上 下
7 / 12
EP.1 さよなら世界、こんにちは異世界

006

しおりを挟む

side:M


大人しくオーナーの隣に腰掛けると、お前も大変そうだなといった視線をオーナーから向けられる。
その視線にへらりと笑い、視線をテーブルに移すと空になったロックグラスがコースターの上に置かれていた。
オーナーはいつもお決まりのお高いウイスキーをロックで飲んでいたようだ。
そんなに、お待たせしたわけではないはずだけど空になってるという事はオーナーもお疲れさまってことなんだろうなと思いながら、グラスのアイスを変えてウイスキーを注ぐとマドラーでグラスの中を混ぜ、グラスにつた水滴をハンカチで拭ってコースターへと置く。
そんな私を見計らってなのか、タバコに手を伸ばしたオーナーを見てテーブルに置いたあったマッチを手に取り火をつけてオーナーに差し出す。


そういえば、あの二人はどうしてるのかなと思って視線を向けると仲良く楽しそうに話していた。
ただね、新人ちゃん……流石にオーナーにほとんど背を向けるようにしてるのはどうかと思うよ。
てか、オーナーに挨拶してないし。
オーナーの顔が怖いのはわかるけど、挨拶はちゃんとしようよ。
今までの子も、さすがに挨拶はちゃんとやってたよ?
めちゃくちゃ怯えながらだったけどさ。

ちらりと、オーナーをうかがってみるとまったく気にしてる様子はない。
この人、身内には優しいんだけどそうじゃない人にはたぶん冷たい人んだと思うんだよね。
店のレギュラー陣や長く続いているバイトの子たちのことはそれなりに気にかけてくれてるんだけど、長く続かない子とか何かしら問題がある子には我関せず。
オーナーがどうこう言わなくても店長が問題がある子はやめさせたりしてるからそうできるんだとは思うけど……。
新人ちゃんも、アウトかなぁ。
お客さんを顔で選ぶようじゃ、このお仕事はやっていけないと思う。


「ええー!!いいんですかぁ」

「いいよいいよ、今日は俺のおごりだからじゃんじゃん飲んでー」


え、いや……ここはオーナーが払う流れんじゃないのかな?
一応、こんな空気ですけど!
接待ってことなんだろうし?


「あ、真白ちゃんも好きなお酒じゃんじゃん飲んでな」

「あ、ありがとうございます?」


いや、まぁ……いつも通りに好きなものを好きなだけいただく予定でしたけど、オーナーから。

隣に座るオーナーの顔をうかがうと別段気にした様子はなくウイスキーを煽っていた。
オーナーが気にしてないならいいか。

息子さんも新人ちゃんにお金持ちアピールでもしたいんだろうし。
私はお言葉に甘えて好きなものじゃんじゃんいただきますか。


「私、最近お酒を飲み始めたばかりであまり強いお酒って飲めないんです」

「じゃあ、スクリュードライバーとか飲みやすくていいよ。真白ちゃんは?」

「あ、私はワインいただきますね」


新人ちゃんのお酒も決まったようだし、呼出のベルを鳴らすと外で待機していただろう店長が部屋の中へ入ってくる。

中に入ってきた店長は、私たちの座ってる位置を見て一瞬驚いた顔をしていたが、直ぐに驚いた顔を元に戻し私の側に膝をついた。


「愛華ちゃんは⋯⋯」

「私はスクリュードライバーで!」

「私はいつものワインお願いします」


私たちの注文に笑顔で答えた店長は、素早く部屋の外へと出てドリンクの準備をしに行った。


それにしてもスクリュードライバーって、お持ち帰りしたい男が女の子に飲まずレディーキラーカクテルで有名なやつだよね。
もう完璧新人ちゃんのアフター狙いって感じですね、息子さん。
私は、スクリュードライバーよりルシアンが好きだけどなぁ。
カカオの風味がいいんだよねぇ。

さて、止めるべきかどうか悩んだけど、学生と言えど彼女ももうお酒を飲める年なわけで、そういう男女のことは自己責任だと私は思ってる。

お客さんと寝るもよし寝ないもよし。
ただ店に迷惑だけはかけるなよってことだよ。

それにカラダの関係ができたお客さんは長続きしないからなぁ。
もう、本当に自己責任。
オーナーの取引の邪魔にならなきゃそれでいいんじゃないかな。
まぁ、少々のことなら大丈夫でしょう。
彼が取引相手と言うよりは彼の父親が取引相手な訳だし。

寧ろ、こっちに来なくてよかった。
息子さんの相手をしてくれてる新人ちゃんには感謝だわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

主人公を助ける実力者を目指して、

漆黒 光(ダークネス ライト)
ファンタジー
主人公でもなく、ラスボスでもなく、影に潜み実力を見せつけるものでもない、表に出でて、主人公を助ける実力者を目指すものの物語の異世界転生です。舞台は中世の世界観で主人公がブランド王国の第三王子に転生する、転生した世界では魔力があり理不尽で殺されることがなくなる、自分自身の考えで自分自身のエゴで正義を語る、僕は主人公を助ける実力者を目指してーー!

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

初めての異世界転生

藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。 女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。 まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。 このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。

聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?

ねここ
ファンタジー
この世界では3歳になると教会で職業とスキルの「鑑定の儀」を受ける義務がある。 「鑑定の儀」を受けるとスキルが開放され、スキルに関連する能力を使うことができるようになり、その瞬間からスキルや身体能力、魔力のレベルアップが可能となる。 1年前に父親を亡くしたアリアは、小さな薬店を営む母メリーアンと2人暮らし。 3歳を迎えたその日、教会で「鑑定の儀」を受けたのだが、神父からは「アリア・・・あなたの職業は・・・私には分かりません。」と言われてしまう。 けれど、アリアには神様の声がしっかりと聞こえていた。 職業とスキルを伝えられた後、神様から、 『偉大な職業と多くのスキルを与えられたが、汝に使命はない。使命を担った賢者と聖女は他の地で生まれておる。汝のステータスを全て知ることができる者はこの世には存在しない。汝は汝の思うがままに生きよ。汝の人生に幸あれ。』 と言われる。 この世界に初めて顕現する職業を与えられた3歳児。 大好きなお母さん(20歳の未亡人)を狙う悪徳領主の次男から逃れるために、お父さんの親友の手を借りて、隣国に無事逃亡。 悪徳領主の次男に軽~くざまぁしたつもりが、逃げ出した国を揺るがす大事になってしまう・・・が、結果良ければすべて良し! 逃亡先の帝国で、アリアは無自覚に魔法チートを披露して、とんでも3歳児ぶりを発揮していく。 ねここの小説を読んでくださり、ありがとうございます。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...