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227 後ろから驚かそうとしたら・・

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12月29日の午後。

冬木ゲンジは地元の原隣駅前に戻ってきた。

ゲンジの家は駅から近い。

男子が安全に帰れるルートがあるので、護衛は待ち合わせたメイちゃんひとりでも十分。なので姉3人は帰っていった。

駅から徒歩15分の場所にある塾を出たメイちゃんからLIMEの返事が来た。
メイ『あと10分。待たせてごめんね』

ゲンジは初めて、ひとりで駅前に立っている。今までは女性の目が怖かったから避けてきた。

駅舎を背にして大通りの方を見ている。

女の子にジロジロ見られていて少し怖い。

12月23日にも、ここにメイちゃんがいた。

勇太とメイちゃん、2人のクリスマス会を映像で見た。メイちゃんが勇太に柔らかな笑顔を向けていて、心がかき乱された。

あの時、自分ではあんな笑顔を引き出せないと思った。

それは間違っていた。

努力していない自分への言い訳だった。

今日、勇太に会いに行って良かった。

なんとなく、メイちゃんに本当に笑ってもらえるまで頑張れって言われている気がした。

勇太がメイちゃんに贈る歌のことは、勇太に歌うかやめるか返事をしていない。けれど、特訓して歌うことに決めた。

彼女への気持ちを周囲に知られている。あっちに気がないと言われている。

坂元勇太、伊集院光輝のどちらかと男女の仲になっていると思うのが普通とも言われた。

『今のゲンジなら、他を選べば何人でも彼女ができる』

姉や、同級生女子から言われた。

メイちゃんを好きでいることが辛いとき、男女比1対12なのに、自分は何をやってるんだろうと思ったこともある。

逃げて楽になりたいときもあった。すると、初めてメイちゃんと会話したときのことを思い出す。

あんなにダメな話かけ方をしたのに、丁寧に対応してくれた。

その後も、何の得もないのに守ってくれた。

あの時からずっと、メイちゃんを見ると嬉しくてドキドキしている。

「俺・・やっぱり、メイちゃんのこと好きだ。好きすぎる」


「へ?・・」


真後ろから驚いた声がした。ゲンジも驚いた。

メイちゃんはゲンジの真後ろにいた。首には勇太がプレゼントしたマフラーが巻かれている。

そして、頭にはゲンジがプレゼントした帽子を被っている。

「・・冬木君がひとりでいるの、遠目に見えたから、大回りして・・後ろから・・驚かそうかなって・・」


メイちゃんは顔が真っ赤だ。

お互いに何と言っていいか分からない。

メイちゃんは勉強して偏差値も上がっている。モノを言えるようになった。ゲンジのことでクラスメイトの恋の相談にも乗った。

けれど、自分の恋に関してはどうしていいか分からない。そしてゲンジは、もっと分からない。

メイちゃんは、顔を赤くしてうつむいている。

『あ、あの子、先週は坂元勇太君と、ここで会ってたよ』
『今度は違う人だ』
『あの男子、朝からパラレル市で勇太君と歌ってた。映像もアップされてるよ』
『確かゲンジ君』

男子2人の歌うユニットは珍しい。早くもゲンジの情報が飛び交っている。

『けどあの子、伊集院君とも仲いいんだよね』
『わあ、男子3人と遊んでるのかな』
『すごっ、地味に見えてやり手?』

ゲンジの耳にも、ヘイトにつながりそうな言葉が入ってきた。


脚がすくんだ。

このままでは今までと一緒だ。ゲンジが近付いたせいで、最後はメイちゃんにヘイトが集まる。

勇太に怒られる・・

「違う、勇太さんは関係ない。俺がダメなんだ。そんなの絶対に嫌だ」

ふと、メイちゃんを4人目の彼女にしたいヤマモトタロウのことを思い浮かべた

なんだかんだいってヤマモトは、こういう状況に慣れている。

彼女3人がヤマモトを狙っていた高校生に何か言われたらしい。それをヤマモトは放っておかず、高校生と話して交際を断った。

彼女3人は、今まで以上にヤマモトに好かれる努力をしている。

あっちは粘り強く話しかけている、メイちゃんの心をつかむかもしれない。

「メイちゃん」
「な、なに」

「2人だけで話せるとこ、中央公園に行こう」
「冬木く・・あっ」

ゲンジはメイちゃんの手をつかんだ。

誰の返事も待たずに、防犯体制が整っている大通りの方に歩きだした。

メイちゃんの手は、しっかり握られている。


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