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本編

002

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——あの日、わたしの運勢は過去最高に悪かったんじゃないかと思う。いや、占いや運勢なんて全く信じていないけど。それぐらい、最悪で胸糞悪い日だった。もし、もう一度あのバカに会えるならとりあえずちゃんと去勢してやろうかなと思うぐらいにはムカついてる。


あの日のことを話す前に、少しだけ“わたし”のことと“あのバカ”のことを話そう。

わたしは、学生時代には才色兼備、文武両道という言葉が似合う女の子だった。頭はいい、顔もスタイルもいい。ダメなところなんて何一つない、完璧な優等生ちゃん。性格を除いて。自分の性格が悪いのは自覚してるし、大きなネコちゃんを飼ってたから大勢の前で、わたしの性格の悪さが露見することは無かった。

嫌いなものは、馬鹿と御綺麗事しか言えない正義感の強い人間とすぐ泣く女。
好きなものは、他人の不幸。他人の不幸は蜜の味っていうしね。
最低女って?でも、他人の不幸を喜ぶ人間なんていくらでもいるでしょう?わたしは違うって言う人もいるけど、絶対そんなことありえない。こんな話するのは嫌だけどさぁ、好きな人が告白されているところをたまたま見ました。告白した人は、相手から振られてました。よかったって思うでしょ?相手の不幸を喜んでんのと一緒じゃん?そういうこと。


そして、こんなわたしにも素で話せる人間ってのは何人かいる。
まぁ、その1人が“あのバカ”になるわけ。
出会いは高校の入学式の後、いきなり上から目線で告られた。“君、可愛いね。俺が付き合ってあげるよ。嬉しいでしょ?”って感じで。
まぁ、普通に丁重にお断りしたはずだったんだけど、女子から断られるなんて初めての事だったらしいヤリチンクズ野郎に何故か気にいられて付きまとわれるようになりましたとさ。

そこからは、もうとんとん拍子。どんなにヤリチンクズ野郎だろうが顔面は良いわけで、すこぶるモテたバカの自称彼女や何やかんやにあからさまないじめをされたりしたので倍で返したりしてたらある日、バカにわたしの素がバレた。

バレたのなら仕方ないと、今まで付きまとわれてどれだけ面倒くさかったかということを、素のわたしの言葉きっちり伝えてあげたんだけど、まさかの今まで以上に気に入られましたとさ。


そんなこんなで、成人して社会人となったあともバカとの腐れ縁はずっと続いていた。





そして、あの日になるわけなのだけど——。







あの日、わたしの機嫌は朝からMAXに悪かった。
その理由は、数日前から続く迷惑電話と迷惑メールのせいである。迷惑メールはフリーのアドレスを使っているの毎回アドレスが違うため着拒にするのはそうそうに諦めた。非通知の番号からかかってくるそれは、来たその日のうちに非通知を着拒する設定にしたわけだけど、着信履歴には残ってるわけでお前いつ寝てるの?ってくらい掛けまくってきている。

正直すこぶるキモイ。あと、着信履歴とメールの受信がそいつので埋まっていて、仕事用のメールとか大事なものの確認に時間がかかる。携帯を買い換えればいいと思うけど、こいつの為に、最近買い換えたばかりのコレを変えるのは腹が立つ。

そして、この原因は何かってことも簡単に想像できる。



この迷惑極まりない行為が始まる前日、わたしはバカと馴染みのバーでいつものように愚痴っていた。

「まーじーで、何なのあのクソお花畑共。ふざけんなっての男に媚びてるのはお前らだろーよ」

最近会社に、イケメンな新入社員が入ってきた。そんな新入社員くんの教育係に任命されたのがこのわたしである。

「いや、猫被ってる時のXXXちゃんは、十分媚びてるように見えんじゃねぇの?どうせいつものように、人畜無害な善人のような笑顔で『大丈夫?わからないところがあったらいつでもなんでもわたしに聞いっ』てぇ!!」

「キモい」

隣に座るバカが、わたしの声と表情を真似てきた瞬間に、ついバカの足を蹴飛ばしてしまった。だって本当にキモかったもの。あと、なんかあの表情腹立つ。

「いってぇ⋯⋯相変わらず、口も足も悪りぃよなぁ。まぁ、そこがいいんだけどさぁ。てか、俺の言葉に否定しなかったてことは、その新人くんに言ったわけっしょ?」

「その顔キモい」

わたしの蹴り飛ばした足を抱えながら、痛いと口では言いつつその顔はニマニマと笑っている。本当にキモいわドMかよ。

まぁ、新人くんにはそう言いましたよ?わたしが新人教育していいなら、とりあえずわたしが楽できるようにしっかり学んでもらってわたしにまわってくる仕事を少しでもやってもらえるような人材を作りたいじゃない。だからとりあえず、優しくでも厳しく教えていこうかなぁと思ってさぁ。
このバカが言ってることは合っているけど、こいつのドヤ顔に腹が立って睨みつける。

「どうせ、今後使えそうな新人だったからXXXの信者にでもしようとしたんでしょ」

「ぶはっ⋯⋯信者って、なになに、宗教でも始めんの?っいて」

睨み付けるわたしに、これまたわたしの考えを読み取ったかのように言いながら、わたし達の前にことりとお酒を置くここのバーのオーナーであり、わたしの幼馴染でめちゃくちゃ頭のいい変人だ。

「宗教なんて始めるわけないじゃない、面倒くさい。てか、信者って何よ」

「学生の時も何人もいたでしょ?XXXの猫被りに騙されてXXXの信者になってた奴ら」

「べつに、アイツらが勝手に信じて勝手にわたしを崇めてただけでしょ。わたしは何もしてないから」

「そのあと裏切られても信じた奴らの自業自得?」

「そうでしょ?なぁに?幻滅した?」

「いや、相変わらずいい性格してるよ。XXXのそういうところ嫌いじゃない」

「ふふ、知ってる」

「ちょーっとまったぁ!!!何俺のこと無視して2人でなんかいい感じになっちゃってんの??」

「「⋯⋯⋯⋯」」

「ちょっと、2人してあ、いたの?みたいな顔してんじゃないよ。ひど~い。俺泣いちゃーう」

バカを無視して2人で話していると、嘘泣きしながらがばりと抱きついてくる。こういう面倒臭いところがウザいんだよなぁ。このバカ。

「ちょっ、何その残念なやつを見るような蔑んだ目!!そんな顔しててもやっぱ顔だけはいいよねXXXちゃん」

「お前は顔も頭も残念だよね、あと嘘泣きキモい」

「あぁ、キモいな」

「なんなの2人とも俺のこと大好きすぎじゃん」

「「は??」」

頭湧いてんじゃないかなコイツ。

「好きな子ほど虐めたいっていうアレっしょ??」

バカ?

「ちょっ、そんな無表情で見つめんなよ、XXXちゃんの無表情は怖いわ。できれば可愛い笑顔が見てぇなぁ?」

なんて言いながらわたしの頬に手を添えるバカ。でもバカの目線はわたしの背後に行っていてニィっと口角が上がる。それが見えた瞬間、ああ、いつものお決まりのアレかな。とすぐに勘付いた。だからコイツは面倒臭い。

「ちょっと!!!何やってんのよ!?!!」

わたしが思った通り、すぐにわたしの背後から甲高い女の怒鳴り声が聞こえた。
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