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223 パラレル世界で純愛するならモテてはいけない

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とりあえず、勇太は冬木ゲンジの相談に乗ることにした。

無責任にグイグイ行けと言おうとして、踏みとどまった。

この世界の普通というものを思い出した。

「あ、そうだよな・・」

希少な男子から見て売り手市場といえる恋愛相場。

基本的に男子は受け身。目の前の冬木を見ていると分かる。

転生した勇太自身は最初にルナにこだわった。男子が女子に惚れることがあってもいい。

けれど、色々と周囲が騒がしかった。


勇太は自分と前世ルナの恋が始まった、中2の頃を考えた。

一緒にいたい。話すと楽しい。それだけだった時期は半年で壊された。

周囲に色々と冷やかされた。馬鹿な男子から多少の邪魔も入った。

だけどルナも勇太も地味で目立たなかったのが幸いした。

たくさん話しをする準備期間のようなものがあった。

すでにお互いがオンリーワンだと思ったから、外野の意見に惑わされることはなかった。

恐らくゲンジも、そんな風に自分とメイちゃんの関係を進めていきたい。勇太は思った。

だってメイちゃんもゲンジも、基本的には派手さはない。

けれど前世があって、その記憶を持ってパラレル世界を見ている勇太だけには分かる。

それは無理だそゲンジ、と。

ここは男女比1対12の世界。

ゲンジはメイちゃんに振り向いてもらうため、9月にイメチェンをした。顔の作りも悪くない。

メイちゃんのために勇太をネットで研究しているらしい。

勇太を見習っている。他の女子の言葉も笑顔で丁寧に聞いている。

するとメイちゃんが最上の笑顔で褒めてくれた。

ゲンジ、それ失敗だぞ。

この世界では、付き合ってもいないのに一緒にジュースを飲んでくれる男子は珍しい。プラス話まで聞いてくれる。

メイちゃんがゲンジのことで相談された同級生が早くも8人。

女子からクリスマスプレゼントもたくさんもらったようで、モテている。

前世だと少し優しい陰キャ。この世界では十分な優良株である。

頑張ったゲンジ。だけど昨日、ショックを受けた。

メイちゃんに会いに行った。彼女はパラ高に入るため塾で冬季講座を受けている。

ゲンジも基礎能力を上げるために同じ塾に行っている。

昨日は、メイちゃんにカップケーキを持っていった。一緒に講座を受けていたクラスメイト3人の分も用意した。

それを見た別の女子から好感度が上がり、ゲンジに群がった。それを見たメイちゃん。

「冬木君、モテてるのに彼女を作らないから、立候補者が次から次に現れるんだよ」

「え、え~と・・」

「いいと思う子がいたら言ってね。橋渡しするから」

がび~ん。

ゲンジは返事ができなかった。

この世界、すでにメイちゃんとゲンジが恋仲なら、次の嫁が来ることを喜ぶこともある。

典型的なのがルナ。

けれど、このタイミングで応援に回るメイちゃんは、ゲンジと付き合う気がない。

たとえゲンジの気持ちを知っていたとしてもだ・・

ゲンジはここで、メイちゃんが伊集院君に交際を申し込まれているのでないかと思ってしまった。

ゲンジは家でも子供の頃のように家族と話すようになった。つい不安を漏らした。

姉たちは、ゲンジを見ていられなくてリーフカフェに一緒に来た。

勇太もゲンジに会ったのは1度だけど、メイちゃんから話は何度も聞いていた。

最近はゲンジへの好意度も上がっているように感じる。

恋心は芽生えていなくても、ひとつの要素である信用というものはある。

信頼、すなわち頼りがいはなさそうだが・・

だからゲンジのためではなく、勇太は自分に失恋したメイちゃんのために動く。


「うーん、俺からのアドバイスは難しい・・。そうだ、歌でも歌わせてメイちゃんにアピールすれば」

答えはシンプルだ。

やはり、ルナ達以外が相手だと短絡的な勇太だ。

店の隅には、いつでも弾けるように勇太の予備ギターが置いてある。

「あ、あの」

「冬木君、もう少し開店まで時間があるから、歌を教えるよ」

勇太はメイちゃんに対しても歌をあげようと思っている。

もちろん前世のパクリ歌。

仲がいい兄妹の物語。嫁に行く妹に兄が贈る歌。題名は『キレイになったね』だったと記憶している。

数回は風花の前で歌って、ギターコードをあててもらっている。

♩♪♪♪♩♪♪♩♩♩♩

「♪♩♪♪君が生まれたときは♩♪♩その小さな手が♪♩♪」

♪♪♩♪♩₤♩♩♩

「勇太さんの歌、知ってるけど・・」
「これ初めてだよね」
「もしかして未公開曲?」

ゲンジの姉が驚いている。そして至近距離で勇太の響く歌を聞いて、顔を赤くしている。

ゲンジは勇太の意図が分からない。

「冬木君」
「は、はい・・」

「俺、メイちゃんに、この曲を贈ろうと思ってるんだ。未公開曲だよ」
「?」

「だから冬木君、中学を卒業するとき、君がメイちゃんに最初に歌ってあげてよ」

「ぼ、僕がですか?」

「そう。無理というなら、俺が自分でメイちゃんに渡す。冬木君がやってくれるなら、俺は先に公表しない」

勇太がゲンジの目を見ている。笑っているけど、試している。

ゲンジは緊張しているけれど確信した。

勇太とメイちゃんは、たまに聞く名乗れない人工授精的な異母兄妹の関係だろうと。

もし、兄妹でなければ・・

「・・あ、あの、僕が歌ってもいいんでしょうか」

ハッキリしない返答に勇太はイラッとした。

『妹』を好きな男。だけど今の瞬間は、メイちゃんを任せたくない。

試練を与えることにした。


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