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226 彼女になってほしい人がいる

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12月29日のリーフカフェ。午前10時半過ぎ。

勇太のギターで冬木ゲンジが歌ったミニライブ。

ゲンジの姉3人も協力して4曲も披露した。

最後の曲、ルナのテーマソングを披露したときにはカフェの中が満タンになった。

「♪♩♪月が眠る♪♪♪静かな夜に♩♩♩♩」

♩♪♪♪♪♪

梓とルナのテーマソングを連続で歌い、拍手に次ぐ拍手だ。

「朝から聞いてもらって、ありがとうございま~す!」

勇太は頭を下げた。ゲンジも倣って礼をした。

「ほらゲンジ、俺らの下手なライブに拍手くれたお姉さんに何か言え」

「あ、あの、え~と、みなさんのお陰で、楽しく歌えました。あ、ありがとうございます」

ゲンジの中3スマイルに、お姉さん方の胸がキュンとした。


歌? レベルは低い。

だけど男子ボーカルと男子ギターは、リーフカフェならではのオリジナル。

男子がボーカルや楽器をひくハーレムバンドは、高校生や大学生がやっている。けれどまず、男子ひとりで女子多数の形。

男子が2人もいるバンドはごく少数。だって男女比1対12の上に人前で音楽をやれる男子は少ない。

先月、勇太&伊集院君で久々に歌ったときは土曜日の午後4時。カフェの周囲が不味いことになった。

今日はゲンジという新顔が加わっただけで盛況。午前中だけど冬休み中。高校生を中心にゲンジに注目が集まっている。

『新顔よ、ゲンジ君だって』
『勇太君プロデュースの男性歌手?』
『すごい、御披露目ライブに遭遇できたの?』
『もしかして、ここに伊集院君が加わる日も来るのかな』

勇太はゲンジに度胸を付けさせようとしただけ。

だけどゲンジの女受けが思ったより良くて、ちょっとどころではない反応がある。

勇太はカフェオーナー葉子の方を見た。親指を立てて『息子よ、グッジョブ』と言っている。

いきなり店は売上倍増だ。


勇太は、とりあえずゲンジ達にパイプ椅子を用意して店の隅に座らせた。

ゲンジのお姉さん達も頑張ってくれたし、カフェラテとゴブリンパンを用意。

そして3人のリクエストに応えて、クッキーのあ~ん、ぱくから頬ふにふにをしてあげた。

3人は子猫が目を細めたような笑顔になった。テイクアウトの行列に並んだ女性から羨ましそうな目で見られていた。

勇太は、カフェの女性客に囲まれるゲンジを見た。

「ゲンジ君だよね」
「はい」

「彼女は何人いるの?」
「お姉さんも立候補したいな」
「年上はアリ?」
「もう初セック●は済ませた?」

勇太はゲンジにグイグイいく女性客に驚きもするが、ルナに言わせるとこれが普通らしい。

「か、か、彼女はいません」

「え?」「そうなの?」「それじゃ・・」


ゲンジは言葉に詰まっている。だけど逃げたら、元に戻ると思った。

「す、すみません。彼女になって欲しい人はいます」

ゲンジは顔が真っ赤だ。本人からしたら、やっと言えた。

「あの、これから用事がありますので、すみません」

ゲンジは姉3人を促して帰るという。

「さかも・・いえ、勇太さん」

「ん? ゲンジ、どうした。ちっと待ってろ」

勇太は接客中だ。

「勇太君、ほらゲンジ君が呼んでるよ」

「いいんですよ、ミキさん。いつもカフェに来ていただくお客さんを優先して当然ですから」

「ええ~、嬉しいな~」

勇太の誠実な接客を学んでいたはずなのに、ゲンジは失敗した。

けれど、こういうところが自分と本当のモテ男の違いだと思った。

とりあえず自分にマイナス5点。そして女性客に謝った。

「は~い、ホットラテ入りま~す。で、どうしたゲンジ」

「こ、これからメイちゃんに会いに行きます」

いきなりゲンジの宣言。勇太は微笑んだ。

「おう、頑張ってこい」

「はい!」

ゲンジは店を出た。

メイちゃんと会って、何をするのかなんて聞かない。そこから先は本人達次第。

告白でもいい。何でもいい。今日のゲンジならメイちゃんが傷付かないことを考えて、接してくれると思える。

ミニライブ効果で店は忙しい。勇太は接客に集中し始めた。

伊集院君からLIMEが入っていた。

伊集院『ゲンジ君とは友達になったのかい?』

勇太『違うかな。あえて言うなら弟子?』

多忙な中で軽く返事したけど、伊集院君は再び動揺した。

「・・勇太君、友達と弟子は、どちらが上なんだい?」

◆◆
勢いが付いたゲンジは地元に戻る電車に乗っている。

護衛役の姉3人には、パラレル市で食事もせず帰ることを謝った。

だけど姉達は、勇太の頬ふにふに、出演料代わりのクッキー、ゴブリンパン、カフェの無料券を持たされご満悦だ。


ゲンジはとにかく今、メイちゃんに会いたい。

確かメイちゃんの塾は、今日は昼まで。終わったら会って欲しいとLIMEを入れた。


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