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合宿in軽井沢
長髪男子だって青春がしたい#1
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「あ、あっちい…」
誰からともなくそういう呟きが聞こえてくる季節。夏。夏といえば俺らからしたら敵以外の何者でもない。締め切った窓の外では蝉が自分の歌声をわんさかお披露目しているし、何より髪がマジで鬱陶しい。マジで切りたくなる今日この頃。
アカツキはまだいい。問題の中心となるべきはカゲツキなのだ。一年中髪を下ろしているせいで暑くないと思われがちだが、そりゃあいくら俺たちでも、暑さを感じないだとかそういうぶっ飛んだ感覚をしているというわけではあるまい。逆に冬は発熱したらあったかいんだが、夏でもそういう発熱とかいう波的なものはくる。それが汗だくであるのだ。
「う、海……海かプールに行きてえ……」
本日午後三時。朝っぱらからサッカーやってバスケやって野球やってバスケやってガリガリくん食ってそして更にまたテニスと日課のマラソンをこなしてきた上条が呟く。
「体力あるやつの気持ちが一生理解できない」
「は? イワムラも夏なんだから走ろうぜ! 運動しようぜ! 自主的に走るとマジで十キロ余裕だから!」
「まず自主的であることが大前提なのかよ……やだよ、暑いし」
出来る限りのいやそうな目をした上で俺は上条を見つめた。
ああそうだ、状況の説明が遅れた、すまない。
今日は八月一日、夏休みの真っ只中。そして今、俺、上条、冬馬、流風、天馬、光、涼、冬子、ひまわり、ゆら、瑠璃、忍の合計十二人は、妹たちきっての希望ということで夏休み計画なるものを練っているのであった。場所は俺の家が経営している旅館の大広間の一部を借りている。空調はそれなりに効いていて、それなりに涼しいはず…なのだが、咲くほども言ったように十二人が固まって話しているので、熱気が篭るわ篭るわで大変だ。
すると、俺の可愛い妹である瑠璃が控えめに発言した。
「あの……私の家が経営する旅館と知り合いのオーナーさんがやっている、軽井沢の旅館があるのですけど……そこなんていかがでしょう……?」
「え、お前んち旅館やってんの⁉︎」
「じゃあ何でお前はここが借りられたと思ってるんだよ」
「……」
ぐぬう、と黙る上条。脳筋め。まあ上条は旅館とか温泉とかと一生縁のない生活送ってそうだもんな、頭に入っていないっていうのも頷ける。
「ってか、兄ちゃん知らないのか? けっこー有名なんだぜっ! ルリの着物姿とかスッゲー様になってるんだぞ!」
今発言したのは、上条の妹、ひまわりだ。上条と同じ色素の薄い髪を、ベリーショートにしている。イケメン女子……学校では王子とも言われているらしいが(瑠璃情報)、男である俺から見ても、男ですと言われればへぇ……と納得してしまうほどのイケメン女子ぶりを発揮していた。
「もう……ひーちゃんそんなこと言わないでよ……恥ずかしいでしょ……」
白い肌をぽっと赤く染める瑠璃。大和撫子という感じがしてとても可愛い。
「でもルリっちがやってる旅館の知り合いの旅館かあ! どんな温泉があるのかなあ?」
冬子ちゃんが珍しく女子っぽい発言をするも、天馬は呆れたような表情で返す。
「冬子の場合飯のことしか頭にねえだろ、少しは冬子も瑠璃ちゃんを見習え」
「そ、そんなことないもん!」
ぷう、と頬を膨らませて怒る冬子ちゃん。美佐川家は女顔家系なので冬子ちゃんも黙っていれば普通にモデルとかになれるのではないだろうか、黙っていれば。でもそんな冬子ちゃんのおしゃべりが和むきっかけを作ってくれることもあるのでそこは感謝だ。まあ、冬子ちゃんも男男男男の中で育ったから仕方がないといえば仕方がない。冬子ちゃんが生まれた頃には母親はもう失踪していたとのことだ。
「ほらゆら、起きろ。話進んでるぞ」
膝枕で妹のゆらちゃんの肩をポンポンと叩く光。普段あまり喋らない光だが、何だかんだいって妹持ちだ。面倒見はいい。涼、は……流風を尊敬の眼差しで見つめている。いつも通りだった、ほんとブレないなこいつ。あんま喋ったことないけど。
光に起こされて、頭を持ち上げるゆらちゃん。普段外に出ないせいか儚さがそこら中に漂っている。ゆらちゃんだけ妖精の森にいるような雰囲気だ。
「ふゆちゃん……わたしも…行っていいの……? ここにいる全員……?」
気の抜けた、小さな声を出すのは藤和の妹のゆらだ。名前の通り、頭が眠そうにゆらゆら揺れている。
「もっちろん! ここにいる全員で行ったほうが何百倍も楽しいじゃん!」
「そうですね、じゃあ、軽井沢にみんなで行きましょうか。いつにします? 私は別にいつでもいいんですが、皆さんの予定が合えば……」
いつも余裕な黒く涼しげな瞳のミステリアス代表忍さんも、今ばかりは楽しみらしく、身を乗り出していた。
「……来週の土、日、月」
流風が机を見つめながら言った。
「別に暇だけど……流風なんかあったっけ?」
「色々忙しいの。来週までには色々予定終わるから」
「じゃあ、来週の土日月! その三日間に旅行に行こう!」
冬子ちゃんの元気な声が大広間に響いた。
……何これ、どこのラノベ?
誰からともなくそういう呟きが聞こえてくる季節。夏。夏といえば俺らからしたら敵以外の何者でもない。締め切った窓の外では蝉が自分の歌声をわんさかお披露目しているし、何より髪がマジで鬱陶しい。マジで切りたくなる今日この頃。
アカツキはまだいい。問題の中心となるべきはカゲツキなのだ。一年中髪を下ろしているせいで暑くないと思われがちだが、そりゃあいくら俺たちでも、暑さを感じないだとかそういうぶっ飛んだ感覚をしているというわけではあるまい。逆に冬は発熱したらあったかいんだが、夏でもそういう発熱とかいう波的なものはくる。それが汗だくであるのだ。
「う、海……海かプールに行きてえ……」
本日午後三時。朝っぱらからサッカーやってバスケやって野球やってバスケやってガリガリくん食ってそして更にまたテニスと日課のマラソンをこなしてきた上条が呟く。
「体力あるやつの気持ちが一生理解できない」
「は? イワムラも夏なんだから走ろうぜ! 運動しようぜ! 自主的に走るとマジで十キロ余裕だから!」
「まず自主的であることが大前提なのかよ……やだよ、暑いし」
出来る限りのいやそうな目をした上で俺は上条を見つめた。
ああそうだ、状況の説明が遅れた、すまない。
今日は八月一日、夏休みの真っ只中。そして今、俺、上条、冬馬、流風、天馬、光、涼、冬子、ひまわり、ゆら、瑠璃、忍の合計十二人は、妹たちきっての希望ということで夏休み計画なるものを練っているのであった。場所は俺の家が経営している旅館の大広間の一部を借りている。空調はそれなりに効いていて、それなりに涼しいはず…なのだが、咲くほども言ったように十二人が固まって話しているので、熱気が篭るわ篭るわで大変だ。
すると、俺の可愛い妹である瑠璃が控えめに発言した。
「あの……私の家が経営する旅館と知り合いのオーナーさんがやっている、軽井沢の旅館があるのですけど……そこなんていかがでしょう……?」
「え、お前んち旅館やってんの⁉︎」
「じゃあ何でお前はここが借りられたと思ってるんだよ」
「……」
ぐぬう、と黙る上条。脳筋め。まあ上条は旅館とか温泉とかと一生縁のない生活送ってそうだもんな、頭に入っていないっていうのも頷ける。
「ってか、兄ちゃん知らないのか? けっこー有名なんだぜっ! ルリの着物姿とかスッゲー様になってるんだぞ!」
今発言したのは、上条の妹、ひまわりだ。上条と同じ色素の薄い髪を、ベリーショートにしている。イケメン女子……学校では王子とも言われているらしいが(瑠璃情報)、男である俺から見ても、男ですと言われればへぇ……と納得してしまうほどのイケメン女子ぶりを発揮していた。
「もう……ひーちゃんそんなこと言わないでよ……恥ずかしいでしょ……」
白い肌をぽっと赤く染める瑠璃。大和撫子という感じがしてとても可愛い。
「でもルリっちがやってる旅館の知り合いの旅館かあ! どんな温泉があるのかなあ?」
冬子ちゃんが珍しく女子っぽい発言をするも、天馬は呆れたような表情で返す。
「冬子の場合飯のことしか頭にねえだろ、少しは冬子も瑠璃ちゃんを見習え」
「そ、そんなことないもん!」
ぷう、と頬を膨らませて怒る冬子ちゃん。美佐川家は女顔家系なので冬子ちゃんも黙っていれば普通にモデルとかになれるのではないだろうか、黙っていれば。でもそんな冬子ちゃんのおしゃべりが和むきっかけを作ってくれることもあるのでそこは感謝だ。まあ、冬子ちゃんも男男男男の中で育ったから仕方がないといえば仕方がない。冬子ちゃんが生まれた頃には母親はもう失踪していたとのことだ。
「ほらゆら、起きろ。話進んでるぞ」
膝枕で妹のゆらちゃんの肩をポンポンと叩く光。普段あまり喋らない光だが、何だかんだいって妹持ちだ。面倒見はいい。涼、は……流風を尊敬の眼差しで見つめている。いつも通りだった、ほんとブレないなこいつ。あんま喋ったことないけど。
光に起こされて、頭を持ち上げるゆらちゃん。普段外に出ないせいか儚さがそこら中に漂っている。ゆらちゃんだけ妖精の森にいるような雰囲気だ。
「ふゆちゃん……わたしも…行っていいの……? ここにいる全員……?」
気の抜けた、小さな声を出すのは藤和の妹のゆらだ。名前の通り、頭が眠そうにゆらゆら揺れている。
「もっちろん! ここにいる全員で行ったほうが何百倍も楽しいじゃん!」
「そうですね、じゃあ、軽井沢にみんなで行きましょうか。いつにします? 私は別にいつでもいいんですが、皆さんの予定が合えば……」
いつも余裕な黒く涼しげな瞳のミステリアス代表忍さんも、今ばかりは楽しみらしく、身を乗り出していた。
「……来週の土、日、月」
流風が机を見つめながら言った。
「別に暇だけど……流風なんかあったっけ?」
「色々忙しいの。来週までには色々予定終わるから」
「じゃあ、来週の土日月! その三日間に旅行に行こう!」
冬子ちゃんの元気な声が大広間に響いた。
……何これ、どこのラノベ?
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