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2 壁粉砕&クローズ
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悪人だらけの5人組「オーガキラー」に拉致されて、遊びでダンジョンに連れ込まれた。
さらに、オークが100匹くらいいるモンスターハウスに閉じ込められた。
このタイミングでダンジョンの壁を削れるスキルが進化したようだけど、戦う手段がない。
「オーガキラー」が助けてくれることはない。奴らは資産家の子息だけど素行が悪くて冒険者になった三男、四男で構成されている。私のような人間の命を何とも思っていない。
奴らは戦闘スキルを持つレベル70超えの5人。魔物はレベル50の100匹。
どっちが勝っても、私は生き残れない。
「壁削りの進化は嬉しいけど、今は武器が欲しかったね・・」
「オーガキラー」の5人は私を蹴って、10メートル離れた。そして剣を構えた。
いきなり斬られなかったけれど、私を助ける気などなかった。
ばふっ。何かの小袋をぶつけられた。弾けて、悪臭がする。
「フラン、魔物集めの粉だ。囮になってくれや!」
セバスティアンは収納指輪か空間魔法を持っているだろう。フェイスガードをどこからか取り出して装着した。
私は後ずさりたいが、すで背中がダンジョンの壁に付いている。
「魔物寄せの粉」付きで女。私の方にスケベ魔物オークが殺到している。
「あ、いや、あ、あ」
レベル50オークに捕まって、犯されて、食われる。いや、食われる前に死ぬだろう。
先頭のオークは15メートルまで迫っている。もう漏らしていて、足もガクガクとなっている。
そのとき、ダンジョンの壁に付いた手から、熱いものが心の中に流れ込んできた。ドクン。
「・・ざけるな・・」
猛烈な吐き気の中に、怒りの感情が沸いてきた。
「ふざけるな。何が私のスキルで賭けだ。クズで馬鹿なやつらが」
かつてないほど腹が立った。
商家で虐げられていたときより、家を追放されたときより、ゲスにたかられたときより、知らない奴にスキルを馬鹿にされたときより。
ダンジョンが、押さえてきた黒い感情を肯定してくれる。
「みんな殺してやる」
はっきり口に出したとき、ダンジョンの壁に付いた手が燃えるほど熱くなった。密着している背中も後頭部もだ。
先頭のオークの手が目の前にある。
『「壁削り」が進化しました。壁を粉砕しましょう YES NO』
私は答えた。
「決まってる。もちろんYES」
ぼこっ。MP30が一気に抜けた。頭、背中、両手に感じていた硬い感触がなくなった。
背中に抵抗を感じなくなり、体は仰向けに倒れていった。
「壁粉砕」で壁に穴が開いた。
粉砕した壁のかけらを固めて戦うのか。それとも新たに違う部屋に行けるのか。
まさか異次元への道が開くのか。
何でもいい。ダンジョンがくれたもので死ぬまで抵抗してやる。
どさっ。
「ここって・・」。柔らかい草の上、一見して野外に見えるが、晴れているのに雲も太陽もない空。
慣れ親しんだフィールド型のゴブ初級ダンジョン1階だ。左横のセーフティーゾーンには、置きっぱなしの私の寝袋がある。
「なんで。ゴブダンジョンとシェルハダンジョンって5キロくらい離れているよね」
考えている暇はなかった。
「ぶごっ」「ぶおおおお!」「ふごっ、ふごっ」
私が通ってきた壁に、私の形に穴が開いたまんまだ。
その穴からオークの頭が4つ出ていて、手が1本伸びている。
「とりあえず、離れるか」
私は立とうとしたが、足がカクッとなった。頭痛もすごい。
前に一度だけ経験した。MP残量が1割を切ったら起こる魔力不足の症状だ。壁を壊す前に32しか残っていなかった魔力を30も使ったのだ。残量はわずか「2」
オークは私が通った穴から思い切り手を伸ばし、私の左腕をつかんだ。
またも大ピンチだ。
「ふごおお!」
けれど頭の芯は冷静だ。「壁粉砕」の使い方は頭に入っている。
「豚が、汚い手を離せ」
魔力枯渇の寸前で頭が痛むが、私は「壁粉砕」のセットスキルを唱えた。セットで消費MP30だから、追加でMPは減らない。
「クローズ」
ざんっ。
レンガのような壁が瞬時に修復された。
そして「手応え」もあった。まるで用意してあったギロチンのスイッチを押した気分だ。
名付けて『壁ギロチン』だ。
コロッ、コロ・・。足元には、壁からこちら側に出ていたオークの頭が4つ転がっていた。
私をつかんだオークの腕もそのまんまだけど、肩から先しかなくて、下に落ちた。
断面は磨いた魔鉄のようにきれいで、断面に血がにじむまで、数秒かかった。
「ヤバかったけど、助かった」
魔力も空に近い。休む。壁にもたれかかった私の中に、今度は別のコールが鳴り響いた。
『レベルアップします』「えっ」。私の驚きを無視して、コールは21回鳴った。
頭痛と倦怠感は消えた。
「レベル31。MP残量212。間違いなくレベルアップしている。獲物を仕留めた壁の開閉は、攻撃扱いか」
笑みが込み上げた。
やっと・・
やっと、スキルが開花した。
◆
魔力に余力ができたから動く。
逃げるべきかと思ったが、「オーガキラー」はレベル70越えで、親や親族に有力者がいる。
「あいつらが魔物を全部倒して地上に帰ったら、追われるし殺される。絶対に口封じをしに来る」
とりあえず、中を確認する。スキルの使い方を完全には把握していないが、「確認」に使う方法は分かる。
MP残量212。無理すれば、あと7回も壁を粉砕して開けられる。
追加で戦える「燃料」をもらったから、滅茶苦茶にしてやる。
さらに、オークが100匹くらいいるモンスターハウスに閉じ込められた。
このタイミングでダンジョンの壁を削れるスキルが進化したようだけど、戦う手段がない。
「オーガキラー」が助けてくれることはない。奴らは資産家の子息だけど素行が悪くて冒険者になった三男、四男で構成されている。私のような人間の命を何とも思っていない。
奴らは戦闘スキルを持つレベル70超えの5人。魔物はレベル50の100匹。
どっちが勝っても、私は生き残れない。
「壁削りの進化は嬉しいけど、今は武器が欲しかったね・・」
「オーガキラー」の5人は私を蹴って、10メートル離れた。そして剣を構えた。
いきなり斬られなかったけれど、私を助ける気などなかった。
ばふっ。何かの小袋をぶつけられた。弾けて、悪臭がする。
「フラン、魔物集めの粉だ。囮になってくれや!」
セバスティアンは収納指輪か空間魔法を持っているだろう。フェイスガードをどこからか取り出して装着した。
私は後ずさりたいが、すで背中がダンジョンの壁に付いている。
「魔物寄せの粉」付きで女。私の方にスケベ魔物オークが殺到している。
「あ、いや、あ、あ」
レベル50オークに捕まって、犯されて、食われる。いや、食われる前に死ぬだろう。
先頭のオークは15メートルまで迫っている。もう漏らしていて、足もガクガクとなっている。
そのとき、ダンジョンの壁に付いた手から、熱いものが心の中に流れ込んできた。ドクン。
「・・ざけるな・・」
猛烈な吐き気の中に、怒りの感情が沸いてきた。
「ふざけるな。何が私のスキルで賭けだ。クズで馬鹿なやつらが」
かつてないほど腹が立った。
商家で虐げられていたときより、家を追放されたときより、ゲスにたかられたときより、知らない奴にスキルを馬鹿にされたときより。
ダンジョンが、押さえてきた黒い感情を肯定してくれる。
「みんな殺してやる」
はっきり口に出したとき、ダンジョンの壁に付いた手が燃えるほど熱くなった。密着している背中も後頭部もだ。
先頭のオークの手が目の前にある。
『「壁削り」が進化しました。壁を粉砕しましょう YES NO』
私は答えた。
「決まってる。もちろんYES」
ぼこっ。MP30が一気に抜けた。頭、背中、両手に感じていた硬い感触がなくなった。
背中に抵抗を感じなくなり、体は仰向けに倒れていった。
「壁粉砕」で壁に穴が開いた。
粉砕した壁のかけらを固めて戦うのか。それとも新たに違う部屋に行けるのか。
まさか異次元への道が開くのか。
何でもいい。ダンジョンがくれたもので死ぬまで抵抗してやる。
どさっ。
「ここって・・」。柔らかい草の上、一見して野外に見えるが、晴れているのに雲も太陽もない空。
慣れ親しんだフィールド型のゴブ初級ダンジョン1階だ。左横のセーフティーゾーンには、置きっぱなしの私の寝袋がある。
「なんで。ゴブダンジョンとシェルハダンジョンって5キロくらい離れているよね」
考えている暇はなかった。
「ぶごっ」「ぶおおおお!」「ふごっ、ふごっ」
私が通ってきた壁に、私の形に穴が開いたまんまだ。
その穴からオークの頭が4つ出ていて、手が1本伸びている。
「とりあえず、離れるか」
私は立とうとしたが、足がカクッとなった。頭痛もすごい。
前に一度だけ経験した。MP残量が1割を切ったら起こる魔力不足の症状だ。壁を壊す前に32しか残っていなかった魔力を30も使ったのだ。残量はわずか「2」
オークは私が通った穴から思い切り手を伸ばし、私の左腕をつかんだ。
またも大ピンチだ。
「ふごおお!」
けれど頭の芯は冷静だ。「壁粉砕」の使い方は頭に入っている。
「豚が、汚い手を離せ」
魔力枯渇の寸前で頭が痛むが、私は「壁粉砕」のセットスキルを唱えた。セットで消費MP30だから、追加でMPは減らない。
「クローズ」
ざんっ。
レンガのような壁が瞬時に修復された。
そして「手応え」もあった。まるで用意してあったギロチンのスイッチを押した気分だ。
名付けて『壁ギロチン』だ。
コロッ、コロ・・。足元には、壁からこちら側に出ていたオークの頭が4つ転がっていた。
私をつかんだオークの腕もそのまんまだけど、肩から先しかなくて、下に落ちた。
断面は磨いた魔鉄のようにきれいで、断面に血がにじむまで、数秒かかった。
「ヤバかったけど、助かった」
魔力も空に近い。休む。壁にもたれかかった私の中に、今度は別のコールが鳴り響いた。
『レベルアップします』「えっ」。私の驚きを無視して、コールは21回鳴った。
頭痛と倦怠感は消えた。
「レベル31。MP残量212。間違いなくレベルアップしている。獲物を仕留めた壁の開閉は、攻撃扱いか」
笑みが込み上げた。
やっと・・
やっと、スキルが開花した。
◆
魔力に余力ができたから動く。
逃げるべきかと思ったが、「オーガキラー」はレベル70越えで、親や親族に有力者がいる。
「あいつらが魔物を全部倒して地上に帰ったら、追われるし殺される。絶対に口封じをしに来る」
とりあえず、中を確認する。スキルの使い方を完全には把握していないが、「確認」に使う方法は分かる。
MP残量212。無理すれば、あと7回も壁を粉砕して開けられる。
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