悪役聖女は勇者になんかざまぁさせない

とみっしぇる

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4 魔王戦

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 決戦の日、四人は魔王の前に立った。

布陣は右翼システィーナ、左翼クリス。後衛は私ハルナ、私のやや左後ろにアメリア。
聖女は私を「肉壁賢者」と呼んできた。

魔王は悪魔系の頭脳レベルが高い、厄介なやつだ。
「気を抜けば負ける」
嫌な奴だったけど、アメリアが言うなら間違いないだろう。



昨日の夜、聖女を罠にかける相談をした。

魔王を倒すだけでは、私達は無事に返れないかも知れない。

性悪聖女アメリアを押さえきれなければ、冤罪で身の破滅が待っている可能性が大きい。

私が聖女アメリアのテントの中を盗撮した「記録の魔道具」を迅速に、ギルマスに渡す。そしてその中の映像が公表されて「私達の魔王戦」が勝利になる。

アメリアの手の者に押さえられてる三人の婚約者や家族はギルマスが責任を持って保護してくれると言う。

今は、それを信じるしかない。


「ほらハルナ、考え事してないで。みんな最後の戦いよ。魔王を倒すわよ」

いけない、魔王を前にしてボケッとしてた。

「うっさい。分かってる」
「まずは神器を解放せずに、魔王にダメージあたえるんでしょう。昨日何度も聞いた!」

「じゃあ支援する。身体強化レベル10」

「すっかり嫌われたわね。ふふふ」

ここは魔王城の玄関ホール。ホールと言っても、闘技場くらいに広い。
そして、地面の4点に魔方陣が浮かび、魔王が好む瘴気を蓄えた、魔王の結界が張られた。

◆◆
戦いは長引いた。

神の悪ふざけかなのか、魔王戦は絶対に、一方的な戦いにならないそうだ。

均衡の中から、必ず勇者側が巻き返しの一手を打っている。

「ここよシスティーナ、クリス、ハルナ、神器を解放しなさい!」

「いくよ、エクスカリバー!」
「力を貸して、ドラゴンファング!」
「魔力を練り上げろ、陰陽のロッド!」

切り込む前衛二人。さっきよりさらに、激しい音が鳴り響き出した。

「・・最低限のことは、できてるわね」

私の援護魔法を受けて、システィーナとクリスの体がほのかに光を帯びた。
遠目に見ても分かるくらい、勇者側が押していた。

「で、アメリア。これで勝てるのかしら」
「いい線いってるけど、無理そうね」
「え?」
「見なさい、魔王の頭上」

ドーム状の魔王の結界の天井に闇の玉が幾つもできると、魔王めがけて飛んでいった。

魔王の体が、たちまち修復された。

「私と「太陽の指輪」の出番ね。ハルナ、風魔法に私の声を乗せて、システィーナたちと会話させて」
「従うわよ・・」

「システィーナ、クリス、聞きなさい!。今から私が聖痕で魔王の結界の一部を壊す」

「なにそれ?聞いてない」
「低能平民の拳聖は黙って魔王にダメージを与えなさい!」
「くそっ」

「勇者には聖女の神器「太陽の指輪」から、聖剣エクスカリバーに魔力を送るわ。今まであなたごときでは放てなかった「セイントクロス」を撃てるわ。ありがたく力を受け取りなさい」

「それも初耳!なんで黙ってたのよ!」
「太陽の指輪は、制御が難しいの。私でさえ、「月の指輪」や数々のマジックアイテムで何とかなるくらいの暴れ馬なのよ」

「なんで、今になって言い出すのよ」
「あっはっは。ピンチに陥った勇者パーティーが聖女の大活躍で巻きかえすの。絵になるわよ!」

「ふざけんな!人が必死に戦ってるのに」
「てめえ!魔王の次に殺してやる!」

「さあハルナ、出口に一番近い魔方陣を壊すわ。まあ、真後ろだけどね。ここは任せた」
「・・わかったわ」

なんだ、この違和感。


賢者になったからこそ分かる、危険が勇者パーティーに迫っている。この女、アメリアは何をしでかす気なの?


聖女アメリアが、四つある「魔王の結界」起動装置の一つに手をかざした。

「じゃあ、やるわ。援護お願いね」



「聖女アメリアの最後の花道よ。聖痕よ我が意思に従い、悪しき波動を集めよ!」

魔王の結界を構成していた黒い瘴気が、すごい勢いでアメリアの聖痕に集まってくる。

魔王城のロビーをドーム状に覆っている魔王の結界も薄くなってきた。

「ぐ、ぐぐっ、次よ。太陽の指輪よ。瘴気を浄化し、勇者に力を与えよ」

ぶわっ。

目が痛くなるくらい輝く黄金オーラがアメリアの右手中指の「太陽の指輪」から溢れだした。

オーラは東の国にいるという「龍」の形となりシスティーナに向かって行った。

「システィーナ、ありがたく受け取りなさい!」

どんっ。

光を吸い込んだエクスカリバーは黄金に光り、突き動かされるように勇者システィーナは剣を振った。

「セイントクロス!」

まばゆい光に魔王の体が貫かれ、身体中が崩れはじめた。

勝てる・・

そう思った私の後ろで、アメリアの声が聞こえた。





「ねぇアレン、お弁当作って登ったデンスの丘から見た海、とってもきれいだったね。また一緒に行きたかったわ。ごめん、アレン」



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