上 下
234 / 254

234 前回の続き◇純子&ヤマモトタロウ◇

しおりを挟む
◇勇太前世の純子◇

なんとなく私と山元太朗さん・・タロウ君との交流は続いた。意外に波長とタイミングが合った。

そして地元が近くて、高校の時の話しとか聞いた。

LIMEしたり、喫茶店に出向いたり。話がしたいときは、軽くファーストフードとか。

仕事上、節制大事だから軽くね。

私は夏のオフの日、タロウ君のバイト先の喫茶店に入ると、何度か会った人懐こい女の人がいた。安奈さんだ。

店は他にお客さんがいなかった。私は促されて安奈さんと同じテーブルに座った。

「いらっしゃいませ~」
「営業スマイルありがと~」

再び安奈さんに話しかけられている。

「たろうちゃん、隅田川の花火、私達と見に行く?」
「ごめ~ん安奈、その日って、ここでバイトなんだ」

「ええ~残念」
「ここのバイト、お相手がいないの俺だけなんよ」

「あんた、残念すぎ」

安奈さんが、ちらっと私の方を見た。ここに来ると彼女との遭遇率が高い。

こっちもコミュ力上げてなんぼのとこあるし、話はするようになった。

「純子さんって彼女かと思ったよ」

「純子ちゃんは同郷なんだ。この3か月の知り合いだけど、色気がある話しはしてないな・・」

私達は、ガチに恋愛に繋がる話はしていない。

けれどお互いに、地元の話も何か隠している。

私は勇太ことを言えない。ルナさんのことも。

彼はふたりの幼馴染みと一緒に高校を通ったと、最初に言った。

なのに、その話を避けてる感じ。

「ですね~、タロウ君が言う通りですね。4年以上も地元を離れると、懐かしかったするんで、ついここに足を運んじゃうんです」

「ふ~ん、そんなもんなんだ」

この安奈さん、話がうまくて色んなことを喋ってしまった。

「あ、たろうちゃん、じゃあ純子さんが、幼馴染みふたりを知ってたりしないの?」

一瞬、タロウ君の目から、話題を振るなビームが出てた。

「学年、お互いの出身中学の関係で、俺の同中の知り合い、純子ちゃんは知らないね」

「逆にたろうちゃんは、純子さんの知り合いを何人も知ってるんでしょ」

「ですね。高校がこっちの本当の地元にあるから。伊集院って人とか、タロウ君も知ってましたね」

「ああ、名前もすごいけど北欧の血が混じってて、すごいハンサムだったんでしょ」

「そうでしたね・・」

「そういや~」
タロウ君が何か思い出した。

「高1のとき、伊集院君には同じクラスに男と女の友人がいたんだ。俺は違うクラスだったけど、そのふたりが有名だった」

胸がドクンと鳴った。

「え、なになに。そっちも美男美女だったの?」

「いや、どっちもフツメンだったけど、そっちがカップルだったんだよ」

「え、三角関係?」

「違うよ。そんな俗っぽくない話」
「??」

「フツメン彼氏の方が大変な病気になっちゃったんだ」

「え、それって可哀そう。あ、ごめん、茶化していい話じゃなかったね」

「まあまあ、話を振ったこっちも悪いから。彼氏は別れようって言ったらしいけど、彼女は断ったったんだって」

「それで、それからどうしたの」

「ずっと彼女の方が、献身的に支えてた。俺も見たことがある。ゆっくり歩く彼氏の背中に手をあてて、彼女の方がずっと話かけてた」

タロウ君は、第三者から見た勇太とルナさんのことを話している。すごく好意的だ。

学校に通えるギリギリまで頑張ってた勇太。それを支えてたルナさん。

「確か、坂元君と花木さんだったかな。冬のベンチに座った2人を見たら、すごく神聖というか空気が違ってた」

勇太が回復せず、やがて学校をやめたことは知っていた。噂では病気を治すことに専念、となってたらしい。

タロウ君は、大学で東京に出てきて、卒業後のことは知らない。

「知り合いじゃないけど、あの彼女さんのためにも、彼氏君の病気が改善してたらいいなって思うよ・・」

タロウ君はいい人なんだろう。疎遠になった人のことも、元気でいたらいいな、とよく言っている。

だからあの日、私を放っておけなかったんだろう。


「ありがと・・」

「え・・純子さん?」
「純子ちゃん、どうしたの」

「そのふたり、勇太も・・ルナさんも、そんな風に言ってもらって嬉しいと思う。ここで・・タロウ君に会えて良かった」

なんで、こんなこと言ったのかな。受け流せば良かった。安奈さんもいるのに・・

驚いた顔して、タロウ君が私を見ている。


そうか私は、タロウ君に感謝してるんだ。

勇太が空に帰った日、たろう君のコーヒーに癒やされた。本人にその気はなくても助けられた。

私の視界が涙でぼやけた。

嗚咽が出そうで、それ以上はしゃべれなかった。

お金を置いて店を出た。


少し歩いた。前に見つけた公園の近く。人も少ない。

「純子ちゃん」
「あれ・・」

バイト中なのに、タロウ君が追いかけてきた。

「バイトは?」
「安奈に任せてきた。あいつ、前にあそこでバイトしてたから、1時間くらい代わってくれるって」

「え、悪いよ」
「純子ちゃんのこと気にしてた。あいつ、余計なこと言ってたら、今度会ったときに謝りたいって」

「・・安奈さんは悪くないし、タロウ君も問題ないよ」

「けど、涙が・・」

タロウ君は悪くない。けれど、黙っていたら気にさせてしまう。


「さっき話題に出た、勇太・・坂元勇太は私の幼馴染み。花木ルナさんとも親しかった」

あっ、て顔しているタロウ君。

「理由は聞かないでくれたけど・・5月に、喫茶店の前で私、泣いてたでしょ」
「・・うん」

タロウ君は、真っ直ぐ私を見ていてくれる。

「あの日、勇太が空に帰ったの・・。私が大好きだった勇太が・・」

胸に秘めたままだった想いまで、なぜか、タロウ君に打ち明けてしまった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...