変におかしくて可愛いですよ?
 どうします。早速川で遊びます?それとも課題ですか?」
「亮ちゃんは課題もう決めた?」
「僕、この四日は晴れるみたいなんで朝の風景を描こうかと。」
「それ…素敵」
「明日香さんも一緒にします?」
「うんうん!じゃあ今から遊ぶッ」
「じゃあ、ちょっと出かけましょうか」
彼女と手をつないで外へ出る。
夏だというのにそんなに暑くない。
これは木の葉の陰のおかげだろうか?
Tシャツの下にバッチシ水着を着たらしい彼女を連れて川へ。
今日は釣り人もいないのか貸切だった。
「今の時期は魚いないとかー?」
「いるでしょー。まぁ、いいんじゃないですか?」
僕らは川の方へ行く。
彼女は走って川に飛び込んだ。

「明日香さん、石なんかで足を切ったりすることありますから
 気をつけてくださいよー?切ったら結構出血しますからー」
「ななな!?何で見守ってるの?!
 一緒に遊ぼうよッ」
彼女が可愛いこと言うのでとりあえず僕も足を踏み入れる。
「はい、コレ」
彼女が手渡してきたのは昔よく遊んだな…
ほら、ボールとマジックテープがついたラケットというのか盾のような…
名前がイマイチ浮かんでこないあの遊びだ。
キャッチボールみたいなものだ。
テニスボールよりも二周りほど小さいボールを投げ、
マジックテープがついているヤツで受け止める。
そしてまた投げる…それの繰り返しだ。
最初面白いの?!と思ったのだが
水の中だと動き難くてなかなか面白い。
気づけば僕のほうが夢中だった。


「亮ちゃん、そろそろ戻ろうっか」
気づけば夕方で着いてここで遊びだしてからおよそ五時間は経過している。
(川到着が確か12時を丁度過ぎたくらいだ。今は…17時…)
「かなり…遊んでたみたいですね。しかも一つの遊びで…」
「これ面白くない?私、いっつも誰かが止めないと延々としちゃうの
 今日は私が止める番だったね」
そう言って彼女が笑った。
僕はなんだか恥ずかしくなり苦笑いをしたあと彼女の手を引いてロッジへ戻った。

その日の夕食は外でバーベキューだ。
僕がヤキソバを振舞った。
「まーた簡単ですが」
「えぇ、美味しいよぉ?」
その後二人で星が結構見えることに感動し、
夜の意外な寒さに驚き…気づけば眠っていた。
僕は夜中に目を覚ましたわけだが
半日遊んだためかそのまま彼女の寝顔をみながら眠りについた… 



今朝は僕のほうが早く起床。
適当な数のおにぎりをむすび、
彼女を起こす。
まだ寝呆けている彼女に先に行くと伝えて僕は画材を持って外に出た。

すぐに彼女も出てきたのだが
彼女の手にはおにぎりが…
顔を見合わせ、笑った後は
それぞれの作業にかかる。

僕は簡単に下書きをするのだが
彼女はしない。
そのままなのだ。




30分程経った頃、
横目で彼女の作品を見ると
案の定驚かされた。
同じ景色を見ているとは思えない出来だ。
しかし僕はその場で口を挟まない。
本当は今すぐにでも
「すごい!」と言いたいのだが
それは彼女が嫌がるのだ。
だから僕らはお互い完成するまで
作品の話はしない。


自分のペースで進めて、
各自好きなときにおにぎりを食べた。
ちょうど違う味(と言っても塩と鮭フレークだ。どちらがどっちを握ったかなんて
言わなくてもいいだろう)
だったので真ん中においてつまむようにした。


二つ目のおにぎりを食べ終わった後
僕は色付けにかかる。
入れ代わりで彼女は座っておにぎりを口にしていた。

普段はお互いうるさいくらいに笑ったり話したりするのだが
絵が絡むと静かになる。
僕は上手いわけではないが
好きなことだと集中してしまう。
彼女は絵も上手ければ
僕と同じ理由で好きなことだと集中してしまうのだ。

だから丁度良いのかもしれないな



「ふぅ」
僕が座ると彼女も横に座った。
4時から始めてもう9時だ。
二人の間のおにぎりもない。
「ここに来てから時間経つの早く感じる事多いなぁ」
「確かに。
なんか気味悪いくらいにね。
相当集中してましたね、僕ら。」
「だねだね
亮ちゃんどする?まだ描く?」
「僕は止めるかな。
朝露とか霧なくなりましたし」
「へ?」
彼女はキョトンとした顔をした。

「まだ霧はあるくなぁい?
むしろ私はさっきから山の中はまだ霧晴れないのかって感心してたよ?」
「え?
実は8時にはすでに……
確かに7時の段階でビックリしてましたが…」
顔を見合わせお互いがキョトンとした顔になる。

「とにかく、戻ろうっ」
彼女が僕の手を引っ張った。
何かが引っかかった状態を放置するのは彼女は基本嫌いだ。
いつも物事はハッキリとさせてしまう。
だから僕のあやふやの返事なんかにもすごく怒る。
今回はどうだろう?
物凄く変な状況ではないか?
お互い見えている景色が違うのだ。
僕の目ではとっくに霧が晴れ、彼女の目ではまだ霧が…
「亮ちゃん…ね?」
何故か彼女の目が悲しそうだった。
僕はそれ以上何も言わず、考えず彼女の意見に従った。


あのときの一瞬の悲しそうな顔をしたっきり
彼女はまた明るく笑っている。
僕は未だにさっきの意見の食い違いが引っかかってどうにも気分が優れないのだが
彼女はもう気にしていないのだろうか?
それとも忘れようとしているのか…
それは何のために?
わからない事だらけで頭がパンクしそうになる。


「亮ちゃん?」
話をぜんぜん聞いていなかったからか彼女が顔を覗き込む。
「あ、ボーッとしてました…」
「いつもと逆だね」
彼女はニッコリ笑った。
「ですね。で、何の話でしたっけ…」
「今日は午後からどうしようか?って話だよー。
 で、昨日みたいに遊ぶか、お散歩するか、ふわぁぁぁ・・・・」
彼女が大きな欠伸をしたのを見て思わず吹き出す。
彼女は慌てて口を抑えたがもう欠伸は終わっていた。
「うぅ…」
「女の子なんですからね、口は抑えてしなさーい」
「はぁい…」
大欠伸を見られて少しションボリしている彼女の頭をグシャグシャと撫でた。
「な、にすんのぉ?!髪の毛がぁ!」
「お昼ね、しましょうか。
 晴れてますしあの辺りで」
僕はこのペンションの中で丁度光が差し込んで暖かい位置を指差した。
「えぇ!?せっかく遊びに来たのに寝るの!?」
「明日もあるでしょう。三泊四日ですし。
 それにのんびりだっていいんじゃないです?」
彼女は小さな声で『確かに…』と呟き僕の意見に賛成した。

僕らはタオルケットを上にかぶって目を閉じた。
途中彼女が僕の横から抜けたのに気づいたがトイレか何かかと思いそのまま寝転んでいた。
ゴソゴソという音で目を開けると彼女が丁度戻ってきていた。
「トイレですか?」
「え…!あ、亮ちゃん…起きちゃった?」
「いや、寝てたのかな…うーん、変な感覚。
 明日香さんがここから立ち上がったときは起きてました。
 けど…うーん。」
「多分その間寝てたと思うよ」
彼女はクスクスと笑った。
そして僕の腕の上に頭をのせて額を僕の胸につけた。
その体制でよくお昼寝はする。
今日も同じなのだ。




その日、起きると夜中だったのに驚いて二人で笑いあった。

次の日も早起きするのでそのまま二度寝した。

朝は予想通り早く起きすぎた。

さすが夏。三時だというのに少し明るかったので二人で外に出て続きをした。

昨日よりも多い霧に苦戦して休憩ばかりだった。

午後は二人で散歩をした。

小さな花が綺麗で摘もうと思ったら明日香さんに怒られた。

夜は花火をして大騒ぎをした。

夜中まで話していたが気づけば眠りについていた。

最終日は僕が少し寝坊をした。

明日香さんの作品は完成にほぼ近かった。

僕のはもう少しだがイマイチ何かが足らないと感じた。

結局二人とも後は各自戻って仕上げることにした。

最後に川で遊び昼寝を数時間した後ボートに乗った。

何故か無言になりその沈黙がおかしくて笑い転げた。

夕方になり僕らは電車でそれぞれのアパートに戻った。

こんなにも長い間彼女と過ごしたことがなかったため

一人だけの部屋がすごく寂しく感じた。

彼女も同じだったのか寝る前に電話がきてそのまま話し込んだ。

最後に『おやすみ』というと彼女が少し間を空けてから

『好きだからね』と言い逃げした。

それが嬉しくて僕は照れ笑いを一人でしていた。



その夏休み、中尾らと海へ行ったりバーベキューをした。

全部が楽しい思い出となった。

そう、今までで一番笑い、楽しめた夏休み。

それはきっと彼女が隣にいたから…そうとしか思えない僕がいる。
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