上 下
7 / 9
本編

007

しおりを挟む

『XXXちゃんっていつも難しそうな本を読んでるよねぇ』


ある晴れた日の昼休み、いつものように図書室のお気に入りの場所で読書にふけっていると、同じクラスの女子に声をかけられた。

折角の読書の時間を邪魔されたことと彼女の甲高い声に苛立ちを覚える。それを悟られないように、笑顔を顔面に貼りつけて声のした方を向くとすぐ目の前に彼女はいつものへにゃりとした小動物のような笑顔で立っていた。


『そう?わたしは、そんなに難しいとは感じたことないけど?』

『うーん、そうかなぁ?とーっても、難しいけどなぁ』


いつものように猫を被って笑顔で応えると、彼女はわたしの持っている本を覗き込むと、うーんと難しそうな顔をした。


まぁ、そうでしょうとも。
彼女にしてみたら中学生向けの読み物でも難しい本になってしまうんじゃないかと思う。

彼女はいわゆる天然と呼ばれる人間だ。脳内お花畑のプリンちゃん。でも、本当の天然というよりは作られた天然じゃないかなとわたしは考えてるけど。

彼女、男ウケはすこぶる良いのである。目が大きくて可愛らしい顔をしていて身長が小さいから小動物みたい。そして正義感の強い天然。
男は、小動物系で正義感が強くて自分よりおバカな天然が好きな傾向があると思う。きゅるんって感じの砂糖菓子みたいな脳内お花畑な子とか。

そんな感じで彼女は男ウケはいいんだけど、女子ウケは悪い。

まず、天然過ぎて自分ワールドを持ってるから話が噛み合わない。あと、正義感も自分の物差しで測った正義感だから本当にうざい。そんな感じで、女子からは浮いている。

結果、わたしの嫌いなタイプになるわけだけど、今のところこちらに被害はないしいざこざに巻き込まれることもないから普通にその他大勢と同じように接している。

しているけど、正直な話、彼女話すのは面倒臭い。あといつわたしのイライラはMAXになるのかなってところ。


『佐藤さんももう少し簡単なものから読んでいくと理解できるようになると思うよ?』

『えー!!いやいや、そんな難しいわけわかんないの読みたくないよぉ。私には学校の勉強だけでいいなぁ』

『そう?知識はあればある程、自分のためになるよ?』

『んー、でも最低限のもので困らないだろうしー、私はみんなが教えてくれるから大丈夫だよぉ』


流石、お花畑。
何でもかんでも他人が教えてくれると思うなよ。
何事においても、相手より有利に立つには知識と情報が必要でしょう。みんながみんな、本当のことを教えてくれるわけじゃないし。

ちなみに、わたしは教えないタイプの人間だからこのことは心の中にしまっとこう。

たぶん彼女にはいらない知識⋯⋯というよりは、理解できない知識だろうし。


『そう言われてみれば、そうね⋯⋯』

『でしょう!?だからXXXちゃんもそんな難しい本じゃなくてもっと楽しい本を読もうよぉ!これ、とか!!』


わたしのあなたには必要ないものねと言う嫌味のこもった視線に気づかない彼女は、わたしの言葉を聞くと嬉しそうに笑いながら手に持っていた本をわたしの目の前に掲げた。

表紙には中生っぽいドレスをきた現実ではありえないピンクの髪の女の子とその周りをこれまた現実ではありえないような髪色の男たちが囲んでる絵が描かれてある。


『この小説ね!私が今一番ハマってる小説なの!本当に本当にキュンキュンしちゃってヤバいの!みんなイケメンだしキラキラしてるの!!絶対、XXXちゃんもハマるから読んでみてぇ!』


テンション高々に、全くこの物語の説明になってない言葉を言いながら、ずいっとわたしに本を押し付けてくる。

いや、明らかにわたしの好みじゃない上に何も収穫の無さそう小説なんだけど。


『え、ええ、時間があれば読んでみるね?』

『ふふー!読んだら感想教えてねぇ!誰がタイプだったとか色々!ちなみに私のタイプは第一王子なのぉ』


絶対!絶対読んできてね!!と念を押すようにもう一度言うと、彼女はわたしにこの本を押し付けて図書室から出て行った。

一体、なんだったの?
なに、読んでみてってこんな頭の悪そうな話をわたしに読めと??
つか、お前のタイプなんて興味ないわ。
第一王子ってことは、この真ん中にいる男の人のことか。絶対わたしのタイプではないな、見るからに俺様チックな男でしょうまじ無理。殴りたくなる。

他の男もパッと見るかぎりタイプじゃなさそう。
強いて言うなら、裏表紙に書かれてる美人さんがタイプかなぁ。なんとなくわたしと似た感じがするのよねぇ。


まぁ、とりあえず、気が向いたら読むかなぁ。
向くことはないと思うけど。




















なぁんで思ってました。
アレから、毎日のように彼女に絡まれるようになりました。
あの本は読んだのかと。

全く読む気起きなくて読んでいよね。
そうなると毎日毎日彼女に絡まれるわけでいい加減鬱陶しい。
そろそろ、猫被って相手するのも怠くなってきた。というか、そろそろ殴りそう。

なわけで、読んでみることにしたけど⋯⋯。



この小説、クソだなってことくらいしかわからなかった。

貴族の庶子だった平民の女の子が学園で王子様に見初められて王妃になるって話なんだけど。
逆ハーっていうの??出てくる男はみんなこのヒロインが大好きってありえないだろ。
しかもなに、王子は婚約者いたのにヒロインと浮気してくっつくし、婚約解消にすれば良いのに破棄するし?
つか、ヒロインも1人と言わずに多数の男といちゃつくしもう、ただのビッチだろ。
悪役令嬢も、なんでこんな王子が好きなわけ?もう見限ろうよ。馬鹿なの??こんな馬鹿が王様になんかなったらこの国は終わりだよ。
平民だった女が王妃様なんて務まるわけないだろ。そこは妾とかそんなのにしときなよ。

って言う、なんとも言えない感想しか感じなかった。


てか、題名からしてバカみたいな題名だしさ。





なんなの、《恋するシンデレラ~私の心を射止めるのは誰?》って。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」 婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで← うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

永遠の愛を手に入れよう

トマトマル
恋愛
ヴァルドレア王国のお姫様は、たいそう、可憐で愛らしいとのこと。 そんな噂が広まる度に、 隣国の大貴族から遠い異国の王子様まで、彼女を手に入れようとした。 蕩けるような愛の言葉、煌めく宝石、どんなモノも駆け引きも、彼女の心に響かない。 ──────── ※設定はユルユルのガッバガバ。 ※見切り発車の上、深夜テンション

悪役令嬢の妹を助けたい、ただそれだけなんだ。

克全
恋愛
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月10日「カクヨム」恋愛日間ランキング21位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング33位

(完結)(続編)カトレーネ・トマス前々公爵夫人の事件簿 その1

青空一夏
恋愛
私達は相思相愛の美しいカップルだった。 大恋愛をして、結婚したけれど、子供(マリー)が産まれたら状況は一変した。 「マリーの夜泣きをなんとかしてくれ! うるさくて寝られやしない!」 マリーを連れて公園で散歩をさせてと頼むと、 「ふふふ。僕にそれを求めるのかい? それじゃぁ、その公園をよくみてごらんよ。その子供と遊んでいる夫に僕ほど美しい男がいるかい? 君は、綺麗な男を求めて僕と結婚したのだろう? 私も美人が好きだから君を選んだのに・・・・・最近の君ときたら・・・・・・女をすててるよね? 少しは隣のナタリーさんを見習えよ? そうそう、お向かいのお屋敷のゾーイ・パラダイス伯爵夫人なんて、君よりずっと冴えなかったのに、子供を二人産んでもあの美貌だよ? おかしいだろう? それに、私は仕事で疲れているんだ! 酷いことを言うのはやめてくれ!」 と言われた。 おかしいのは、私じゃないわ、あなたでしょう?  浮気者の勘違い男にざまぁ物語です。ゆるふわ設定のご都合主義。 #カトレーネ・トマス前々公爵夫人シリーズ ※シリーズ化で、本編と続編にするのあったては運営に許可をいただいております。

あなたがわたしを捨てたのに~わたしに婚約破棄を突きつけた殿方が再び迫ってきているのですが~

朝露ココア
恋愛
「マリーズ。すまないが君との婚約を破棄させてもらう」 長年連れ添ってきた婚約者のトリスタンに、マリーズは婚約破棄を突きつけられる。 これまで献身的に尽くしてきたにもかかわらず、理不尽な婚約破棄。 仕方ないかとマリーズは諦め、父に命令されて次なる婚約者を探していた。 ある日、夜会帰りにマリーズは賊に襲われてしまう。 そこを通りかかった伯爵令息、ローティスに助けられる。 「マリーズ嬢……叶うことなら、君と一緒に幸せを掴みたいものだな……」 次第にローティスと絆を深めるマリーズ。 両親もその気になってローティスとの婚約を望み始めた。 「まずは謝罪させてほしい。君に婚約破棄を突きつけたことを」 そんな折、マリーズに婚約破棄を突きつけたトリスタンが戻ってくる。 しかし、彼は人が変わったように誠実な性格になっていて……。 *浮気した婚約者と復縁する展開です。苦手な方はご注意ください。

身勝手な恋心

日暮 千疾
恋愛
 マルガはどこの街にもある酒場で働く娘だ。今では気心のしれた友人で美しい淑女であるベーネは見るからに貴族の令嬢だったがマルガの働く酒場で出会い、今では良い飲み友達である。そしてマルガはそんなベーネに恋をしている。  性行為を匂わせる描写がありますが直接的な行為描写はしてません。更新は筆が乗ったら。

処理中です...