193 / 300
193 『他人』であっても
しおりを挟む
由乃が入院する病院。もう夜の11時だ。
医師が風花の検査結果を持ってきた。35~36歳の女医さんだ。
間門陽介、香里奈夫妻が息を飲んでいる。
「え~、結論を申し上げますと、周防風花さんの『型』は間門由乃さんへの骨髄ドナーとして適しています」
由乃の生母、間門香里奈の顔が明るくなった。
「さらに、1年生存率、5年生存率を高めるための、幹細胞自己再生力の関しても・・」
要するに勇太の世界で不確定だった幾つかの要素も一致して、回復の見込み大という話だった。
ただ、ここから暗黙の了解だ。
「今回は簡易検査です。精密検査で、本当に『姉妹並』の適合率なのかを調べさせていただきます」
勇太も2日くらい時間があったから調べた。この世界、人工受精で異母姉妹が存在する。
だから、たまたまドナー適合者などが見つかったとき、調べると遺伝子的な繋がりがあったりする。
医師の説明を聞くと慎重だ。
簡易検査でも血液の高い適合率が出たということは、結論は絞られる。
しかし由乃の父親である間門陽介と周防風花は戸籍上は他人。
医師は治療に必要なことだから『出生番号』も確認している。それをバラす訳にはいかない。
今回も、たまたま本物の娘以上にシンクロした他人がいるという説明になった。
勇太がネットで調べたところで元の世界になかったのは、ドナーと患者家族の養子縁組。
骨髄バンクに登録してくれた人に、助けられた人がいたりする。若い年代同士。
特に助けられた側が裕福で、助けた側が貧困していたりする。
そのとき、かなりの確率で『出生番号』をこっそり合わせたりするそうだ。
一致したら、異母姉妹が確定。
やはり縁を感じるのが人間。真実さえバラさなけば罰せられることはないから、裕福な家に異母兄弟姉妹を助けてくれた子を迎え入れたりする。
勇太は、この世界ならではの話だと思った。
思考が逸れたが、勇太の目の前の光景は歓喜ではない。
実は手放しに喜んでいるのは間門香里奈のみ。
香里奈は娘の希望ができて、肝心なことを忘れている。
間門家の人間は知っている。
勇太との調停があったからこそ、勇太に歌を提供された純子&風花が12月12日にデビューすることを知っている。
すでに子供からの知名度も高い純子と違い、12月に入る明日からの1ヶ月間が風花の人生最大の勝負。
間門でも何かのイベントに呼んで応援したいと、家の中でも話していた。
そう、風花は寝ている場合ではない。
今回のドナーになると、由乃の病気が急性なため、緊急手術を求められる。
最速で12月7日。風花は骨髄を提供するための手術を受ける。そこからどんなに回復が早くても、退院は15日。
それも普通は無理で、常識的なら22日以降の退院になる。
実際には風花の事前処置などもあるため、2週間くらい入院する。そこが最低ライン。
純子&風花のデビューは12日。レコード会社、伊集院君も噛んでくれたアルバム発売イベントでクリスマスまで一気に駆け抜ける予定だ。
そうなのだ、ドナーになることは風花の希望が潰える可能性がある。
これは服飾企業の『マカド』でフォローできる性質でもない。
少し冷静になったのか、香里奈もそれを思い出したようだ。
勇太は前世で難病に倒れたあとで憤ったことがある。
血液の病気になった患者さんが、ドナーを見つけたが仕事を休めないことを理由に断られた例を何度か目にした。
勇太自身、難病に倒れたあとだったし、致死率が高い病気の人の目線で怒りを感じた。
目の前に、実際にドナーを拒否する人間がいたら怒鳴りたかった。
しかし・・
横に立っている風花に、ドナーになってくれと言えない。
今になって、多少なりとも働いて自分も分かってきた。
だから、自分との仕事に人生をかけているパラレル父さんの風花がドナーを拒否しても、勇太は怒れない。
対価はあるだろう。
けれどドナーとして取られる時期も悪ければ、その後も損するものが大きい。
なにも言えない勇太の目を風花が見た。
にっこりと微笑んだ。
やっぱりパラレル父さんだ。
勇太が前世で不治の病と宣告されたとき、父・風太は医師に言った。
父が勇太の手足を見て頼んだ。
『頼む先生。勇太に俺の手足をやっても構わねえ。何とか助けてやってくれ』
そうやって必死になってくれた。
パラレル父さんの風花は香里奈の前に立って、静かに口を開いた。
「由乃さんのお母さん、由乃さんは私が守ります」
医師が風花の検査結果を持ってきた。35~36歳の女医さんだ。
間門陽介、香里奈夫妻が息を飲んでいる。
「え~、結論を申し上げますと、周防風花さんの『型』は間門由乃さんへの骨髄ドナーとして適しています」
由乃の生母、間門香里奈の顔が明るくなった。
「さらに、1年生存率、5年生存率を高めるための、幹細胞自己再生力の関しても・・」
要するに勇太の世界で不確定だった幾つかの要素も一致して、回復の見込み大という話だった。
ただ、ここから暗黙の了解だ。
「今回は簡易検査です。精密検査で、本当に『姉妹並』の適合率なのかを調べさせていただきます」
勇太も2日くらい時間があったから調べた。この世界、人工受精で異母姉妹が存在する。
だから、たまたまドナー適合者などが見つかったとき、調べると遺伝子的な繋がりがあったりする。
医師の説明を聞くと慎重だ。
簡易検査でも血液の高い適合率が出たということは、結論は絞られる。
しかし由乃の父親である間門陽介と周防風花は戸籍上は他人。
医師は治療に必要なことだから『出生番号』も確認している。それをバラす訳にはいかない。
今回も、たまたま本物の娘以上にシンクロした他人がいるという説明になった。
勇太がネットで調べたところで元の世界になかったのは、ドナーと患者家族の養子縁組。
骨髄バンクに登録してくれた人に、助けられた人がいたりする。若い年代同士。
特に助けられた側が裕福で、助けた側が貧困していたりする。
そのとき、かなりの確率で『出生番号』をこっそり合わせたりするそうだ。
一致したら、異母姉妹が確定。
やはり縁を感じるのが人間。真実さえバラさなけば罰せられることはないから、裕福な家に異母兄弟姉妹を助けてくれた子を迎え入れたりする。
勇太は、この世界ならではの話だと思った。
思考が逸れたが、勇太の目の前の光景は歓喜ではない。
実は手放しに喜んでいるのは間門香里奈のみ。
香里奈は娘の希望ができて、肝心なことを忘れている。
間門家の人間は知っている。
勇太との調停があったからこそ、勇太に歌を提供された純子&風花が12月12日にデビューすることを知っている。
すでに子供からの知名度も高い純子と違い、12月に入る明日からの1ヶ月間が風花の人生最大の勝負。
間門でも何かのイベントに呼んで応援したいと、家の中でも話していた。
そう、風花は寝ている場合ではない。
今回のドナーになると、由乃の病気が急性なため、緊急手術を求められる。
最速で12月7日。風花は骨髄を提供するための手術を受ける。そこからどんなに回復が早くても、退院は15日。
それも普通は無理で、常識的なら22日以降の退院になる。
実際には風花の事前処置などもあるため、2週間くらい入院する。そこが最低ライン。
純子&風花のデビューは12日。レコード会社、伊集院君も噛んでくれたアルバム発売イベントでクリスマスまで一気に駆け抜ける予定だ。
そうなのだ、ドナーになることは風花の希望が潰える可能性がある。
これは服飾企業の『マカド』でフォローできる性質でもない。
少し冷静になったのか、香里奈もそれを思い出したようだ。
勇太は前世で難病に倒れたあとで憤ったことがある。
血液の病気になった患者さんが、ドナーを見つけたが仕事を休めないことを理由に断られた例を何度か目にした。
勇太自身、難病に倒れたあとだったし、致死率が高い病気の人の目線で怒りを感じた。
目の前に、実際にドナーを拒否する人間がいたら怒鳴りたかった。
しかし・・
横に立っている風花に、ドナーになってくれと言えない。
今になって、多少なりとも働いて自分も分かってきた。
だから、自分との仕事に人生をかけているパラレル父さんの風花がドナーを拒否しても、勇太は怒れない。
対価はあるだろう。
けれどドナーとして取られる時期も悪ければ、その後も損するものが大きい。
なにも言えない勇太の目を風花が見た。
にっこりと微笑んだ。
やっぱりパラレル父さんだ。
勇太が前世で不治の病と宣告されたとき、父・風太は医師に言った。
父が勇太の手足を見て頼んだ。
『頼む先生。勇太に俺の手足をやっても構わねえ。何とか助けてやってくれ』
そうやって必死になってくれた。
パラレル父さんの風花は香里奈の前に立って、静かに口を開いた。
「由乃さんのお母さん、由乃さんは私が守ります」
41
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

男女比1対99の世界で引き篭もります!
夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公!
前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!!
偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる