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24 覚えていてくれただけでいい

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モルトは頑張った。

レベル31で総MP310~350くらい。1回の使用MP10の錬成を15回、使用MP15の合成鍛冶9回を使って、「クリスタルドラゴンミスリルナイフ」を作り上げた。

そして、そのまま膝を付いた。

「お疲れ。すごいナイフが出来たわ」

「魔力不足で頭がいてえが、気分はいいべ」
「ほら、抱えていくから。そのまま街を出るわよ」

モルトは必要な道具は腰に下げている。大した家財道具もないそうだ。

キングダム工房の奴らが錬成所から消えたことで、アラートも鳴っている。モルトの兄弟子の1人が嫉妬心に燃えた目をしていたし、工房主も悪い目をしていた。何をするか分からない。

夜でも街中にとどまるのは危険だろう。



私が眠ったモルトを抱えて歩いている。ここなら西に195キロ、パリパの東5キロにあるニスに連れていく。だけど今は東に2キロの、ルイズ中級ダンジョンに向かう。

「そこからモルトを離れたダンジョンに「壁転移」で避難させよう。起きてもまだ、魔力不足の頭痛で何だか分からないはず」

誰も追って来なければいいと思っていたが、10人くらい来ている。思ったより多い。

ルイズダンジョン侵入↓壁転移↓別の場所のセーフティーゾーンにモルトを寝かす↓敵が来る前に壁転移で帰還。

「ふうっ。まあまあ大変だったけど、戻れたな」

回廊型ダンジョンの広い通路の壁際を進んで、入り口から80メートルで待っていると、キングダム工房の若いのを先頭に10人が降りてきた。


「おっ、女が1人か」
「タムデン、こいつが金持ってるのか」

「はい先輩。ドラゴンの素材とかこれ見よがしに出して、生意気なやつなんすよ。捕まえて性奴隷にして下さい」

「ダンジョンに追い詰めてしまえば、こっちのもんだな」
「モルトは見つけて殺せばいいんだな」

敵は散開している。

右側の壁に手を付いた。「追い詰められたのはどっちかな」

言ってみたかったセリフだ。

「壁粉砕」

ぼこっ。違うダンジョンに入った直後に「クローズ」。そしてまたルイズダンジョンに向けて「壁粉砕」

ただし座標は、ダンジョンに入った直後に作っておいた階段の真下。

確認していた通り、目の前には階段前にいた盗賊1。瞬間ではないが80メートル短距離転移「のようなもの」をやってみた。

出来立ての輝くナイフを振った。盗賊1、盗賊2を瞬時に仕留めた。

ダンジョン奥に逃げだそうとした盗賊3を発見。だから壁を蹴って「壁ゴーレム」発動。どがっつ。ぺちゃっ。
盗賊3は、いきなり右側の壁から生えた20メートル越えの足に蹴られて宙を舞った。

「なんだ・・あのぶっとい足は」

盗賊達に考える暇を与えず「壁転移」から次の獲物へ。「壁ゴーレム」の馬鹿でかいパンチも織り交ぜると、初見で防げるはずはない。

「タムデン、こんなヤバい女に俺達をぶつけたのかよ」
「え、いえ、俺も何だか・・」

残すは盗賊10と、嫉妬からモルトを殺しに来たタムデンだけ。
盗賊10が斬りかかってきたから、ナイフを振ったら魔鉄の剣ごと斬れた。

「許して下さい!」
「タムデン君、この世界の常識を知らないの?盗賊に情けをかけちゃいけないのよ」

「くそう。死ね!」

万能型のクリスタルドラゴンの能力をナイフに乗せた効果なのか・・
吸い込まれるように、ナイフがタムデンの胸に突き立った。

「ぐぎぎぎ」
「モルトにやっと会えたの。彼を殺しに来た人間を私が許す訳がない」

ナイフを抜いて振ると血は落ち、汚れひとつついていない。腰のアサシンホルスターに納めた。

無銘のミスリルルナイフ3本、魔鉄のショートソード5本をもらった。
金銭はモルトの慰謝料に、計180万ゴールドを剥ぎ取った。


モルトを迎えに行くと笑顔で眠っていた。抱えて「壁転移」で元のルイズダンジョンに飛んだ。

私が先に行って「座標」を作れば、目的地まで一気に跳べるが、それはない。
人には「壁転移」のことは明かしにくい。いきなり200キロを飛んで移動すると、モルトに説明がしにくい。


次の日から残り200キロ程度を5日で歩いた。

モルトは鍛冶ギルド、冒険者ギルドの両方に登録している。

「ドラゴンの素材を扱わせてくれるから、まずは冒険者でレベルアップをせんとダメだな」

モルトは、ナイフ1本の生成でMPが切れた。今後の私の依頼を考えると、魔法操作の精度とMPを上げたいそうだ。そのためのレベルアップだ。

それにモルト自身も強くなる必要がある。少なくとも近隣5か国では出回っていない希少な素材を扱う。どんなトラブルに巻き込まれるか分からないからだ。

私はクリスタルドラゴンの首の輪切り部分の革で、フードを含めた全身用装備を作る。

本当はモルトに頼みたい。だけど、ジャンルが違うから無理らしい。バトル服飾職人を探して防具を作ってもらう。

出来上がったら、モルトにナイフと同じように鱗から抽出した「超ケラチンZ」で、属性、物理の防御力大幅強化をお願いする。

5日間でたくさんの話をした。小ぶりのナイフに「超ケラチンZ」を融合してもらったりもした。

ダンジョン内で4泊して夜は、2人で今後の希望、装備、冒険、食べ物の話ばかり繰り返していた。モルトは「フー君」の話もたくさんしてくれた。

フー君と私が似ていると言った。私が本人と明かそうとしたけど、思い直した。

これからの私の周囲に、どんなトラブルが舞い込むのか分からない。早くも彼がトラブルに巻き込まれそうになった。親しくしすぎると、再び彼に危険が及ぶかもしれない。今は言えない。


男子と話をして、こんなに楽しかったのは10年ぶりだ。

最後の朝、起きると、胸がほんわかした。そして、モルトの寝顔を見るとドキドキした。10年前、ほんの少しだけ感じた感覚だ。


若い男女が、横で寝転がって2人きり。

私達には何も起こらなかった。けど楽しかった。



「フランには世話になった。本当に感謝しとる」
「いいわよ。私にも大きなメリットがあるもん」

ニス冒険者ギルドでモルトのギルドカードに1880万ゴールドを振り込んだ。

私やモルトからしたら大金だけど、この金額がクリスタルドラゴン絡みの依頼料に見合っているのか否か、分からない。


彼はパリパから近くて職人が多い、このニスの街で住居を探す。私はパリパに行く。

別れの時間がきた。

ダンジョンに最後に寄ってから3時間。弱虫フランになった。だからだろう。笑うと少し細目になるモルトを見てると、離れるのが寂しくなった。

きっとそのせいだ。

「・・次の依頼の時、またよろしくね」
「うん・・。またな」  

別れ際、何か気が利いたことを言いたかった。けど、なにも出てこなかった。

 

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