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お母さん
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彼女からのメールはやけに元気で怪しい部分もあるが、
とりあえず僕は翌日、昼からの講義をサボッテ彼女のいる病院へ来てみた。
病室で退屈そうにしていただろうと思われる彼女は、
僕がドアをノックして入るととても嬉しそうな顔をしてくれた。
「亮ちゃん!!!
あ、れ?今日実習じゃないの?」
「ん。教授がお休みなんです。
そんなことより、大丈夫なんですか?検査って何かあるんじゃ…?」
「そうなの。
私前から頭痛は酷かったんだけどこの間のは異常でさー。
前も1回検査入院したんだけど今回もなっちゃって。
でも前大丈夫だったし今回も大丈夫だよっ」
「そうですか。早く退院してくださいね?
また留年されたら困ります。」
「そんときは、一緒に留年してねー」
「・・・・鬼ですか」
「ヘヘヘー」
僕はなんとなく彼女の髪を撫でる。
それが嬉しいのか彼女は笑顔になってくれる。
いつも当たり前のようなこの毎日の幸せが、これから減ると思うと
少し…どころかかなり寂しいものだった。
それに週末だって一緒に過ごすことができなくなる。
だから早く彼女には退院してほしいものだ。
「明日香ー。このお花…あら。」
入ってきたのは女性だった。
「あ、お母さん、それ持ってきてくれたんだーありがと!」
彼女の母らしい。
それにしても、明日香さんの母親にしては若すぎるようにも見える。
僕は立ち上がって彼女のお母さんの所へ行く。
「初めまして。
僕は、明日香さんと同じ大学に通う者…でして、
その、お付き・・合いさせてもらってます。
田村亮介です。宜しくお願いします。」
僕が頭を下げると、お母さんも慌てたように頭を下げてくれた。
その反応に僕も少し慌てたのを見て明日香さんがケラケラっと笑った。
「明日香、その笑い方やめなさい・・!
せっかく、亮ちゃ・・・田村さんが挨拶してくださっているのに!」
ん。今?
「はいはいー。
亮ちゃん、私のお母さん。
亮ちゃんとのこといっぱい話してるからそんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「明日香の母です。
いつも娘がお世話になってますー。
あの子にはいろいろと話も聞いてます。これからも娘を宜しくお願いしますね。」
そう言ってお母さんはニッコリと笑ってくれた。
少し気になる部分もあるが、(いっぱいって何を話したんだ?!)
気にしないようにして僕も笑顔で反応を見せた。
しばらく話をした後お母さんが家に帰ると言ったので
僕は外まで送ることにした。
少し遠慮をしていたようだが、僕らは自然と溶け込めていたので
(なんと言ってもこのお母さん話しやすい)
僕が『送りますから』と2回言っただけでOKしてくれた。
お母さんは、
「あららー。男性に送ってもらえるなんて何年ぶりかしらー?」
と笑顔で冗談まで言っていた。
「あの子…」
エレベーターの中で始めて真剣な声色で話された。
「今の美大に入学してからこういう風に頭痛が酷くってね。
あの子頭痛持ちでねー小さいころからそうだったの。
で、いろいろ心配になって検査入院がこれで3回目…。
いつもこの時期でね、今の大学だって留年して…。
それまではそこまで酷くなかったんですけど…ね。
で、今年留年したらもうあきらめるって言ってたんですよ。
けどね、あなたと出会って考えが変わったんですって。
突然家に帰ってきたと思ったら嬉しそうに、
『お母さん!年下の彼氏できちゃった!』って報告してくれてね。
それから悩みや楽しかったことなんかを聞いてると
こっちまでが幸せになれちゃったくらいなの。
あんなに楽しそうな顔初めて見たかもしれない。
田村さん、あの子を・・・・・
あの子をこれからも宜しくお願いします。」
お母さんが頭を深く下げた。
歩きながら少し低い声で話していたお母さんの目に涙が浮かんでいた気がした。
「頭、上げてください。
僕だって今毎日がすごく幸せなんです。
初めての彼女ってわけでもないですし、そんなにお付き合いさせてもらった人が多いわけでもありません。
けど、女性に対してこんなに真剣に『好きだ』って思えることが初めてで、
彼女の一つ、一つの反応が可愛すぎて…
あぁ、これが愛しいってことなんだなと、この歳で知りました。
こんなにも素晴らしい恋が出来て幸せなんです。
だから今僕は彼女を手放すって変ですね。
彼女から離れる気もなければ離しません。
たとえ、お母さんが離れろって言ってもね」
最後は少し冗談っぽく笑って見せた。
さすがに照れる。恥ずかしい…
お母さんは驚いたように聞いてくれていたが最後には『ありがとう』と、笑顔で言ってくれて
手を振りながら帰って行った。
僕が病院内へ消えるまではずっと手を振り続けてくれるその姿を見て、
あぁ、親子だななんて少し笑えた。
「遅いー!」
病室へ戻ると彼女が少しスネていた。
僕はニヤっと笑ってやって
「いや。お母さんあまりにも綺麗だからさ
明日香さんがいない間どこかへ行こうって誘ってた」
彼女は無言のまま驚いた顔をしていた。
冗談だっつーの(笑)
「嘘ですよ。
寂しいので早く帰ってくること。いいですね」
僕がそういうと彼女はいつものように照れてくれた。
そして小さくうなづいた後、
「毎日・・・会えなくなるね」
と、初めて暗い表情を見せた。
彼女も寂しいと思ってくれている。そう思えるだけで何故だろう…幸せに感じた。
「毎日、会いに来ますよ」
そう言ってキスをすると彼女がギュっと抱きついてきた。
その感覚が嬉しくて僕もギュっと抱きしめ返した。
「休日は一緒に過ごしてくれないと僕誰も遊ぶ人いないんで」
「えー?!いるでしょう、それじゃ友達いないみたいだよ!」
「・・・・うるさいですよー。
とにかく会いに来ますよ。面会時間いっぱい」
「…待ってる。けど、大丈夫?ココ遠いでしょ?」
「気にしたら負けです」
ニコリと笑ってみせると彼女も笑い返してくれてもう一度キスをした。
僕は面会時間いっぱいまでいた後、彼女に別れのキスをして病室を出た。
明日も来よう、そう思いながら病院を後にした。
僕は大学が終わるとバイトのない日はそのまま、ある日はコンビニで適当に何か買って
歩きながら食べ病院へ向かった。
彼女は毎日来るとしんどいんじゃないか?とか、つまらない心配をしていた。
そんなのあるわけがない。
僕は彼女に会いたくて会いに来てるわけなんだから。
そう言うと彼女は照れながら『ありがとう』と言ってくれた。
もうすぐ彼女の誕生日だ。
その日くらいは外出許可なんかが出ないだろうか?
そんなことを考えつつ僕は今日も彼女の元へ向かう・・・・
とりあえず僕は翌日、昼からの講義をサボッテ彼女のいる病院へ来てみた。
病室で退屈そうにしていただろうと思われる彼女は、
僕がドアをノックして入るととても嬉しそうな顔をしてくれた。
「亮ちゃん!!!
あ、れ?今日実習じゃないの?」
「ん。教授がお休みなんです。
そんなことより、大丈夫なんですか?検査って何かあるんじゃ…?」
「そうなの。
私前から頭痛は酷かったんだけどこの間のは異常でさー。
前も1回検査入院したんだけど今回もなっちゃって。
でも前大丈夫だったし今回も大丈夫だよっ」
「そうですか。早く退院してくださいね?
また留年されたら困ります。」
「そんときは、一緒に留年してねー」
「・・・・鬼ですか」
「ヘヘヘー」
僕はなんとなく彼女の髪を撫でる。
それが嬉しいのか彼女は笑顔になってくれる。
いつも当たり前のようなこの毎日の幸せが、これから減ると思うと
少し…どころかかなり寂しいものだった。
それに週末だって一緒に過ごすことができなくなる。
だから早く彼女には退院してほしいものだ。
「明日香ー。このお花…あら。」
入ってきたのは女性だった。
「あ、お母さん、それ持ってきてくれたんだーありがと!」
彼女の母らしい。
それにしても、明日香さんの母親にしては若すぎるようにも見える。
僕は立ち上がって彼女のお母さんの所へ行く。
「初めまして。
僕は、明日香さんと同じ大学に通う者…でして、
その、お付き・・合いさせてもらってます。
田村亮介です。宜しくお願いします。」
僕が頭を下げると、お母さんも慌てたように頭を下げてくれた。
その反応に僕も少し慌てたのを見て明日香さんがケラケラっと笑った。
「明日香、その笑い方やめなさい・・!
せっかく、亮ちゃ・・・田村さんが挨拶してくださっているのに!」
ん。今?
「はいはいー。
亮ちゃん、私のお母さん。
亮ちゃんとのこといっぱい話してるからそんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「明日香の母です。
いつも娘がお世話になってますー。
あの子にはいろいろと話も聞いてます。これからも娘を宜しくお願いしますね。」
そう言ってお母さんはニッコリと笑ってくれた。
少し気になる部分もあるが、(いっぱいって何を話したんだ?!)
気にしないようにして僕も笑顔で反応を見せた。
しばらく話をした後お母さんが家に帰ると言ったので
僕は外まで送ることにした。
少し遠慮をしていたようだが、僕らは自然と溶け込めていたので
(なんと言ってもこのお母さん話しやすい)
僕が『送りますから』と2回言っただけでOKしてくれた。
お母さんは、
「あららー。男性に送ってもらえるなんて何年ぶりかしらー?」
と笑顔で冗談まで言っていた。
「あの子…」
エレベーターの中で始めて真剣な声色で話された。
「今の美大に入学してからこういう風に頭痛が酷くってね。
あの子頭痛持ちでねー小さいころからそうだったの。
で、いろいろ心配になって検査入院がこれで3回目…。
いつもこの時期でね、今の大学だって留年して…。
それまではそこまで酷くなかったんですけど…ね。
で、今年留年したらもうあきらめるって言ってたんですよ。
けどね、あなたと出会って考えが変わったんですって。
突然家に帰ってきたと思ったら嬉しそうに、
『お母さん!年下の彼氏できちゃった!』って報告してくれてね。
それから悩みや楽しかったことなんかを聞いてると
こっちまでが幸せになれちゃったくらいなの。
あんなに楽しそうな顔初めて見たかもしれない。
田村さん、あの子を・・・・・
あの子をこれからも宜しくお願いします。」
お母さんが頭を深く下げた。
歩きながら少し低い声で話していたお母さんの目に涙が浮かんでいた気がした。
「頭、上げてください。
僕だって今毎日がすごく幸せなんです。
初めての彼女ってわけでもないですし、そんなにお付き合いさせてもらった人が多いわけでもありません。
けど、女性に対してこんなに真剣に『好きだ』って思えることが初めてで、
彼女の一つ、一つの反応が可愛すぎて…
あぁ、これが愛しいってことなんだなと、この歳で知りました。
こんなにも素晴らしい恋が出来て幸せなんです。
だから今僕は彼女を手放すって変ですね。
彼女から離れる気もなければ離しません。
たとえ、お母さんが離れろって言ってもね」
最後は少し冗談っぽく笑って見せた。
さすがに照れる。恥ずかしい…
お母さんは驚いたように聞いてくれていたが最後には『ありがとう』と、笑顔で言ってくれて
手を振りながら帰って行った。
僕が病院内へ消えるまではずっと手を振り続けてくれるその姿を見て、
あぁ、親子だななんて少し笑えた。
「遅いー!」
病室へ戻ると彼女が少しスネていた。
僕はニヤっと笑ってやって
「いや。お母さんあまりにも綺麗だからさ
明日香さんがいない間どこかへ行こうって誘ってた」
彼女は無言のまま驚いた顔をしていた。
冗談だっつーの(笑)
「嘘ですよ。
寂しいので早く帰ってくること。いいですね」
僕がそういうと彼女はいつものように照れてくれた。
そして小さくうなづいた後、
「毎日・・・会えなくなるね」
と、初めて暗い表情を見せた。
彼女も寂しいと思ってくれている。そう思えるだけで何故だろう…幸せに感じた。
「毎日、会いに来ますよ」
そう言ってキスをすると彼女がギュっと抱きついてきた。
その感覚が嬉しくて僕もギュっと抱きしめ返した。
「休日は一緒に過ごしてくれないと僕誰も遊ぶ人いないんで」
「えー?!いるでしょう、それじゃ友達いないみたいだよ!」
「・・・・うるさいですよー。
とにかく会いに来ますよ。面会時間いっぱい」
「…待ってる。けど、大丈夫?ココ遠いでしょ?」
「気にしたら負けです」
ニコリと笑ってみせると彼女も笑い返してくれてもう一度キスをした。
僕は面会時間いっぱいまでいた後、彼女に別れのキスをして病室を出た。
明日も来よう、そう思いながら病院を後にした。
僕は大学が終わるとバイトのない日はそのまま、ある日はコンビニで適当に何か買って
歩きながら食べ病院へ向かった。
彼女は毎日来るとしんどいんじゃないか?とか、つまらない心配をしていた。
そんなのあるわけがない。
僕は彼女に会いたくて会いに来てるわけなんだから。
そう言うと彼女は照れながら『ありがとう』と言ってくれた。
もうすぐ彼女の誕生日だ。
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そんなことを考えつつ僕は今日も彼女の元へ向かう・・・・
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