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上条と岩村のお話。
岩村と上条の周期事情#1
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「カミジョー……。もうやめにしようよ……暑いし体力失うだけじゃんか……」
「はあ? お前テニスのウォーミングアップで何言いやがってんだ? この夏休みこそ思いっきりはっちゃけてスポーツできるんじゃねえか」
「俺には夏休みにスポーツなんていらないの、不要不急なの」
「いーるーのー」
気温三十四度。猛暑日一歩手前の炎天下の中、誰もいないだだっ広いテニスコートの中で二人の少年がテニスを楽しんでいた。…じゃねえんだよ。暑いよ…。
夏休みのある日。俺がいつも通りギャルゲーの攻略をしていると。千春たんを愛でていると。上条の声がしたと思ったらいきなり目の前が真っ暗になって、気づいたらこのテニスコートのベンチに眠らされていたというわけだ。そして何が何だか分からないままラケットを握らされ、試合をさせられていた。というか俺テニス知らねえよ……。『テニ○の王子様』とかいうアニメにどハマりしている瑠璃なら分かるかもしれないが、俺とテニスの接点なんてこれくらいのものだ。
「んで、俺は何をすればいいんだよ」
「いや、おれの相手をしてくれればいいから」
「…………」
それって俺じゃないとダメなの……? お前の妹のひまわりちゃんならもっと相手してくれるぞ。それが嫌だったら一人で壁打ちしてろ中学の時の俺みたいに。
「そ~れ」
バコン! とネットを挟んで目の前の体力無尽蔵男から繰り出されるテニスボールは、俺の右耳をザン…という立てて通り過ぎていた。
「お前何で取らねえんだよ、ちゃんと取れよゲームにならねえだろうが」
「いや無理矢理連れてきておいてそれはないだろ!」
「おれとゲームをするとなったらお前はとりあえずおれのご機嫌取りを考えていればいいんだよ」
何て理不尽なやつなんだ……。俺の事をミジンコ程度にしか思っていない。いや、ミジンコ以下かもしれない。ああ…暑い……。さっきまでクーラーの環境下にあった体は、太陽からの暴力によって冷気のバリアをどんどん溶かしていく。背中がじっとりと汗で濡れていく。時折吹く風は心地いいが、下ろしたままの髪が邪魔して大して心地良くない。そもそも生温い風だ。
とはいえ、俺には暑いという他に、別の問題があった。今日は八月十六日金曜日。周期が金曜日と火曜日の昼の為、丁度周期がこの時間に被ってしまうのだ。……上条からどんな醜態を晒してしまうか分からない。
「なあなー!」
ネットの向こう側から声を掛けられ顎を伝った汗を手の甲で拭いながら「何ー」と返す。
「昼になったらさー、どっかで食べねー?」
「……は?」
昼と言ったら周期である。その時に、一番近付く。やばいじゃん。頭がぐらぐらと煮えくりかえってくる。
「俺はもう早く帰りたいんだけど」
「何でだよー?」
「いや、一刻も早く千春たんを愛でたいから」
「千春ぅ? あの女がいっぱい出てくるゲームのキャラのことか? いつでも愛でられるだろんなん」
「愛でれば愛でるほど可愛くなるんだよ! …よし分かった、じゃあ今日の夕方、千春ぬいを一緒に買いに行く事っで手を打とう」
本来なら、上条は話の後半に食いつくはずだ。普通の人だってまず今日の夕方ということに疑問を持つはず。が、違かった。どころが上条は気まずそうな表情に変わる。
「いや、今日の夕方はちょっと……」
「は? 何でだよ、自分の都合だけ通そうとしてんじゃねえよ、じゃあいつならいいんだよ」
「んー、いつなるか分からないから分かんねえよ」
「……いつなるか…って?」
「あ、いや、その、あの……」
「あー……?」
今俺は勘付いた。いつも発言の歯切れのいい上条がここまで歯切れが悪くなるとなると……。あー……こいつも今日周期なんかな。一緒とか気持ち悪……。
「…周期?」
「…ッな、ば…!」
ぼっと真っ赤になる上条。まあ仕方ない、これも早く帰る為の手段だ。攻撃には攻撃を。
「い、イワムラも何で昼ダメなんだよ⁉︎ あ、まさかイワムラも周期なのか⁉︎」
は、はは、と笑いながら、ラケットをぐるぐると器用に回す上条。少し動揺してしまったのを隠すために顔を隠しながら「まあね」と口の中でもごもごと呟いた。
「はあ? お前テニスのウォーミングアップで何言いやがってんだ? この夏休みこそ思いっきりはっちゃけてスポーツできるんじゃねえか」
「俺には夏休みにスポーツなんていらないの、不要不急なの」
「いーるーのー」
気温三十四度。猛暑日一歩手前の炎天下の中、誰もいないだだっ広いテニスコートの中で二人の少年がテニスを楽しんでいた。…じゃねえんだよ。暑いよ…。
夏休みのある日。俺がいつも通りギャルゲーの攻略をしていると。千春たんを愛でていると。上条の声がしたと思ったらいきなり目の前が真っ暗になって、気づいたらこのテニスコートのベンチに眠らされていたというわけだ。そして何が何だか分からないままラケットを握らされ、試合をさせられていた。というか俺テニス知らねえよ……。『テニ○の王子様』とかいうアニメにどハマりしている瑠璃なら分かるかもしれないが、俺とテニスの接点なんてこれくらいのものだ。
「んで、俺は何をすればいいんだよ」
「いや、おれの相手をしてくれればいいから」
「…………」
それって俺じゃないとダメなの……? お前の妹のひまわりちゃんならもっと相手してくれるぞ。それが嫌だったら一人で壁打ちしてろ中学の時の俺みたいに。
「そ~れ」
バコン! とネットを挟んで目の前の体力無尽蔵男から繰り出されるテニスボールは、俺の右耳をザン…という立てて通り過ぎていた。
「お前何で取らねえんだよ、ちゃんと取れよゲームにならねえだろうが」
「いや無理矢理連れてきておいてそれはないだろ!」
「おれとゲームをするとなったらお前はとりあえずおれのご機嫌取りを考えていればいいんだよ」
何て理不尽なやつなんだ……。俺の事をミジンコ程度にしか思っていない。いや、ミジンコ以下かもしれない。ああ…暑い……。さっきまでクーラーの環境下にあった体は、太陽からの暴力によって冷気のバリアをどんどん溶かしていく。背中がじっとりと汗で濡れていく。時折吹く風は心地いいが、下ろしたままの髪が邪魔して大して心地良くない。そもそも生温い風だ。
とはいえ、俺には暑いという他に、別の問題があった。今日は八月十六日金曜日。周期が金曜日と火曜日の昼の為、丁度周期がこの時間に被ってしまうのだ。……上条からどんな醜態を晒してしまうか分からない。
「なあなー!」
ネットの向こう側から声を掛けられ顎を伝った汗を手の甲で拭いながら「何ー」と返す。
「昼になったらさー、どっかで食べねー?」
「……は?」
昼と言ったら周期である。その時に、一番近付く。やばいじゃん。頭がぐらぐらと煮えくりかえってくる。
「俺はもう早く帰りたいんだけど」
「何でだよー?」
「いや、一刻も早く千春たんを愛でたいから」
「千春ぅ? あの女がいっぱい出てくるゲームのキャラのことか? いつでも愛でられるだろんなん」
「愛でれば愛でるほど可愛くなるんだよ! …よし分かった、じゃあ今日の夕方、千春ぬいを一緒に買いに行く事っで手を打とう」
本来なら、上条は話の後半に食いつくはずだ。普通の人だってまず今日の夕方ということに疑問を持つはず。が、違かった。どころが上条は気まずそうな表情に変わる。
「いや、今日の夕方はちょっと……」
「は? 何でだよ、自分の都合だけ通そうとしてんじゃねえよ、じゃあいつならいいんだよ」
「んー、いつなるか分からないから分かんねえよ」
「……いつなるか…って?」
「あ、いや、その、あの……」
「あー……?」
今俺は勘付いた。いつも発言の歯切れのいい上条がここまで歯切れが悪くなるとなると……。あー……こいつも今日周期なんかな。一緒とか気持ち悪……。
「…周期?」
「…ッな、ば…!」
ぼっと真っ赤になる上条。まあ仕方ない、これも早く帰る為の手段だ。攻撃には攻撃を。
「い、イワムラも何で昼ダメなんだよ⁉︎ あ、まさかイワムラも周期なのか⁉︎」
は、はは、と笑いながら、ラケットをぐるぐると器用に回す上条。少し動揺してしまったのを隠すために顔を隠しながら「まあね」と口の中でもごもごと呟いた。
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