上 下
2 / 12
EP.1 さよなら世界、こんにちは異世界

001

しおりを挟む

side:M




「篠宮社長ー!もう、ここのお魚どれも新鮮ぷりぷりでとっても美味しいです!!」

「真白は相変わらず幸せそうに食べるよなぁ」

「いや、本当に美味しいもの食べれて幸せですし!そしてこれから美味しいお酒も飲めるんだからテンション上がりまくりですよ~」

「お前の場合、カップラーメンでも幸せそうに食うだろ」

「いやいや、これはね篠宮社長が食べさせてくれる高級なご飯だから美味しいし幸せなんです~!」

「流石、No.1キャバ嬢は口がうまいなぁ」

「お褒めに預かり光栄でーす!まぁ、私は自分が思ったことしか口にしてないですけどね。あ、社長!そろそろ行かないと私遅刻になっちゃうんで行きましょー!」


腕に着けているお気に入りのBVLGARIの腕時計に視線を落とすと、出勤時間の30分前になっていた。
ここからタクシーを使ってお店まで20分。
今出るとジャストな時間にお店に着けると思い、最後の一口になっていたサザエのなめろうとお猪口に一口分だけ残っていた日本酒を流し込む。


「お、もうそんな時間か。そろそろ出るか」

「は~い!篠宮社長、ご馳走様でした!今日もとっても美味しかったです。ありがとうございました」


私の言葉に篠宮社長も自分の腕時計を確認すると呼び鈴を鳴らしてお会計の合図を店員さんに送る。
私はそんな篠宮社長の目を見てきちんとお礼を伝えてお化粧直しに席を立つ。


今日は、私の一番のお客さんである篠宮社長おすすめのお魚料理と日本酒がおいしいお店に連れてきてもらった。
篠宮社長は、一番付き合いが長いお客さまだ。
まだ私がこの店に入って間もないど素人な上に世間知らずな大学生だった頃にお席について、指名をしてもらえるようになった。
付き合いが長いから、割と素に近い感じはせれるし美味しいご飯を食べさせてもらえるし、変にお触りとかなく楽しく話して飲んでできるから大好きなお客さんだ。
中にはクッソ面倒くさいお客さんもいるんだけど、どうやってその人たちを自分にとっていいお客さんにするかって言うところが、なんか乙女ゲームとみたいで楽しかったりする。
あと、この仕事をしていてよかったなって思えるのはこうして普通に働いていたら来ることはないであろう高級なお店に連れてきてもらって、他人様のお金で美味しいものを食べ飲みできることだと思う。
おかげさまで食費は浮くし!

お手洗いの大きな鏡を見ながら透明感のある赤いリップグロスを唇に塗る。


「よしっと……いやー、それにしても食べ過ぎたわ。お腹苦し……ドレス入るかなぁ」


食べ過ぎて少し出たお腹をさすりながら、外で待っているだろう篠宮社長のもとへ急ぐ。

外に出てみると、いいタイミングでタクシーが来ていた。


「社長ー、お待たせしました!」

「おう、はよ乗れ遅刻するぞ」


社長に言われ、社長に続いてタクシーへと乗り込むとお店の場所を伝える。


「あ、そういえば、社長!私、明日から一週間くらいお店休みまーす!新作のゲーム出たんで」

「本当にお前は相変わらずだな」

「待ちに待った新作なんで!」

「それにしても店長がよく許したなぁ。No.1が一週間も休むと店も大変だろ」

「貯金もそれなりに貯まったんで、休ませてくれないと店辞めてやるって脅しましたー」

「お前なぁ、もうちょっとあいつのこと労わってやれよ」

「えー、店長も人使い荒いんですよ?いつも大変なお客様に私を付けるんですから」

「それだけお前のことを信頼してるってことだろ。お、着いたぞ」


腕時計を確認すると出勤時間の5分前。
ちょうどいい時間に到着した。
先にタクシーを降りてタクシーの料金を払っている社長を待つ。
降りてきた社長と腕を組み、お店の扉のへと行く。
扉を開けるとカランっと軽やかにドアベルが鳴る。

ちょうど扉の近くにいたらしい店長がドアベルの音に振り返ると、私をみて安堵の溜息を吐き、すぐにいつものにこやかな営業スマイルで篠宮社長に挨拶をする。
そんな店長とお店の雰囲気がいつもと違うことに首をかしげる。


「篠宮社長、いらっしゃいませ!お待ちしておりました」

「おう、今日もよろしく頼む……にしても、何かあったのか?」

「ええ……実は急遽オーナーがいらっしゃることになりまして」

「おお、今日はあいつも来るのか!」

「はい、なので今日は途中で真白をお借りします。申し訳ありません」

「おう、好きに連れてけ連れてけ。俺もオーナーには挨拶に行くと伝えておいてくれ」

「かしこまりました。ではお席へご案内しますね。真白は突っ立てないで早く着替えてこいよ」


私のことはお構いなしに二人で話して席へと行ってしまった社長と店長。

そういうことか、この店の空気。

オーナーが来るという事でみんないつもよりピリピリしている。



とりあえず、私も早く着替えてしまおう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?

ねここ
ファンタジー
この世界では3歳になると教会で職業とスキルの「鑑定の儀」を受ける義務がある。 「鑑定の儀」を受けるとスキルが開放され、スキルに関連する能力を使うことができるようになり、その瞬間からスキルや身体能力、魔力のレベルアップが可能となる。 1年前に父親を亡くしたアリアは、小さな薬店を営む母メリーアンと2人暮らし。 3歳を迎えたその日、教会で「鑑定の儀」を受けたのだが、神父からは「アリア・・・あなたの職業は・・・私には分かりません。」と言われてしまう。 けれど、アリアには神様の声がしっかりと聞こえていた。 職業とスキルを伝えられた後、神様から、 『偉大な職業と多くのスキルを与えられたが、汝に使命はない。使命を担った賢者と聖女は他の地で生まれておる。汝のステータスを全て知ることができる者はこの世には存在しない。汝は汝の思うがままに生きよ。汝の人生に幸あれ。』 と言われる。 この世界に初めて顕現する職業を与えられた3歳児。 大好きなお母さん(20歳の未亡人)を狙う悪徳領主の次男から逃れるために、お父さんの親友の手を借りて、隣国に無事逃亡。 悪徳領主の次男に軽~くざまぁしたつもりが、逃げ出した国を揺るがす大事になってしまう・・・が、結果良ければすべて良し! 逃亡先の帝国で、アリアは無自覚に魔法チートを披露して、とんでも3歳児ぶりを発揮していく。 ねここの小説を読んでくださり、ありがとうございます。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

姫軍師メイリーン戦記〜無実の罪を着せられた公女

水戸尚輝
ファンタジー
「お前を追放する!」無実の罪で断罪された公爵令嬢メイリーン。実は戦いに長けた彼女、「追放されるのは想定済み」と計画通りの反撃開始。慌てふためく追放する側の面々。用意周到すぎる主人公のファンタジー反逆記をお楽しみください。 【作品タイプ説明】 イライラ期間短く、スカッと早いタイプの短期作品です。主人公は先手必勝主義でバトルシーンは短めです。強い男性たちも出てきますが恋愛要素は薄めです。 【ご注意ください】 随時、(タイトル含め)手直ししていますので、作品の内容が(結構)変わることがあります。また、この作品は「小説家になろう」様「カクヨム」様でも掲載しています。最後まで閲覧ありがとうございますm(_ _)m

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

処理中です...