3 / 12
EP.1 さよなら世界、こんにちは異世界
002
しおりを挟むside:M
更衣室の中もピリピリしていた。
それもそうか。
オーナーが来るって聞いたからみんな緊張してるわけね。
そんなに緊張しなくてもいいのになぁ。
「おはよう、真白」
「美咲さん、おはようございまーす」
「今日は篠宮社長と同伴?」
「そそ、前から連れて行ってもらいたかったお魚料理と日本酒のおいしいお店に行ってきましたー!いやぁ、本当美味しかったですよ。美咲さんも今度行ってみてください」
「相変わらずね、真白は……」
美味しかった今日のメニューを幸せそうな笑顔で伝える私に、呆れたような笑顔を見せるのはこの店No.2で私がこの店に入った時からよくしてくれている先輩の美咲さんだ。
クールビューティーな彼女にはMっ気のあるお客さんが多い気がする。
美人だからか少し冷たく感じる表情と視線がいいんだそうだ。(美咲さん指名の古株さんが言うには)
あと、お姉さん感が半端ないから若いお客さんにも割と人気があったりする。
「この空気で気づいていると思うけど今日オーナーが来るらしいわよ」
「あー、うん、さっき店長から聞きましたー。今日は私と新人ちゃんつける予定らしいですよー」
私の話を聞いていた他の女の子たちが安堵の溜息をついている。
そんなにオーナーに付きたくないのか!
オーナーの席は美味しいお酒いっぱい飲めるのに……。
「あんた、相変わらずすぎるわね」
「何が?てか、みんながオーナーのこと怖がりすぎなんですよ。あの人怖いのは顔だけだって」
私の発言に周りの女の子たちはぎょっとした顔をする。
「ちょっ……あんただけよ、オーナー相手にそんなこと言えるのは。噂とか聞いたことないの?」
「いや、だってほんとのことだし?噂は噂で私は自分が見たものだけ信じてるで!てか普通に好きなお酒好きなだけ飲ませてくれるし、話し振らなくてもいいし楽ですよ?」
「いや……あの席で好き勝手に飲めるのはあんたくらいよ。みんな緊張してそれどころじゃないわよ」
ええ、そうなのかな?
緊張なんかしないけど。
オーナーの顔は何人殺してきましたか?ってほどの強面な人相だけどさぁ。
それに連れてくる人たちも前科持ちだろって顔の人が多いけどさ、大人しく飲んでる分には安全だと思うけどなぁオーナーの隣が一番。
「あれ?そういえば、今日一緒につく新人ちゃんは?」
「ああ、あの子なら今日も遅刻みたいよ。本当に、遅刻するくらいなら出勤時間ずらしてもらえっての」
「へぇー、遅刻かぁ……オーナーが来るまでに出勤してきたらいいけど」
「ていうか、真白!こんなにだらだら話してる時間なんてあるの?」
「あ、篠宮社長待たせてるんだった!!」
美咲さんに言われて時計を見ると、結構話しこんでいたみたいで結構な時間がたっていた。
篠宮社長のところに付く時間は、オーナーが来るまでだから時間が限られてるんだった。
さて、今日のドレスは篠宮社長に買ってもらった物にしようと思ってたんだけど、オーナーが来るなら誕生日の時にオーナーにもらったドレスにしようかな。
みんな、オーナー怖いって言ってるけど、女の子の誕生日には必ず誕生日プレゼントを用意してくれてるくらいいい人なんだけどなぁ。
顔は怖いけど。
私もオーナーと初めて会ったときは、殺されるんじゃないかと思ったよ。
でも、好きな物好きなだけ飲めって言われたらもういい人としか思えなかったよ。
本当に、当時の私はチョロすぎだったと思う。
みんなが怖がるうちの店のオーナーとは、このあたり一帯を仕切っているヤクザのお偉いさんだったりする。
今のご時世にヤのつくお仕事なんてって思うけど、オーナーたちがこの辺りを仕切ってくれているから、変な輩や酔っ払いが少ない。
それに、この店の女の子だとこの辺りの人は知っているから絡まれることもなく、本当にオーナー様様。
篠宮社長だって、最初にオーナーの席についたときに仲良くなれたんだから本当にオーナーには感謝しかない。
太客になりそう人を連れてきてくれるんだから。
「おはようございますー!」
オーナーから貰ったワインレッドのシンプルなタイトドレスに着替えていると、新人ちゃんが遅れて出勤してきた。
そんな彼女の登場に、更衣室にいた女の子たちの視線が集中する。
みんな、今日オーナーの席に着く彼女を気の毒そうに見ている。
「え、なんですかぁ!この空気!!」
何とも言えない、この空気に頭に?を浮かべてきょろきょろとしている。
小柄でふんわりしたセミロングで何とも小動物みたい。
「愛華ちゃん、遅刻はしないようにね。流石に毎回毎回は困るから」
「すみませんー!学校の授業が長引いちゃって」
そんな中、我らが姉御の美咲さんがこの空気をものともせずに遅刻についての注意をする。
流石、美咲さん。
そんな美咲さんにてへぺろって感じに軽い謝罪をする新人ちゃんは、本当に肝が据わってんじゃないかなって思う。
先輩より遅れてきて遅刻の謝罪もないし、怒られてもあんな感じに謝るとか、普通はできないよね。
最近の子恐ろしいな。
「……これならなんも心配ないんじゃないかなぁ」
まだ、注意している美咲さんと新人ちゃんには聞こえなかったみたいだけど、私のつぶやきが聞こえた周りにいた子たちは同意するように頷く。
「ま、いいか。じゃあ、私は先にお店の方に行くから~、後はよろしく」
とりあえず、怒ってる美咲さんと新人ちゃんは周りの子たちに任せることにして、私は待たせっぱなしにしている篠宮社長のもとへ急ぐために、軽くお化粧を直してドレスに合うパンプスを履き更衣室をる。
「新人ちゃんの名前、愛華ちゃんっていうんだ~」
新人つけるぞ言われてたけど、顔は出てきても名前が出てこなかったんだよねぇ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~
すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》
猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。
不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。
何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。
ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。
人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。
そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。
男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。
そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。
(
転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。
転生はデフォです。
でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。
リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。
しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。
この話は第一部ということでそこまでは完結しています。
第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。
そして…
リウ君のかっこいい活躍を見てください。
異世界で俺はチーター
田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。
そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。
蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?!
しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
初めての異世界転生
藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。
女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。
まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。
このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。
聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?
ねここ
ファンタジー
この世界では3歳になると教会で職業とスキルの「鑑定の儀」を受ける義務がある。
「鑑定の儀」を受けるとスキルが開放され、スキルに関連する能力を使うことができるようになり、その瞬間からスキルや身体能力、魔力のレベルアップが可能となる。
1年前に父親を亡くしたアリアは、小さな薬店を営む母メリーアンと2人暮らし。
3歳を迎えたその日、教会で「鑑定の儀」を受けたのだが、神父からは「アリア・・・あなたの職業は・・・私には分かりません。」と言われてしまう。
けれど、アリアには神様の声がしっかりと聞こえていた。
職業とスキルを伝えられた後、神様から、
『偉大な職業と多くのスキルを与えられたが、汝に使命はない。使命を担った賢者と聖女は他の地で生まれておる。汝のステータスを全て知ることができる者はこの世には存在しない。汝は汝の思うがままに生きよ。汝の人生に幸あれ。』
と言われる。
この世界に初めて顕現する職業を与えられた3歳児。
大好きなお母さん(20歳の未亡人)を狙う悪徳領主の次男から逃れるために、お父さんの親友の手を借りて、隣国に無事逃亡。
悪徳領主の次男に軽~くざまぁしたつもりが、逃げ出した国を揺るがす大事になってしまう・・・が、結果良ければすべて良し!
逃亡先の帝国で、アリアは無自覚に魔法チートを披露して、とんでも3歳児ぶりを発揮していく。
ねここの小説を読んでくださり、ありがとうございます。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
異世界転生したならば自由でいたい〜我慢はしない!〜
脆弱心
ファンタジー
前世は苦労は自分からしてたでも何一ついい事なかった逆にそれでこの人はなんでもやってくれる便利な人扱いで都合良く使われて苦労が増えたほど。頼まれれば無碍にできなかったりした自分も悪いんだと思う、それで仕事が増えて増えて増えまくったところでポックリの35歳人生終わりで気がつくと不思議な空間まさかの異世界転生!?
ご褒美ですか?今度は自由でいいですか?
我慢はもうしません!
好きに生きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる