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187 夢の中で◇梓◇
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◇梓◇
麻酔から覚めた。盲腸炎だった。
激痛だったけど、痛みはお腹だけ。明け方の激しい倦怠感から感じた恐怖は不思議となかった。
ほっとした。
手術後なのか、いつか分からない。私は夢を見ていた。
夢の中で・・
ユウ兄ちゃんが2人出てきた。
場面は今年の5月10日、ユウ兄ちゃんの人間性がいきなり変わった日だ。
夢の中の私は、放課後の階段のところにいた。明晰夢というやつだろうか。
実際のあの日、私は違う場所にいた。
お母さんのカフェで人手が足りないから手伝うことになっていた。
急いで帰り支度をして自分の教室を出た。
校門から出ようとしたとき、学校に救急車が入ってきた。
ユウ兄ちゃんが怪我して救急車で運ばれ、お母さんと合流して後を追った。これが実際の出来事。
だけど夢の中では、私はユウ兄ちゃんの2年3組横の階段近くに立っている。
私が現実では見ていない場面だ。私は体が動かず、ただ見ていた。
急いで帰ろうとした変身前の84キロあったユウ兄ちゃんが階段を踏み外した。
偶然に通りかかったルナさんがユウ兄ちゃんの腕をつかんだ。けれど、ブレザーとワイシャツの袖が破れて頭からバウンドして落ちていった。
唖然とするルナさん。誰かが救急車を呼んだり、先生を呼びに行ったりしている。
誰かがルナさんがユウ兄ちゃんを押したと叫んだ。
夢の中の私は、頭から血を流しているユウ兄ちゃんを助けようと思った。そうしたら足が動いて階段を下っていた。
ユウ兄ちゃんまで、あと一歩。
突然・・
私とユウ兄ちゃんの周りの足場がなくなって漆黒の穴が空いた。
落ちる?けれど階段の手すりは残っていて私はそれを両手でつかんだ。
だけど、何かに足を掴まれた。
頭が血まみれの84キロユウ兄ちゃんが私の右足をつかんでいた。
『梓、助けろ。落ちるだろうが・・』
これはユウ兄ちゃんだ。5月9日までのユウ兄ちゃんだ。
そして記憶が蘇ってきた。4年間は最低だったけど、その前は優しかった。そして9歳のときには私をお嫁さんにしてくれるって言った。
そんな記憶が流れ込んできた。
『おい梓、てめえ何とかしろ』
『む、無理・・』身体が持ち上がらず、ぶら下がるだけの私はそう言った。
すると、このユウ兄ちゃんはこう言った。
『だったら手を離せ。お前もこっちに来やがれ』
『え・・・ユウ・・兄ちゃん?』
何か絶望感が渦巻いて、手すりをつかんだ両手の力が抜けた。
けれど・・・
がしっ、と力強い手が私の右手をつかんだ。
私は、私が落ちないように手をつかんでくれた人を見て、心が温かくなった。
この人も『ユウ兄ちゃん』だった。
薄くて白いワイシャツにボタン2個空け。体重はがっしり体型の69キロ。
このユウ兄ちゃんからも、小さい時の思い出が流れ込んできた。
私とユウ兄ちゃんは1歳しか違わないのに、こっちのユウ兄ちゃんが手を引いている私は、すごく小さい。
まるで4~5歳の年の差があるように見える。
だけど熱を出した小さな私を看病してくれてる。
カオルちゃんに何となく似た、大きな男の子におんぶされてる私を笑顔で見ている。
私の記憶じゃないのに、嬉しかった。
『私・・このユウ兄ちゃんと生きていきたい』
そしたら、太ったユウ兄ちゃんが驚いた顔をしている。
そして力尽きたのか、顔を歪めたまま私の足から手を離して漆黒の中に落ちていった。
『梓、間に合って良かった』
ユウ兄ちゃんに抱き留められたところで目が覚めた。
◆
こっちは現実だ。白い天井。
病院のベッドだ。そして横には今のユウ兄ちゃんがいて、私の手をしっかり握ってくれている。
私は何か言おうとした。ユウ兄ちゃんは待っていてくれる。
「ただいま」
「お帰り」
なんで、こんな言葉が出たんだろう、そしてなんで、ユウ兄ちゃんは自然に返してくれたんだろう。
術後の経過は順調だった。
ただ、3日後にお見舞いに来てくれたクラスメイトから、いじりまくられている。
親友の渋谷カリンらクラスメイト4人が、私の病室に入ってきた。
「梓~大変だったね~~~、あ・・」
ノックもせず、みんなが病室に入ってきたとき、私は体を濡れタオルで拭いているところだった。
みんなと目が合った。
そのとき私は上半身裸で、おっぱいを拭いてもらっている。
・・ユウ兄ちゃんに。
「ようカリン、みんなもお見舞いありがと~。ほら梓、脇の下拭くから右手上げて」
「あ、いや、ちょい、ユウ兄ちゃん」
クラスの子が病室内なのに大声を出した。
「何よそれ!」
「うらやまし~」
「それ介護行為じゃなくて、エロ行為だろ~~」
みんなの大声、全開のドア。看護師さんや入院中の患者さんが集まってきた。
まだ体に満足に力が入らないから・・抵抗できない。ということにして。
「横や前は自分で拭くって言ったんだけど、ユウ兄ちゃんが・・」
「乳首、ビンビンやんけ、梓!」
特に元気なクラスメイト・ハナエが騒ぎ足した。
「私が家の階段を踏み外して足を折っても、姉ちゃんと妹に痛いかって聞かれただけだったぞ・・」
知らんがな。
とまあ、こんなこともあったけど、おおむね順調。
あの夢は何だったのか分からないけれど、このユウ兄ちゃんが助けてくれた気がする。
幸せだ。
麻酔から覚めた。盲腸炎だった。
激痛だったけど、痛みはお腹だけ。明け方の激しい倦怠感から感じた恐怖は不思議となかった。
ほっとした。
手術後なのか、いつか分からない。私は夢を見ていた。
夢の中で・・
ユウ兄ちゃんが2人出てきた。
場面は今年の5月10日、ユウ兄ちゃんの人間性がいきなり変わった日だ。
夢の中の私は、放課後の階段のところにいた。明晰夢というやつだろうか。
実際のあの日、私は違う場所にいた。
お母さんのカフェで人手が足りないから手伝うことになっていた。
急いで帰り支度をして自分の教室を出た。
校門から出ようとしたとき、学校に救急車が入ってきた。
ユウ兄ちゃんが怪我して救急車で運ばれ、お母さんと合流して後を追った。これが実際の出来事。
だけど夢の中では、私はユウ兄ちゃんの2年3組横の階段近くに立っている。
私が現実では見ていない場面だ。私は体が動かず、ただ見ていた。
急いで帰ろうとした変身前の84キロあったユウ兄ちゃんが階段を踏み外した。
偶然に通りかかったルナさんがユウ兄ちゃんの腕をつかんだ。けれど、ブレザーとワイシャツの袖が破れて頭からバウンドして落ちていった。
唖然とするルナさん。誰かが救急車を呼んだり、先生を呼びに行ったりしている。
誰かがルナさんがユウ兄ちゃんを押したと叫んだ。
夢の中の私は、頭から血を流しているユウ兄ちゃんを助けようと思った。そうしたら足が動いて階段を下っていた。
ユウ兄ちゃんまで、あと一歩。
突然・・
私とユウ兄ちゃんの周りの足場がなくなって漆黒の穴が空いた。
落ちる?けれど階段の手すりは残っていて私はそれを両手でつかんだ。
だけど、何かに足を掴まれた。
頭が血まみれの84キロユウ兄ちゃんが私の右足をつかんでいた。
『梓、助けろ。落ちるだろうが・・』
これはユウ兄ちゃんだ。5月9日までのユウ兄ちゃんだ。
そして記憶が蘇ってきた。4年間は最低だったけど、その前は優しかった。そして9歳のときには私をお嫁さんにしてくれるって言った。
そんな記憶が流れ込んできた。
『おい梓、てめえ何とかしろ』
『む、無理・・』身体が持ち上がらず、ぶら下がるだけの私はそう言った。
すると、このユウ兄ちゃんはこう言った。
『だったら手を離せ。お前もこっちに来やがれ』
『え・・・ユウ・・兄ちゃん?』
何か絶望感が渦巻いて、手すりをつかんだ両手の力が抜けた。
けれど・・・
がしっ、と力強い手が私の右手をつかんだ。
私は、私が落ちないように手をつかんでくれた人を見て、心が温かくなった。
この人も『ユウ兄ちゃん』だった。
薄くて白いワイシャツにボタン2個空け。体重はがっしり体型の69キロ。
このユウ兄ちゃんからも、小さい時の思い出が流れ込んできた。
私とユウ兄ちゃんは1歳しか違わないのに、こっちのユウ兄ちゃんが手を引いている私は、すごく小さい。
まるで4~5歳の年の差があるように見える。
だけど熱を出した小さな私を看病してくれてる。
カオルちゃんに何となく似た、大きな男の子におんぶされてる私を笑顔で見ている。
私の記憶じゃないのに、嬉しかった。
『私・・このユウ兄ちゃんと生きていきたい』
そしたら、太ったユウ兄ちゃんが驚いた顔をしている。
そして力尽きたのか、顔を歪めたまま私の足から手を離して漆黒の中に落ちていった。
『梓、間に合って良かった』
ユウ兄ちゃんに抱き留められたところで目が覚めた。
◆
こっちは現実だ。白い天井。
病院のベッドだ。そして横には今のユウ兄ちゃんがいて、私の手をしっかり握ってくれている。
私は何か言おうとした。ユウ兄ちゃんは待っていてくれる。
「ただいま」
「お帰り」
なんで、こんな言葉が出たんだろう、そしてなんで、ユウ兄ちゃんは自然に返してくれたんだろう。
術後の経過は順調だった。
ただ、3日後にお見舞いに来てくれたクラスメイトから、いじりまくられている。
親友の渋谷カリンらクラスメイト4人が、私の病室に入ってきた。
「梓~大変だったね~~~、あ・・」
ノックもせず、みんなが病室に入ってきたとき、私は体を濡れタオルで拭いているところだった。
みんなと目が合った。
そのとき私は上半身裸で、おっぱいを拭いてもらっている。
・・ユウ兄ちゃんに。
「ようカリン、みんなもお見舞いありがと~。ほら梓、脇の下拭くから右手上げて」
「あ、いや、ちょい、ユウ兄ちゃん」
クラスの子が病室内なのに大声を出した。
「何よそれ!」
「うらやまし~」
「それ介護行為じゃなくて、エロ行為だろ~~」
みんなの大声、全開のドア。看護師さんや入院中の患者さんが集まってきた。
まだ体に満足に力が入らないから・・抵抗できない。ということにして。
「横や前は自分で拭くって言ったんだけど、ユウ兄ちゃんが・・」
「乳首、ビンビンやんけ、梓!」
特に元気なクラスメイト・ハナエが騒ぎ足した。
「私が家の階段を踏み外して足を折っても、姉ちゃんと妹に痛いかって聞かれただけだったぞ・・」
知らんがな。
とまあ、こんなこともあったけど、おおむね順調。
あの夢は何だったのか分からないけれど、このユウ兄ちゃんが助けてくれた気がする。
幸せだ。
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