上 下
6 / 12
EP.1 さよなら世界、こんにちは異世界

005

しおりを挟む

side:M




「失礼いたします。大変お待たせいたしました」


何この空気!!
入った部屋の中は、空気がとても冷たかった。
特にオーナーの周りが……。
そして一番異質なのは、そんな絶対怖い顔してるはずなオーナーをものともせずぺちゃくちゃ話している男だ。
どんだけ鈍感なんだよ。
てか、あの男はオーナーに何を話してんだよ。


「おっそい~。いつまで俺を待たせる気だよ?」


待たせたのは私たちが悪いはずなんだけど……なんだろう?
この少しむかつく感じ。

少し長めの茶髪をきれいにセットしていて、振り向いた顔はイケメンだった。
そんな顔を見た瞬間、オーナーを見てすぐに私の後ろに隠れていた新人ちゃんがずいっと前に出てきた。


「すみませぇん!!真白ちゃんがもたもたしちゃって遅くなってしまいました。私は早く行こうって言ったんですけどぉ」

「へぇー……」


私が悪いといったように言う新人ちゃんの言葉に茶髪のイケメン……取引先の息子さんはわたしの方をちらっと見る。

まぁ、私がメロンを食べてたから遅くなったていうのはあるんだけどさ?
私なんか待たずに店長が適当に新人ちゃんを紹介してつけとけばよかったんじゃないかな。

ちらっとオーナーに視線を移すと、いつも通り顔は怖いんだけどオーラが半端ない。
腕を組んで長い足を組んでじっと座っている。
イライラしている人ってよく貧乏揺すりをしたりするんだけどそういったことはまったくない。だけど、オーナーが私が今まであった中で一番イライラしているってことはこの部屋の空気とオーナーが醸し出している雰囲気でわかる。

何が言いたいかというと、どうにかこの場を穏便にすましてあの息子さんの相手は新人ちゃんに任せて私はオーナーの横で大人しくお酒を頂くのがみんなにとって一番幸せな展開なんじゃないかなってことだ。


「申し訳ございません。オーナーから大切なお客様がいらっしゃっていると聞いていたので、お客様のためにと気合を入れて準備しておりました」

「え、俺のため?」


とても申し訳ないという顔を作り相手の目を見ながら伝えると、自分のためにという言葉に食いついた息子さん。
まぁ、準備していたってのはうそなんだけど、俺のために必死に準備していてくれたって男の人は弱いよね。

「はい、お客様のために。遅くなりそうだったので先に愛華ちゃんにお席に行ってもらおうと思ったのですが、彼女は新人さんなので一人では不安かと思い……本当に申し訳ありません」

「……そういうことならまぁ」


二回目のお客様のためにという言葉の時には、今日一の笑顔でいい。またしゅんと申し訳なさそうな顔で謝るとそれ以上文句のつけようがなかったのか、納得してくれた息子さん。

面倒くさそうな客なのは変わりないけれど、扱いやすそうではあるからいいかな。
面倒だけど。
相手をよいしょしながら、笑顔で対応してたらなんだかんだでよさそうだから、とりあえずずっと笑顔を張り付けておくことにしよう。


「ありがとうございます!ご挨拶遅れましたが、真白と言います。よろしくお願いいたしますね」

「ああ、噂通りの美人だな」

「ふふ、ありがとうございます」

「あ、あの!!私は愛華って言います!!!」


相手の言葉に照れたように笑いながらお礼を言っていると、新人ちゃんがずいっと出てきて元気よく自己紹介をする。
ちょっと、私がオーナーと息子さんに同時に紹介しようと思っていたのに本当に元気いいなこの子。


「愛華ちゃんは学生さんで新人さんなのでお手柔らかにお願いしますね。お席、失礼してもよろしいですか?」

「学生かぁ……かわいいな」

「……ああ」


私が付け足した新人ちゃんの紹介に、学生という言葉に食いついた息子さん。
まあ、学生ってそれだけでなんか特別な感じがするもんね。
そして、さっきまで黙っていたオーナーが私の着席をうかがう言葉に返事をした。


「では、しつれ「失礼しまーす」」


オーナーの言葉を聞いてオーナーと息子さんの間に座ろうとした私をさりげなく押しのけ私の言葉をさえぎって二人の間に座った新人ちゃん。

いや、ちょっとまって。
何でそこに座る!?
息子さんの逆隣に座って君は息子さんの相手だけしていればいいようにしようとしてたんだけどな、私!
貴女、オーナーと息子さん両方の対応できないでしょ……てか、オーナーの対応する気ないでしょ。

「……オーナーお隣失礼しますね」


まぁ、いいか。
息子さんは新人ちゃんに丸投げして、私はオーナーの横で飲んでよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?

ねここ
ファンタジー
この世界では3歳になると教会で職業とスキルの「鑑定の儀」を受ける義務がある。 「鑑定の儀」を受けるとスキルが開放され、スキルに関連する能力を使うことができるようになり、その瞬間からスキルや身体能力、魔力のレベルアップが可能となる。 1年前に父親を亡くしたアリアは、小さな薬店を営む母メリーアンと2人暮らし。 3歳を迎えたその日、教会で「鑑定の儀」を受けたのだが、神父からは「アリア・・・あなたの職業は・・・私には分かりません。」と言われてしまう。 けれど、アリアには神様の声がしっかりと聞こえていた。 職業とスキルを伝えられた後、神様から、 『偉大な職業と多くのスキルを与えられたが、汝に使命はない。使命を担った賢者と聖女は他の地で生まれておる。汝のステータスを全て知ることができる者はこの世には存在しない。汝は汝の思うがままに生きよ。汝の人生に幸あれ。』 と言われる。 この世界に初めて顕現する職業を与えられた3歳児。 大好きなお母さん(20歳の未亡人)を狙う悪徳領主の次男から逃れるために、お父さんの親友の手を借りて、隣国に無事逃亡。 悪徳領主の次男に軽~くざまぁしたつもりが、逃げ出した国を揺るがす大事になってしまう・・・が、結果良ければすべて良し! 逃亡先の帝国で、アリアは無自覚に魔法チートを披露して、とんでも3歳児ぶりを発揮していく。 ねここの小説を読んでくださり、ありがとうございます。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

処理中です...