悪役聖女は勇者になんかざまぁさせない

とみっしぇる

文字の大きさ
上 下
4 / 9

4 魔王戦

しおりを挟む
 決戦の日、四人は魔王の前に立った。

布陣は右翼システィーナ、左翼クリス。後衛は私ハルナ、私のやや左後ろにアメリア。
聖女は私を「肉壁賢者」と呼んできた。

魔王は悪魔系の頭脳レベルが高い、厄介なやつだ。
「気を抜けば負ける」
嫌な奴だったけど、アメリアが言うなら間違いないだろう。



昨日の夜、聖女を罠にかける相談をした。

魔王を倒すだけでは、私達は無事に返れないかも知れない。

性悪聖女アメリアを押さえきれなければ、冤罪で身の破滅が待っている可能性が大きい。

私が聖女アメリアのテントの中を盗撮した「記録の魔道具」を迅速に、ギルマスに渡す。そしてその中の映像が公表されて「私達の魔王戦」が勝利になる。

アメリアの手の者に押さえられてる三人の婚約者や家族はギルマスが責任を持って保護してくれると言う。

今は、それを信じるしかない。


「ほらハルナ、考え事してないで。みんな最後の戦いよ。魔王を倒すわよ」

いけない、魔王を前にしてボケッとしてた。

「うっさい。分かってる」
「まずは神器を解放せずに、魔王にダメージあたえるんでしょう。昨日何度も聞いた!」

「じゃあ支援する。身体強化レベル10」

「すっかり嫌われたわね。ふふふ」

ここは魔王城の玄関ホール。ホールと言っても、闘技場くらいに広い。
そして、地面の4点に魔方陣が浮かび、魔王が好む瘴気を蓄えた、魔王の結界が張られた。

◆◆
戦いは長引いた。

神の悪ふざけかなのか、魔王戦は絶対に、一方的な戦いにならないそうだ。

均衡の中から、必ず勇者側が巻き返しの一手を打っている。

「ここよシスティーナ、クリス、ハルナ、神器を解放しなさい!」

「いくよ、エクスカリバー!」
「力を貸して、ドラゴンファング!」
「魔力を練り上げろ、陰陽のロッド!」

切り込む前衛二人。さっきよりさらに、激しい音が鳴り響き出した。

「・・最低限のことは、できてるわね」

私の援護魔法を受けて、システィーナとクリスの体がほのかに光を帯びた。
遠目に見ても分かるくらい、勇者側が押していた。

「で、アメリア。これで勝てるのかしら」
「いい線いってるけど、無理そうね」
「え?」
「見なさい、魔王の頭上」

ドーム状の魔王の結界の天井に闇の玉が幾つもできると、魔王めがけて飛んでいった。

魔王の体が、たちまち修復された。

「私と「太陽の指輪」の出番ね。ハルナ、風魔法に私の声を乗せて、システィーナたちと会話させて」
「従うわよ・・」

「システィーナ、クリス、聞きなさい!。今から私が聖痕で魔王の結界の一部を壊す」

「なにそれ?聞いてない」
「低能平民の拳聖は黙って魔王にダメージを与えなさい!」
「くそっ」

「勇者には聖女の神器「太陽の指輪」から、聖剣エクスカリバーに魔力を送るわ。今まであなたごときでは放てなかった「セイントクロス」を撃てるわ。ありがたく力を受け取りなさい」

「それも初耳!なんで黙ってたのよ!」
「太陽の指輪は、制御が難しいの。私でさえ、「月の指輪」や数々のマジックアイテムで何とかなるくらいの暴れ馬なのよ」

「なんで、今になって言い出すのよ」
「あっはっは。ピンチに陥った勇者パーティーが聖女の大活躍で巻きかえすの。絵になるわよ!」

「ふざけんな!人が必死に戦ってるのに」
「てめえ!魔王の次に殺してやる!」

「さあハルナ、出口に一番近い魔方陣を壊すわ。まあ、真後ろだけどね。ここは任せた」
「・・わかったわ」

なんだ、この違和感。


賢者になったからこそ分かる、危険が勇者パーティーに迫っている。この女、アメリアは何をしでかす気なの?


聖女アメリアが、四つある「魔王の結界」起動装置の一つに手をかざした。

「じゃあ、やるわ。援護お願いね」



「聖女アメリアの最後の花道よ。聖痕よ我が意思に従い、悪しき波動を集めよ!」

魔王の結界を構成していた黒い瘴気が、すごい勢いでアメリアの聖痕に集まってくる。

魔王城のロビーをドーム状に覆っている魔王の結界も薄くなってきた。

「ぐ、ぐぐっ、次よ。太陽の指輪よ。瘴気を浄化し、勇者に力を与えよ」

ぶわっ。

目が痛くなるくらい輝く黄金オーラがアメリアの右手中指の「太陽の指輪」から溢れだした。

オーラは東の国にいるという「龍」の形となりシスティーナに向かって行った。

「システィーナ、ありがたく受け取りなさい!」

どんっ。

光を吸い込んだエクスカリバーは黄金に光り、突き動かされるように勇者システィーナは剣を振った。

「セイントクロス!」

まばゆい光に魔王の体が貫かれ、身体中が崩れはじめた。

勝てる・・

そう思った私の後ろで、アメリアの声が聞こえた。





「ねぇアレン、お弁当作って登ったデンスの丘から見た海、とってもきれいだったね。また一緒に行きたかったわ。ごめん、アレン」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...