上 下
209 / 296

209 本当は兄妹ですが、なにか?

しおりを挟む
パラレル市から少し離れた街、日も暮れた駅前。

大きくない駅だけど、今日は12月23日。クリスマスのイルミネーションが光って周囲は明るい。

共に人工授精生まれの勇太、メイちゃんの、公的には認められない異母兄妹が向かい合って立っている。

有名になってきた勇太の次の嫁だと、同じ中学の生徒達は思っている。

雰囲気が夏からガラリと変わっている。

勇太と変わらぬ交流がある。
だから、まさかメイちゃんの変化の原因が勇太に失恋したからだと思っていない。

友人すらも。

優しくなった。
人のために、誰かに意見を言うようになった。
モブ顔は変わらないのに、笑顔が綺麗になった。

最近、メイちゃんが気になるけどアプローチに失敗している、同級生のヤマモトタロウ。彼が偶然に通りかかってメイちゃんを見ている。

タロウは彼女3人と肉体関係にある。女は声をかけたら1歩、キスしたら2歩、ヤッたら5歩という感じで勝手に距離を詰めてくる。

けれど、メイちゃんが纏う雰囲気はその子らと違う。

声をかけても喜ばない。ディスっても怒らず、ただ目をじっと見てくる。

もうひとりのクラスメイト男子、根が暗い冬木ゲンジには笑いかける。

モテる自分が声をかけているのに、熱を感じない。

駅前のメイちゃんは、なにか自分より先を行っている気がする。

勇太とメイちゃんが向かい合ったままだ。

ヤマモトタロウは見ていて、なんだか嫉妬心のようなものが沸いてくる。

それくらい絵になっている。どっちもモブ顔のくせに・・

寒さの中、イルミネーションに照らされながら弾んだ笑い声の2人。

メイちゃんが口を開いた。

「勇太お兄さん、ネットで見たんだけど、私もマフラーもらえるの?」

「うん」

「え~、やっぱり。まずいな~」

「ダメだった?」
「いえ、嬉しいけど、わ、私のプレゼントも・・」

お互いに用意したのはマフラーだった。

そしてメイちゃんのやつは手編みだった。

「初めてトライして、下手くそで恥ずかしい・・」

メイちゃんが恥ずかしそうに笑う。
勇太は目を細めた。

妹マフラーは前世にももらった。15歳の梓から。

編み目は不揃いでも、嬉しかった。すでに病気が進行していた勇太だったけど首に巻いてもらって優しい感触を堪能した。

今世でも妹マフラーをもらえる。

「メイちゃん、リクエストしていい?」
「な、なんでしょう」

「首に巻いて欲しいな」

「・・うん!」

大注目の中、メイちゃんが勇太の首に手編みのマフラーを巻いた。
勇太は目を閉じて、嬉しそうにしている。

「暖かいよ、ありがとう。メイちゃんも、ほら」

お返しに、勇太も用意したマフラーをメイちゃんの首に巻いた。ついでに頬をむにむにした。

「くすぐったい。・・ゆうた・・お兄ちゃん」

「ふたりのときは、お兄ちゃんって呼ばれると嬉しいな。ほれほれ。暖まったか?」
「むにゅにゅ、もうっ、お兄ちゃん」

メイちゃんは、勇太に失恋して悲しい時期を乗り越えつつある。大事にされているから、純粋に本物の妹枠を楽しもうと思えてきた。

勇太妹枠の大先輩・長谷川キヨミのように。

「メイちゃん、ご飯は?」
「お兄ちゃんが奢ってくれるってLIMEくれたから、お腹すかせて来ちゃった」

「行きたいお店は?」
「中学生の知ってるとこなんて、あまりないって。そこのパスタ屋さん、入ってみたかったの・・ダメ?」

上目遣いのメイちゃんに勇太が手を差し出した。メイちゃんも自然に手をつかんだ。

吉田真子の時のようなガチガチ感もなく自然だ。

「いこう。お兄ちゃん」

「よし、食うぞ~」

まるで兄妹のようだと、ギャラリーは感じている。

メイちゃんから、中3なら十分にあるはずの肉食女子らしさがにじみ出ていない。

もう15歳。結婚も可能である。

勇太という御馳走が目の前にぶら下がって、女子260人にひとりという、男子と駅前プレゼント交換までやっている。

その上に、ご飯まで一緒となる。花木ルナ&勇太の例から考えて、メイちゃんのデザートは勇太しかないでしょ、と。

そう考えるのが、この男女比1対12世界の一般的な肉食乙女だ。


「メイちゃんは、ピザ、パスタ、どっちが好き」

「う~ん、どっちも!」

「じゃあ、色々と頼もう」
「あはは」

パスタの店に入る前の笑顔はネットに上がった。勇太はメイちゃんの笑顔が綺麗になってきたと感じた。

それは、離れた場所から美人3人を侍らせながら見ていたヤマモトタロウも同じ。


伊集院君と勇太効果で偏差値が上がったパラ高を狙う受験生。そして、妹として勇太ファミリーとの付き合い方を考えるメイちゃん。

男女比1対12の世界で、モブの自分が男子に好意を寄せられることは2度とないと思っている。

だから周りを気にせず、自分ができることを続けている。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

男女比1対99の世界で引き篭もります!

夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公! 前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!! 偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...