251 / 266
251 指先さえ届けばいい詩
しおりを挟む
ゲンジは歌う。
それもヤマモトタロウと勇太のあと。
タロウは、この男子に甘い世界なら歌手として売り出せるレベル。勇太は女神印の反則な声で、中学生をうっとりさせている。
はっきり言えば、女の子はふたりの歌の余韻に浸っている。
タロウや勇太と女の子が話して、ざわざわしている。
おそらく自分の歌は、クラスメイトにもカフェの女性にも聞き流される。ゲンジはそう思う。
けれど、今のゲンジには些細なこと。左側を見た。メイちゃんだけは自分の方を見てくれる。
♪₩♪♩♩♩♪♪♪
ゲンジはリズムを取っている。だけどほとんど場所を動かない。
メイちゃんと向かい合った。
ふたりで、にっこりと笑った。
ゲンジは前触れもなく歌い出した。
最初、ゲンジの歌声はあまり聞こえなかった。
「あれ?」
「・・ゲンジ君、歌ってる」
みんなが気付いた。けれどゲンジは、ただ前を向いている。
そう、メイちゃんだけを見ている。
今は、受験に集中したいメイちゃんの邪魔はしないと言った。だから励ますだけ。
年末に公園で泣かせたときのように混乱させない。勇太に失恋した心をかき乱さないよう、余計なことはしない。
ただ気持ちが溢れるのは抑えられない。目の前の女の子に向けて歌っている。
クラスメイトはゲンジだけでなく、メイちゃんも見ている。
語るように詩を綴るゲンジが、ほんの少しだけ手を開いた。
メイちゃんも手を出して、指先がほんの少し触れた。
♪♪♪♪♩♩♩♪♩
みんながふたりに聞いても、付き合っていないと言う。
受験が終わって新生活が始まるまでは、すべて保留だと。
けれどゲンジメイちゃんは、相思相愛にしか見えない。
♪♪♪♩♩♩♩
「♪♩♪静かな君の後ろには♪♪♩」
ゲンジもメイちゃんも、カフェの中にたくさん人がいるのに、お互いしか見ていない。
歌は、タロウと勇太の方がうまいのだろう。
漏れてくるゲンジの歌は、それに比べたらレベルは低いのかもしれない。
けれど、表現力というのか、向けた相手がはっきり分かる。
メイちゃんだけに感情を向けている。
タロウの歌も、勇太の歌も、多くの人に訴えかける力がある。
ゲンジの歌を例えるなら・・
ただの小さな花。
その、たった一輪しかない花を差し出す男の子。そして差し出される女の子。
ゲンジの歌は、メイちゃんの心を撃つために特化しようとしている。
タロウはゲンジの前に歌った。メイちゃんがすごく拍手してくれた。自分の彼女3人も喜んでいる。
その彼女3人の方から、メイちゃんがその気になるなら、受け入れていいと言われた。
一時は女同士の冷戦状態だったけど、メイちゃんの憂いを帯びた目には女同士でも感じるものがあった。
クリスマス前に勇太とメイちゃんの親密さを見たからこそ、付き合わないのではなく、付き合えないのだと思った。
するとタロウと同じ考えに至った。
勇太とメイちゃんは『名乗れない異母兄妹』の関係にあると考えた。
そうなると同情的になった。
こんな世界で、男子の方からアプローチされて好きになってもらえた。
なのに、メイちゃんは勇太との間を、血縁という大きな壁に阻まれた。
心を砕く悲恋劇。
余計なフィルターを取り除いて考えると、メイちゃんがタロウやゲンジの彼女にならないのは当たり前。
心を痛めている。
むしろ、安易な恋とセック●に逃げないメイちゃんに一目置いている。
タロウは、やっと分かった。
この世界の当たり前として、メイちゃんを4人目の彼女として求めた。
そんな普通の感覚では、メイちゃんのみを求め、多くの女を愛そうとしない『異常者』にはかなわない。
その異常者同士がお互いを見つけてしまっている。
見切りを付けたい。
だけどふたりが綺麗に映る。
タロウは悔しい。
そして見ている女の子達は、まるで男女比1対1の架空ラブストーリーのような世界に見とれている。
それもヤマモトタロウと勇太のあと。
タロウは、この男子に甘い世界なら歌手として売り出せるレベル。勇太は女神印の反則な声で、中学生をうっとりさせている。
はっきり言えば、女の子はふたりの歌の余韻に浸っている。
タロウや勇太と女の子が話して、ざわざわしている。
おそらく自分の歌は、クラスメイトにもカフェの女性にも聞き流される。ゲンジはそう思う。
けれど、今のゲンジには些細なこと。左側を見た。メイちゃんだけは自分の方を見てくれる。
♪₩♪♩♩♩♪♪♪
ゲンジはリズムを取っている。だけどほとんど場所を動かない。
メイちゃんと向かい合った。
ふたりで、にっこりと笑った。
ゲンジは前触れもなく歌い出した。
最初、ゲンジの歌声はあまり聞こえなかった。
「あれ?」
「・・ゲンジ君、歌ってる」
みんなが気付いた。けれどゲンジは、ただ前を向いている。
そう、メイちゃんだけを見ている。
今は、受験に集中したいメイちゃんの邪魔はしないと言った。だから励ますだけ。
年末に公園で泣かせたときのように混乱させない。勇太に失恋した心をかき乱さないよう、余計なことはしない。
ただ気持ちが溢れるのは抑えられない。目の前の女の子に向けて歌っている。
クラスメイトはゲンジだけでなく、メイちゃんも見ている。
語るように詩を綴るゲンジが、ほんの少しだけ手を開いた。
メイちゃんも手を出して、指先がほんの少し触れた。
♪♪♪♪♩♩♩♪♩
みんながふたりに聞いても、付き合っていないと言う。
受験が終わって新生活が始まるまでは、すべて保留だと。
けれどゲンジメイちゃんは、相思相愛にしか見えない。
♪♪♪♩♩♩♩
「♪♩♪静かな君の後ろには♪♪♩」
ゲンジもメイちゃんも、カフェの中にたくさん人がいるのに、お互いしか見ていない。
歌は、タロウと勇太の方がうまいのだろう。
漏れてくるゲンジの歌は、それに比べたらレベルは低いのかもしれない。
けれど、表現力というのか、向けた相手がはっきり分かる。
メイちゃんだけに感情を向けている。
タロウの歌も、勇太の歌も、多くの人に訴えかける力がある。
ゲンジの歌を例えるなら・・
ただの小さな花。
その、たった一輪しかない花を差し出す男の子。そして差し出される女の子。
ゲンジの歌は、メイちゃんの心を撃つために特化しようとしている。
タロウはゲンジの前に歌った。メイちゃんがすごく拍手してくれた。自分の彼女3人も喜んでいる。
その彼女3人の方から、メイちゃんがその気になるなら、受け入れていいと言われた。
一時は女同士の冷戦状態だったけど、メイちゃんの憂いを帯びた目には女同士でも感じるものがあった。
クリスマス前に勇太とメイちゃんの親密さを見たからこそ、付き合わないのではなく、付き合えないのだと思った。
するとタロウと同じ考えに至った。
勇太とメイちゃんは『名乗れない異母兄妹』の関係にあると考えた。
そうなると同情的になった。
こんな世界で、男子の方からアプローチされて好きになってもらえた。
なのに、メイちゃんは勇太との間を、血縁という大きな壁に阻まれた。
心を砕く悲恋劇。
余計なフィルターを取り除いて考えると、メイちゃんがタロウやゲンジの彼女にならないのは当たり前。
心を痛めている。
むしろ、安易な恋とセック●に逃げないメイちゃんに一目置いている。
タロウは、やっと分かった。
この世界の当たり前として、メイちゃんを4人目の彼女として求めた。
そんな普通の感覚では、メイちゃんのみを求め、多くの女を愛そうとしない『異常者』にはかなわない。
その異常者同士がお互いを見つけてしまっている。
見切りを付けたい。
だけどふたりが綺麗に映る。
タロウは悔しい。
そして見ている女の子達は、まるで男女比1対1の架空ラブストーリーのような世界に見とれている。
42
お気に入りに追加
253
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる