上 下
272 / 296

272 勇太は仲間を助けてくれた人に、過剰な恩返しをする

しおりを挟む
本当に冗談で言った。

純子&風花の助っ人ギタリスト・中戸明日香。

勇太に、特に風花を助けてくれたお礼を言われ、『曲がいいですね』と言った。

勇太には軽いノリのジョークも通じる。

だから『冗談ですよ~』と言って、勇太に笑ってもらうつもりだった。

なのに、勇太が本当に歌を作ってくれるようなムードになっている。

「え、ええ?」

明日香は驚いた。純子も風花も驚いている。

「そ、そんなジュースくれるみたいに。な、なんでですか」

「明日香さんが頼んだ仕事以上に風花さん達のサポートしてくれたでしょ。時間も割いてくれた。そのお礼」


さっき、明日香がこの世界の英語の曲を歌っていた。

シンガーソングライター志望と言っていたし、イメージに合う前世の曲を思い出した。

数少ない外国曲の引き出しの中のひとつだ。

勇太が調べた限りでは、この世界に似た曲がない。

Sが頭文字の女性歌手で、コンサートのパフォーマンスも独特なアメリカの人がヒットさせた歌曲だ。

「明日香さん、こっからのことは秘密だよ」

明日香のスマホを録画にして、セットした。ここからは配信なしで約束。

♪♪♩♪♩。勇太は前奏を簡単に口ずさんだ。

「アウツブレイク♩♪♪♪♩♪♪」

勇太の英語力では、かなりぐだぐだだ。しかし前世の病室でもよく聞いていた。フレーズとサビはきっちり覚えている。

「え、え、え」明日香は驚いている。いや、驚きすぎている。

本気で曲を作ってもらおうと思っていなかった。だけど、目の前では新曲が構築されている。

風花が、固まった明日香の代わりにギターを弾き出した。

「あ、あの、あの、勇太君・・」

「明日香さん、俺の発音が悪いし、出だしとサビの思い浮かんだスペル言うから、あとで言葉を繋げて下さい」

「は、はい、はい」

「俺ってさ、まともに楽譜を作れないの。だからひらめいた歌を歌って、風花さんに音拾ってもらって作品にしてもらってんの。その秘密だよ」


すでに明日香は3分くらい固まっていたが、今の言葉で我に帰った。

まさかの大チャンスだ。ひと通り聞いてみて、外国にも被る感じのリズムがない。

ギター曲でないけど、風花が弾いているしアコースティックギターでも、バンドでも使えるようにした曲としか思えない。

「あ、あの、この曲って純子&風花用に作っていたんじゃ・・」

「私、英語の歌ダメなんですよね・・」
てへへと笑う純子。

風花と純子にしても、助っ人のお礼にしては破格だと思う。

けれど自分たちは、明日香以上に何もしていないのに勇太に歌をもらった。

明日香は興奮しすぎている。ハッキリ言えばスカートの中がグショグショだ。

乗せたい思うフレーズも浮かんできた。勇太の曲と合わせてサビに入ると、とても力強い。

「♪₤₨♪♪stop!♪stop!!♪ahohooo!!!♪♪♪」

バンっと声、ギターが弾けて、サドンデスな終わり。

シーンとしたスタジオに強烈な余韻が残った。

これが自分のものになるのが信じられない。

ぼそっ。「これが助っ人のお礼って・・。何百倍返しなの・・」

なにげに十分に勇太の恩恵は受けている。

まず、勇太はステージに立った回数が意外と少ない。嫁ズや伊集院ファミリー、公開録画のゲストは単発の仕事。

作詞作曲した歌を披露したとき、オフィシャルの仕事で勇太と一緒に舞台に立ったのは純子、風花、そして自分しかいないのだ。

だから明日香も、色々なところで仕事の予約が入っている。

そもそも、今いるスタジオが、同業者が来たくてたまらないプレミアムスペース。そんな場所に自分は、気楽にLIMEで誘われて来ている。

スタジオ風景もたまに録画させてくれて、ネット上に流させてくれる。

それを流すのは明日香だけ。6割の称賛に4割のヘイト。

流したのは、最初の年末の音合わせから始まって2週間程度の風景。

動画は6本。

最初の動画がすでに350万回再生。これだけでも、ちょっとした稼ぎになる。勇太に還元しようと思ったら、断られた。

『俺の動画で利益が出た人には、遠慮なく使ってくれって言ってるんです』そう言って笑ってくれる。

純子&風花に無償で関わるのは、むしろ明日香からの恩返しなのだ。

明日香は正直に、それを言った。だけど勇太は遠慮せずに何でも使ってくれと言った。

「中戸さん、俺が恩を感じてるんだから貰って下さい」

頭まで下げられて、明日香は涙を流してしまった。

完成したら伊集院君に頼んで、勇太作曲、明日香作詞のイレギュラーコラボ作品として発表すると勇太が約束してくれた。

明日香は感謝ばかりだ。

それから一時間半も勇太、純子、風花も付き合ってくれて、明日香の歌が最低限の形になるまで付き合ってくれた。

どこから話が漏れたか、柔道連盟会長・鬼塚一子のはからいにより、高校柔道・冬の選手権全国大会で新曲が披露されることになった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

男女比1対99の世界で引き篭もります!

夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公! 前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!! 偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...