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上条と岩村のお話。

岩村と上条の周期事情#2

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 …目が覚めると、自分の部屋ではない何故か見慣れた天井が目に入った。嗅ぎ慣れた本の匂いや埃っぽい匂いではなく、シーブリーズのような体育会系の香りが鼻をくすぐる。
「あ、起きた?」
 目の前に上条の顔。
「うああ⁉︎  え、何? え、あ、ここどこ⁉︎」
 思い切り動揺してしまい、上条の顔が目の前にあるというのに体を勢いよく起こして額と額をぶつけてしまう。
「ッたあ……」
「あっごめん……」
 額を抑えて俺の寝ている足もとに転がる上条。……ええと。状況を整理しよう。まず俺は上条とテニスをしていた(一方的だけど)。そして昼食を一緒に食べないかと誘われて断ったところ上条と俺の周期が被っていたことが判明して、それで……何だっけ。
「お前あれくらいの暑さでぶっ倒れるとかどうかしてんじゃねえの」
「え、俺倒れたの?」
「そうだよ、お前あの後急にフラフラしだしたと思ったら突然ぶっ倒れたんだよ。おれが運んできたんだからな、感謝しろよ」
「……救急車とか呼ばないんですネーカミジョーくんは」
「だって昼周期なんだろ? 病院でそんな現象起こっちまったら熱中症の治療どころじゃなくなる。おれなりの配慮ってやつ」
「…………」
 そっぽを向いて、あぐらをかきながら呟く上条。はっとした。こいつ普段は無神経野郎だけどこういう配慮だけはちゃんとしてるんだよな。だから安心して一緒にいられるっていうか。……って何でこんなこと考えてんだ、それよりも周期だ周期。
 焦って時計を探す。前に数回ほど上条の部屋に来たことがあったので、すぐにこの部屋には時計がなかったことを思い出した。心の中でそっと舌打ちをして、せめて時間が分かるものを、と腕時計を見ようとするが、無理矢理部屋から連れてこられたことがたたって、腕時計をしていなかった。
「今は十二時四十五分だぞ」
「十二時四十五分……」
 その時間は先週周期がきた時間の十分前だ。ということはもうそろそろ周期がくるということだ。一人頭の中が真っ白になる。人に周期とか見せたことがない。父親の律にさえ見せたことがないのだから、これは本当だ。R 18系のエロゲーのエッチシーンに入るような、妙な緊張感が走る。
「あ、そうだ、素麺茹でたから一緒に食わねえ?」
「馬鹿なんですか?」
「は?」
「何でこれから周期がくると分かってるのに引き止めるようなこと言うんだよ俺は即刻帰らせてもらう」
「帰り道に周期きちゃってもいいのか? おれ的にはそっちの方が大変だと思うけどな」
 あっけらかんと言ってのける上条。まあそれは一理ある。でも少し我慢すればいいだけの話だし……。と、外の窓から覗く景色を眺める。太陽の強い光が地面に反射して、強い光を放っており、陽炎がゆらゆらと立ち上っていた。一方で、すっかり汗の引いた背中にはクーラーの爽快な風が当たっている。
「……まあ、仕方ないから一緒に食ってやるよ」
 いや、決して外が暑そうだったから涼しい上条の部屋にいようと考えたわけではない。決して。

 皿の上に置かれた素麺は、二人分とは到底思えないほどの量だった。どん、という効果音がつきそうな大きさの透明な器に、水と数個の氷と一緒に素麺が入れられている。涼しげな光景だ。そんな素麺が置かれている小さな洒落たちゃぶ台みたいな机を挟んで、上条と二人で座っている。逆光であまり上条の顔が見えない。
 手元の箸とつゆを持ち、いただきますと呟いてから素麺を啜ってみる。俺の旅館でも素麺は出しているが、少量、しかも関西の方が大元の旅館の為、出汁で食べろとでも言っているかのように味が薄い。しかしそれで育った俺としては、上条の出してくれた素麺のつゆはあまりにも濃いものだった。
「なんか、うん、美味しいけど味濃くね」
「夏は暑いから塩分多めに摂った方がいいんだよ」
「いやでもここまで……うちの旅館はもっと薄いぞ」
「お前んちの旅館とうちを比べんなっつーの」
 と、つゆの入っている器から目を離して上条に文句を言ってやろうと顔を上げると、上条の目が俺の髪をひたすら凝視していることに気づいた。
「……何」
「いや、もうそろそろっつってたから、なる時見てみてえなーって思って」
「……は⁉︎」
 思った以上に大きな声が出てしまった。それと同時に箸に挟まれていた素麺がするりとこぼれ落ちる。何でこいつにはいどうぞと見せなきゃいけないんだ、と思った瞬間、じくっ、とむず痒さが髪に一筋走った。
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