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6 嘘つきのくせ緊張する女◇サクラ◇

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6月1日、土曜日は晴れ。

私とリュウは街から西側に1時間、電車に揺られて水族館に来た。

最寄り駅から通路があったけど、さすがに暑くなってきてた。汗をかきながら、冷房が効いた館内に入った。

デート代を普段からほとんど出してくれるし、私が入館料を出そうとした。けど、強引に払ってくれた。

元気になれたお礼だって、また言われた。

『元気になれた』

何度もそう言うけれど、なにから立ち直ったのかは言わない。それがリュウ。


「いやあ、暑かったねリュウ」
「ふうっ。もう夏が近いっていうか、夏だよね、この暑さ」

「リュウ行こう、最初はペンギン見たい」

私の方がテンションが上がってた。勝手に進もうとする私にリュウは付いてきてくれた。

「イルカショー、何時からだっけリュウ」
「ちょい待ち、えーと、次は1時だね」
「まだ時間あるね」

「喉渇いたでしょ。喫茶室あるみたいだから、秋庭さん付き合ってよ」

リュウは相変わらず私のこと、秋庭さんって呼ぶ。

サクラでいいって言っても、教室内では師弟関係を装ってるからって笑う。

そんときだけ、少し距離を感じる。

2人でジュースを飲んで一息ついて話を切り出した。

「リュウって誕生日、いつなの」

「お互いの誕生日、まだ知らなかったね。失敗。俺は10月6日。秋庭さんは?」

「私は6月生まれだから今月なんだよね」

「そうなんだ。じゃあお祝いしなきゃ」
「ごめん、期待して話振ったんだ。嫌な顔されないでよかったー」

「いやいや、こっちこそ肝心なこと気付かずにごめん」

うまく乗ってくれた。言って良かった。けれど、こっからが勝負だ。

「ていうか当然、イヤマさんやヤマシロさんたちに祝ってもらうよね。俺もプレゼントくらい用意しなきゃ」
「あれ、リュウは祝ってくれないの」

「すでに予定が決まってると思ったし、邪魔しちゃ悪いかなって・・」

「あ、いや、逆にメグミとアンリが気い使ってくれて・・。リュウの予定を聞いてからって、言われたんだ・・」

「へえ、2人ともいい人だね。都合がいい日なら、俺も誕生会に参加させてもらうよ。今月の何日?」


「6月13日」


私は、なんだか緊張してしまった。嘘コクの前提があったから、気楽だった今までとは違う感じになった。

次の言葉を探していて、リュウの表情の変化に気付いてなかった。

「今年は木曜日だから、学校が終わってからでも・・・リュウ?」


「・・・」

 ぞくっとした。リュウは笑ってるけど、笑顔がひきつっていた。

「りゅ、リュウ?」
「あ、ごめん、ごめんね!」

「あ、いや、どうしたの」
「その日って、どうしても外せない家の用事があって、学校休むんだ」

「びっくり・・した」

「ああっと、考え込んでヤバい顔してた? 」
「してたかな・・」

「秋庭さんの誕生日の日は、近くにいないと思う。どうしても無理だと思う。本当にごめん、ごめんね」

何度も謝るリュウに、かえって申し訳なくなった。

「いいって、当日はメグミ達にお祝いしてもらうから」

リュウは、ほっとした顔をしてた。


イルカショーに行って、リュウは楽しそうだった。私も楽しくて、誕生日のことは気にならなかった。

また水族館の中を回って、最後にお土産コーナーに行った。

イルカのぬいぐるみが可愛いなって思って見てたら、リュウがプレゼントするって言う。

「ダメだよ。入館料まで払ってもらったのに」
「う~ん、じゃあ、誕生会に参加できないお詫びに・・」

「うん、誕生プレゼントに、これちょうだい」

かなり早いけど、プレゼントをもらった。

 ◆
海辺を2人で歩いて、色んな話をした。

そんで晩御飯は私のオゴリって言うと、ファーストフードになった。

出した金額が釣り合わないけど、こういうとこがリュウなんだ。

すごく楽しかった。もう日が暮れかけて、名残惜しいけど帰ることになった。

私とリュウの家は、水族館から高校に続く同じ沿線上にある。駅は5つ離れている。

今日は私の方が後に降りる。するとリュウも付いてきた。

薄暗いから、家の近くまで送ってくれると言う。

私の方から手を握ってみた。するとリュウはイタズラっぽく笑った。

「サクラ師匠から手をつないでもらえるなんて、護衛を申し出て良かったです」

「じゃろ。ギャルとの手つなぎに、ドキマギするのじゃ」

「明日からの元気もチャージさせてもらお」
「よしよし。にぎにぎしてしんぜよう」

なんて楽しいんだろう。

これまで、友達2人が紹介してくれた男子は計3人。みんな、遅くても2回目には、私の身体を触ろうとした。

リュウは、嘘コクして18日間、何度も2人きりになったのに、自分から何もしてこない。

だけど、暗くなると送ってくれたり、とても大切にしてくれる。そのとき、一定の距離を保って私を不安にさせないようにしてる。

そしてクラスの陰キャって呼ばれてる子にも優しい。

リュウの最初の配慮で、私がリュウから離れやすいようにと、私達は付き合っていないことになってる。

私がリュウがイケてる男子になれるように、色んなアドバイスをする。そのお返しに、リュウが勉強を教えてくれてる。

そんな話でクラスに浸透してる。


私が最初にリュウに気がないようなこと言ったせいなのか、私とリュウの恋愛はないと思われている。

クラスの女子2人がリュウに優しくされて、少し気持ちが傾いてる。そして、それを私に言ってくる。

2人とも、最初はリュウになんか見向きもしてなかったくせに・・

私は、嘘コクでイタズラしようとした自分を棚に上げて、内心はイラッとしている。




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