モブ顔の俺が男女比1対12のパラレルワールドに転生。またも同じ女の子を好きになりました

とみっしぇる

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193 『他人』であっても

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由乃が入院する病院。もう夜の11時だ。

医師が風花の検査結果を持ってきた。35~36歳の女医さんだ。

間門陽介、香里奈夫妻が息を飲んでいる。

「え~、結論を申し上げますと、周防風花さんの『型』は間門由乃さんへの骨髄ドナーとして適しています」

由乃の生母、間門香里奈の顔が明るくなった。

「さらに、1年生存率、5年生存率を高めるための、幹細胞自己再生力の関しても・・」

要するに勇太の世界で不確定だった幾つかの要素も一致して、回復の見込み大という話だった。

ただ、ここから暗黙の了解だ。

「今回は簡易検査です。精密検査で、本当に『姉妹並』の適合率なのかを調べさせていただきます」

勇太も2日くらい時間があったから調べた。この世界、人工受精で異母姉妹が存在する。

だから、たまたまドナー適合者などが見つかったとき、調べると遺伝子的な繋がりがあったりする。

医師の説明を聞くと慎重だ。

簡易検査でも血液の高い適合率が出たということは、結論は絞られる。

しかし由乃の父親である間門陽介と周防風花は戸籍上は他人。

医師は治療に必要なことだから『出生番号』も確認している。それをバラす訳にはいかない。

今回も、たまたま本物の娘以上にシンクロした他人がいるという説明になった。

勇太がネットで調べたところで元の世界になかったのは、ドナーと患者家族の養子縁組。

骨髄バンクに登録してくれた人に、助けられた人がいたりする。若い年代同士。

特に助けられた側が裕福で、助けた側が貧困していたりする。

そのとき、かなりの確率で『出生番号』をこっそり合わせたりするそうだ。

一致したら、異母姉妹が確定。

やはり縁を感じるのが人間。真実さえバラさなけば罰せられることはないから、裕福な家に異母兄弟姉妹を助けてくれた子を迎え入れたりする。

勇太は、この世界ならではの話だと思った。


思考が逸れたが、勇太の目の前の光景は歓喜ではない。

実は手放しに喜んでいるのは間門香里奈のみ。

香里奈は娘の希望ができて、肝心なことを忘れている。

間門家の人間は知っている。

勇太との調停があったからこそ、勇太に歌を提供された純子&風花が12月12日にデビューすることを知っている。

すでに子供からの知名度も高い純子と違い、12月に入る明日からの1ヶ月間が風花の人生最大の勝負。

間門でも何かのイベントに呼んで応援したいと、家の中でも話していた。

そう、風花は寝ている場合ではない。

今回のドナーになると、由乃の病気が急性なため、緊急手術を求められる。

最速で12月7日。風花は骨髄を提供するための手術を受ける。そこからどんなに回復が早くても、退院は15日。

それも普通は無理で、常識的なら22日以降の退院になる。

実際には風花の事前処置などもあるため、2週間くらい入院する。そこが最低ライン。

純子&風花のデビューは12日。レコード会社、伊集院君も噛んでくれたアルバム発売イベントでクリスマスまで一気に駆け抜ける予定だ。

そうなのだ、ドナーになることは風花の希望が潰える可能性がある。

これは服飾企業の『マカド』でフォローできる性質でもない。

少し冷静になったのか、香里奈もそれを思い出したようだ。


勇太は前世で難病に倒れたあとで憤ったことがある。

血液の病気になった患者さんが、ドナーを見つけたが仕事を休めないことを理由に断られた例を何度か目にした。

勇太自身、難病に倒れたあとだったし、致死率が高い病気の人の目線で怒りを感じた。

目の前に、実際にドナーを拒否する人間がいたら怒鳴りたかった。

しかし・・

横に立っている風花に、ドナーになってくれと言えない。

今になって、多少なりとも働いて自分も分かってきた。

だから、自分との仕事に人生をかけているパラレル父さんの風花がドナーを拒否しても、勇太は怒れない。

対価はあるだろう。


けれどドナーとして取られる時期も悪ければ、その後も損するものが大きい。

なにも言えない勇太の目を風花が見た。

にっこりと微笑んだ。

やっぱりパラレル父さんだ。

勇太が前世で不治の病と宣告されたとき、父・風太は医師に言った。

父が勇太の手足を見て頼んだ。

『頼む先生。勇太に俺の手足をやっても構わねえ。何とか助けてやってくれ』
そうやって必死になってくれた。


パラレル父さんの風花は香里奈の前に立って、静かに口を開いた。

「由乃さんのお母さん、由乃さんは私が守ります」

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