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しおりを挟むチンっと目的の階についたことを知らせる安っぽい音が鳴ると、エレベーターの扉が開く。真っ暗だろうと思っていた廊下は、オフィスから漏れるほのかな光で薄っすらと明るい。
……あれ?私電気消し忘れてた?
いやいや、そんなはずはない。しっかりと戸締りと消灯の確認をしてからオフィスを出た。
だったら警備員とか?警備の時って電気つけて見回る?懐中電灯であたりを照らしながら見回りしてなかった?
何となく、そう何となくだけど嫌な予感がした。
こういった直感的なものはよく当たるほうだ。……特に嫌な予感のほうが。
足音を立てないようにつま先でそろりそろりとあかりが漏れているオフィスへと近づくと、
ガシャンッ――……
「っ……」
突然、何かがぶつかるような大きな物音がした。
びっくりして出そうになった声をとっさに両手で口を塞いで我慢する。
スカートを履いているのも構わず、オフィスの入り口横の壁に背をつけるようにしゃがみ込んで耳を澄ませると、中から数人が何かを話している声が聞こえてくる。
泥棒とか?
いや、でもうちのオフィスに盗るものなんてないはず。
「――は、――で……だろ?」
「俺――……い!」
入り口から離れた場所で話しているのか、聞こえてくる声は途切れ途切れで何を話しているのか全然わかんらない。
ただ、一人だけ聞いたことのあるような声がするのは気のせいかな?
「俺じゃない‼︎ 俺はしらぁがっ」
聞いたことある声の主が一際大きな声で何かを訴えかけている途中で、人を殴るような鈍い音が聞こえた。声の主が殴られたのであるろう。
というか、今話して殴られた人、いつもセクハラとパワハラがうざい上司の声だった気がするんだけど?
これ、どういう状況?
いつも私や同僚たちに怒鳴り散らしている偉そうな上司からは想像もできない、怯えたような切羽詰まった声で叫んでいる。そのうえ、殴られたのかけられたのか分からないけど何かしらの暴力を受けているよう。
これは警察案件?でも警察に通報したとして、事情聴取とかされたら帰るの何時?最悪、明日は寝ないまま仕事しないといけない可能性がある。……それはかなりしんどいし面倒くさい。明日は社長と取引先に商談に行く予定だ。コンディション最悪のまま行くのは避けたい。
普段、あれだけセクハラもパワハラもお手の物な上司だ。この状況は自業自得で因果応報なんじゃないだろうか。
というか、いい大人なんだし自分で何とか出来るでしょう。
あ、それに上司に何かあればワンチャン明日の商談はなかったことになるかもしれない。
うん、見なかったことにして帰ろう。
もう終電は終わってるだろうしタクシー拾って帰ろう。
財布は……確か家にお金あるしタクシーで帰って家からお金とってきて支払えばいいや。
てか、最初かそうしてればよかったわ。
よし、私は何も見なかった。さっさと下に降りてタクシー拾って帰って寝よう。
18連勤に寝不足が加わって、いろいろ考えるのが面倒くさくなった私はこの光景を見なかったことにして、来た廊下を引き返そうとオフィスの入り口に背を向けて立ち上がろうとした。
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