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197 私の人生、すでにプラスだよ
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移植手術は無事に終わった。
由乃は手術を受けた上に、この世界ならではの透析系の治療もしたばかり。
10日ほど無菌室で安静にして、薬の投与も始まる。
そのブースト効果が出て、半月ほどして移植した骨髄が威力を発揮し始めれば、ひとまず安心だ。
といっても、しばらくは家族も気が気でない。90パーセントの生存率といわれる早期治療は叶った。
それでも100パーセントではない。
風花の退院予定は分からない。
ドナーになったあと、高熱が出たり頭痛がしたり、吐き気が続いたり。それは明日以降に症状が出る。
何もない人だっている。個人差が激しい。
一刻でも早く退院したい風花にはきつい流れ。
由乃の異母姉妹間門嘉菜は、姉妹や親達は、それを分かっている。
今、眠ったまま病室に運ばれてきた風花に嘉菜が言った。
「風花さん、この恩は決して忘れません」
風花には、嘉菜の言葉が聞こえているのかどうか分からない。
◇周防風花◇
異母姉妹の誰かが感謝してくれる声が聞こえた気がした。それから、どれくらい時間が経ったのだろうか。
うっすらと目を開けると病室に誰かひとりだけいた。
「知らない天井だ・・」とりあえず言ってみた。
背中の感覚がない。まだ麻酔が効いてるのかな。
「それ、この前見てた、ネット小説のセリフでしょ」
「あはは・・」
葉子さんがいた。10歳年上。私の最愛の彼女だ。9月に勇太君の家に行って出会って、特別なことはなかった。
だけど好きになった。
ゆっくり、ゆっくり、今も好きになってる。
なんというか、一度は居場所をなくした私の帰るとこを作ってくれる人。
今回、ドナーになったことに悔いはない。
ただ、仕事ドタキャンが影響して、私は今後の仕事の行方が分からない。
ドナーになると決めた直後、その不安を葉子さんにだけ漏らした。
そしたら軽い口調で自分の家に来いだって。
「手術が終わったら、そのまんまうちに住みなよ」。笑ったね。
運が良すぎる。
8月の終わり頃、夏休み中だけど『パンの歌』でデビュー寸前の花木純子が、アコースティックギターのギタリストを探してるって話が回ってきた。
簡易なオーディションみたいなものを、通ってるパラレル総合芸術大学でやるってんで、大急ぎで行った。
私が3人目だった。
パンの歌の純子といえば、世にも珍しい男子の作詞作曲家・坂元勇太の相棒だ。ネット上では、すでに有名だった。
私は勇太君の歌をネットで聞いていた。なんだかすごく響いた。だから耳コピして何度も弾いていた。
その曲を自分なりにアレンジして披露したら、何もかもすっとばして純子が勇太君を紹介してくれた。
そして、勇太君も気に入ってくれて、その日のうちに私のことをイメージしたかのような曲をくれた。
大切な人との再会を願った歌。私が題名を付けていいと言われた。
『ひとりじゃない』
私のテーマソングとして紹介してくれる。
ドナーになることで失うものがある。
私の中では大きいけれど、得られるものの総量に比べたら微々たるもの。
大注目の勇太作詞作曲CDのファーストアルバムのギターをメインで弾かせてもらった。
そこには私だけでなく、柔道女子なら誰でも知っているカオルのテーマソングまで入っている。
私も自分の実力くらい知っている。
クリスマスイベントまでに復帰が難しいから、代役のギタリストが用意してある。デモ音源を聞かせてもらったけど、私よりツーランクうまい。
その程度の私がギタリストとして躓いても、残るものが大きすぎる。
勇太君、間門の人達も私が損をしないように動いてくれる。
「・・みんな、ありがとう。十分にプラスの人生だよ」
葉子さんは優しく微笑んで、手を握ってくれる。
先行きが不安で、たまに涙が出る。
そんでも笑っていられる。
お互いに名乗れなくたって、私の持ってるもので妹を救える。
私の人生、プラス確定。
由乃は手術を受けた上に、この世界ならではの透析系の治療もしたばかり。
10日ほど無菌室で安静にして、薬の投与も始まる。
そのブースト効果が出て、半月ほどして移植した骨髄が威力を発揮し始めれば、ひとまず安心だ。
といっても、しばらくは家族も気が気でない。90パーセントの生存率といわれる早期治療は叶った。
それでも100パーセントではない。
風花の退院予定は分からない。
ドナーになったあと、高熱が出たり頭痛がしたり、吐き気が続いたり。それは明日以降に症状が出る。
何もない人だっている。個人差が激しい。
一刻でも早く退院したい風花にはきつい流れ。
由乃の異母姉妹間門嘉菜は、姉妹や親達は、それを分かっている。
今、眠ったまま病室に運ばれてきた風花に嘉菜が言った。
「風花さん、この恩は決して忘れません」
風花には、嘉菜の言葉が聞こえているのかどうか分からない。
◇周防風花◇
異母姉妹の誰かが感謝してくれる声が聞こえた気がした。それから、どれくらい時間が経ったのだろうか。
うっすらと目を開けると病室に誰かひとりだけいた。
「知らない天井だ・・」とりあえず言ってみた。
背中の感覚がない。まだ麻酔が効いてるのかな。
「それ、この前見てた、ネット小説のセリフでしょ」
「あはは・・」
葉子さんがいた。10歳年上。私の最愛の彼女だ。9月に勇太君の家に行って出会って、特別なことはなかった。
だけど好きになった。
ゆっくり、ゆっくり、今も好きになってる。
なんというか、一度は居場所をなくした私の帰るとこを作ってくれる人。
今回、ドナーになったことに悔いはない。
ただ、仕事ドタキャンが影響して、私は今後の仕事の行方が分からない。
ドナーになると決めた直後、その不安を葉子さんにだけ漏らした。
そしたら軽い口調で自分の家に来いだって。
「手術が終わったら、そのまんまうちに住みなよ」。笑ったね。
運が良すぎる。
8月の終わり頃、夏休み中だけど『パンの歌』でデビュー寸前の花木純子が、アコースティックギターのギタリストを探してるって話が回ってきた。
簡易なオーディションみたいなものを、通ってるパラレル総合芸術大学でやるってんで、大急ぎで行った。
私が3人目だった。
パンの歌の純子といえば、世にも珍しい男子の作詞作曲家・坂元勇太の相棒だ。ネット上では、すでに有名だった。
私は勇太君の歌をネットで聞いていた。なんだかすごく響いた。だから耳コピして何度も弾いていた。
その曲を自分なりにアレンジして披露したら、何もかもすっとばして純子が勇太君を紹介してくれた。
そして、勇太君も気に入ってくれて、その日のうちに私のことをイメージしたかのような曲をくれた。
大切な人との再会を願った歌。私が題名を付けていいと言われた。
『ひとりじゃない』
私のテーマソングとして紹介してくれる。
ドナーになることで失うものがある。
私の中では大きいけれど、得られるものの総量に比べたら微々たるもの。
大注目の勇太作詞作曲CDのファーストアルバムのギターをメインで弾かせてもらった。
そこには私だけでなく、柔道女子なら誰でも知っているカオルのテーマソングまで入っている。
私も自分の実力くらい知っている。
クリスマスイベントまでに復帰が難しいから、代役のギタリストが用意してある。デモ音源を聞かせてもらったけど、私よりツーランクうまい。
その程度の私がギタリストとして躓いても、残るものが大きすぎる。
勇太君、間門の人達も私が損をしないように動いてくれる。
「・・みんな、ありがとう。十分にプラスの人生だよ」
葉子さんは優しく微笑んで、手を握ってくれる。
先行きが不安で、たまに涙が出る。
そんでも笑っていられる。
お互いに名乗れなくたって、私の持ってるもので妹を救える。
私の人生、プラス確定。
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