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292 冬の柔道選手権・県予選の決勝戦①
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残された試合は、茶薔薇学園の決勝戦のみ。
対戦相手は県内の名門・飛鳥原学園。スポーツにおいて県内では茶薔薇のライバル校。
ここ数年の柔道に限れば、茶薔薇が優勢である。
そして勇太は。
「え~、皆様、ご静粛に」
きゃ~、きゃ~、きゃ~と大歓声が上がる。プロレスでもないのに、マイクを持ってリングアナウンサーのようなことをさせられている。
柔道連盟会長、鬼塚一子の策略だ。
純子&風花のコラボで勇太にも閉会式典のプレゼンテーターなどを頼まれた。
この決勝戦前のアナウンスは、嫌なら引き受けなくていい条件だったが、勇太は余り考えずに承知した。
どうせ、『これから茶薔薇学園と飛鳥原学園の決勝戦です』くらいかと思っていた。
違った。やはり勇太の認識不足だ。
こういう仕事を男子が引き受けたのは、公式記録では平成元年の国営放送による年末カウントダウンが最後。
勇太に了承をもらった柔道連盟の担当者は興奮した。
台本を書き換え、有名アナウンサー古立伊知子のような仕立にしてしまった。
多少の暖房が効いているとはいえ、真冬なのに白シャツ白ズボンで勇太が登場。
上はもちろん、下着なしてボタン2個空け。
畳の外側、試合なら場外になる場所に立っている。
「西門から登場しますのは、昨年覇者・茶薔薇がくえ~ん!」
カオル達が戸惑いながら5人で並んだ。
そしてアドリブで選手紹介。
「名門・茶薔薇柔道部のまとめ役、山田ツバキー!」
わあああと歓声が上がる。
次々と紹介していく。
そして副将カオル。
「唐揚げ大好き、今川カオルー!」
みんな呆気に取られたあと、爆笑が起こった。
「勇太ぁ~~」
手は上げたが、勇太をにらむカオルだ。
そして大将のハラダヨシノまで紹介すると、次は相手校。
先に話をして、部員に紹介文を書いてもらっている。
もちろん相手校の彼女らに勇太免疫はない。
「先鋒。瞬発力に自信あり、彼氏募集中の63キロ級、セキノタカコ~」
「うっしゃああ~。勇太君、頑張ります!」
勇太が過去に見た中でも、ベスト3に入るくらいのガッツポーズが出た。
そして跳び跳ねている。さらに、勇太のところに走ってきて握手を求めてきた。
サービス精神旺盛な勇太は背中パンパンをしてあげた。
「うほおおおーー!」
勇太は、これって試合前にやっていいの?と思いながら、全員を紹介して、背中パンパンしていった。
最後に勇太は、台本にないけれど真っ直ぐ立った。
そしてざわつきが収まるまで待った。
観客の声も止まった。
勇太は対戦両校と、観客に向けて礼をした。身体に染み付いた、闘う者への敬愛を込めた動作だ。
合気道、前世柔道、今世柔道を含めて8年間の蓄積がある。
勇太は、この辺りはブレない。
歌ったり、カフェの店員もしている。
けれど柔道は、前世からの自分と愛する人を繋ぐ大切なもの。
尊敬の念を持って、今からの試合に挑む者を送り出したいと、気持ちを込めた。
注目がなおさら集まる中、所作の美しさが際立った。
そして近距離で見た決勝戦の対戦両校、審判には響く声とセクシーさまで、ビンビンに伝わった。
単なる脇役MCのはずなのに、大きな拍手をもらってしまった。
連盟会長の鬼塚は、この光景をリアルタイムのネット配信で見ている。来月の世界柔道・日本大会で現地レポーターを頼もうと考えている。
ライブハウスなどで、純子&風花の手伝いのために勇太はMCをしている。それが柔道の大会でも生かせるか確認したかったが、予想以上だった。
勇太が柔道、要するに武道を始めたのは去年の5月だと聞いている。
なのに武道の所作の意味を理解していて、それをアピールしてくれた。
「こりゃ、現地レボーターだけじゃもったいないな」
鬼塚は呟いた。
試合が始まる。
この光景は伊集院君も見ていた。
「あ、これいいね。勇太君と一緒にやりたいな、華子さん」
「じゃあ、次のオリンピックのとき、何か放送枠を作ってもらいましょうか、光輝さん」
という、恐ろしい会話が伊集院君と婚約者の間で交わされている。
対戦相手は県内の名門・飛鳥原学園。スポーツにおいて県内では茶薔薇のライバル校。
ここ数年の柔道に限れば、茶薔薇が優勢である。
そして勇太は。
「え~、皆様、ご静粛に」
きゃ~、きゃ~、きゃ~と大歓声が上がる。プロレスでもないのに、マイクを持ってリングアナウンサーのようなことをさせられている。
柔道連盟会長、鬼塚一子の策略だ。
純子&風花のコラボで勇太にも閉会式典のプレゼンテーターなどを頼まれた。
この決勝戦前のアナウンスは、嫌なら引き受けなくていい条件だったが、勇太は余り考えずに承知した。
どうせ、『これから茶薔薇学園と飛鳥原学園の決勝戦です』くらいかと思っていた。
違った。やはり勇太の認識不足だ。
こういう仕事を男子が引き受けたのは、公式記録では平成元年の国営放送による年末カウントダウンが最後。
勇太に了承をもらった柔道連盟の担当者は興奮した。
台本を書き換え、有名アナウンサー古立伊知子のような仕立にしてしまった。
多少の暖房が効いているとはいえ、真冬なのに白シャツ白ズボンで勇太が登場。
上はもちろん、下着なしてボタン2個空け。
畳の外側、試合なら場外になる場所に立っている。
「西門から登場しますのは、昨年覇者・茶薔薇がくえ~ん!」
カオル達が戸惑いながら5人で並んだ。
そしてアドリブで選手紹介。
「名門・茶薔薇柔道部のまとめ役、山田ツバキー!」
わあああと歓声が上がる。
次々と紹介していく。
そして副将カオル。
「唐揚げ大好き、今川カオルー!」
みんな呆気に取られたあと、爆笑が起こった。
「勇太ぁ~~」
手は上げたが、勇太をにらむカオルだ。
そして大将のハラダヨシノまで紹介すると、次は相手校。
先に話をして、部員に紹介文を書いてもらっている。
もちろん相手校の彼女らに勇太免疫はない。
「先鋒。瞬発力に自信あり、彼氏募集中の63キロ級、セキノタカコ~」
「うっしゃああ~。勇太君、頑張ります!」
勇太が過去に見た中でも、ベスト3に入るくらいのガッツポーズが出た。
そして跳び跳ねている。さらに、勇太のところに走ってきて握手を求めてきた。
サービス精神旺盛な勇太は背中パンパンをしてあげた。
「うほおおおーー!」
勇太は、これって試合前にやっていいの?と思いながら、全員を紹介して、背中パンパンしていった。
最後に勇太は、台本にないけれど真っ直ぐ立った。
そしてざわつきが収まるまで待った。
観客の声も止まった。
勇太は対戦両校と、観客に向けて礼をした。身体に染み付いた、闘う者への敬愛を込めた動作だ。
合気道、前世柔道、今世柔道を含めて8年間の蓄積がある。
勇太は、この辺りはブレない。
歌ったり、カフェの店員もしている。
けれど柔道は、前世からの自分と愛する人を繋ぐ大切なもの。
尊敬の念を持って、今からの試合に挑む者を送り出したいと、気持ちを込めた。
注目がなおさら集まる中、所作の美しさが際立った。
そして近距離で見た決勝戦の対戦両校、審判には響く声とセクシーさまで、ビンビンに伝わった。
単なる脇役MCのはずなのに、大きな拍手をもらってしまった。
連盟会長の鬼塚は、この光景をリアルタイムのネット配信で見ている。来月の世界柔道・日本大会で現地レポーターを頼もうと考えている。
ライブハウスなどで、純子&風花の手伝いのために勇太はMCをしている。それが柔道の大会でも生かせるか確認したかったが、予想以上だった。
勇太が柔道、要するに武道を始めたのは去年の5月だと聞いている。
なのに武道の所作の意味を理解していて、それをアピールしてくれた。
「こりゃ、現地レボーターだけじゃもったいないな」
鬼塚は呟いた。
試合が始まる。
この光景は伊集院君も見ていた。
「あ、これいいね。勇太君と一緒にやりたいな、華子さん」
「じゃあ、次のオリンピックのとき、何か放送枠を作ってもらいましょうか、光輝さん」
という、恐ろしい会話が伊集院君と婚約者の間で交わされている。
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