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185 前世と調和が取れた世界に背筋が凍る勇太

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勇太はチャリティーコンサートが終わった次の日、早朝から走っている。

今日は午前4時からパンのウスヤを手伝って、6時から1時間、河川敷グラウンドでカオルや中学生と合流する。

今日はルナも一緒だ。


しかし・・勇太は昨日から、心の中に引っかかっているものがある。

梓のことだ。

家を出る前に寝顔を見に行った。すると大丈夫だから出かけてくれと言われた。

思考は、かなり散文的。まとまらない。なぜか明治、昭和、東京、ニューヨークとか、色々と浮かんでくる。

そうして、河川敷公園に到着してカオルと会った。そしていきなり言われた。

「勇太、梓は大丈夫か」

まさに思っていたことだった。
「うーん、何か気になるんだよな」

「今朝はきつくて、弁当作れねえってメール来たんだよ」

「え」

「気持ちだけでも嬉しいから、ありがとうって返したけど、心配でさ・・勇太を待ってたんだ」

あ・・。勇太はこのフレーズに聞き覚えがある。やっぱり前世だ。

梓が小5のとき。中3になった今川薫を好きになっていたから、色々と世話を焼いていた。

ある時は、柔道の大会に薫のためにお弁当を作ろうとした。

だけど、当時の梓は体が弱かった。前日から熱を出して断念。だけど無理やりに台所に立って笑ったあとに崩れ落ちた。

家の中が騒ぎになり、謝りの電話を勇太が代わりにかけた。

薫は試合の帰りに梓のお見舞いに来て、半泣きの梓に言った。

『気持ちだけで、十分に嬉しかったぞ。梓はいい嫁さんになれる!』


飛躍した思考が繋がった。細かいところではない。

この世界は、勇太の前世と似すぎている。

男女比が400年前に1対12まで狂ったのに、歴史上の大きなできごとは近代でも同じことが起こっている。

そして今の年号、こちらも令和。明治維新を越えて日本語も普通に使えて生活レベルまで似ている。

歴史を大きな木とすると、男女比狂いの影響で枝葉の変化はある。だけど幹になる流れは未来に行くと同じような状態にまとまっていく。

「なんて言ったっけ、予定調和? 因果律? 」

「どうしたの勇太・・」

勇太はパラレルルナを見た。親も違うのに、前世のルナとそっくりだ。カオルも薫と似ている。

「すまん、俺は今日は帰る。梓が心配だ」

「勇太」
「なに?」

「私も行く」

そうだった。前世の梓は、触れ合う時間が増えていくにつれ、5歳年上のルナに懐いていった。

そんな部分まで現世と前世で似ている。

前世の勇太が病魔に倒れ、それと入れ替わるように健康になった梓。それまでは少し運動したら疲れてルナに背中をさすってもらうことも多かった。

「そうだった。梓は痛みを隠して無理する子だった・・」

今までは嬉しかった前世との共通点だけど、今は嫌な予感に繋がっている。

「よし、行こう」
「うん」

「アタイも行く」


勇太が前の世界を去り、こちらに来るとき女神様は言った。『間違って寿命を取り替えた』

その間違って取り替えた相手は梓。代わりに勇太は前世を去った。

そこに悔いはない。

プラマイゼロ。それが調和なのだと思っていた。

しかし、梓のことで一つ忘れていた。パラレル梓は前世梓と違って健康なのだ。

子供の頃から普通に元気だったと聞いて、良かったとしか思わなかった。

それは、誤差の範囲だと思っていた。

ただ気がかりがある。

パラレル梓は高1。前世を勇太が去ったとき、妹の梓も高1だった。

考えたくないが、考えねばならない。

女神様の言い方からすれば、あの日に召されるのは妹の梓だった。

だったら『時限爆弾』がパラレル梓の体の中にも入っていて不思議ではない。


妄想だった。考えすぎだった。
あとで、そうやって笑う結果が欲しい。

たまたま、梓の具合が悪いだけ。ふたを開けてみたら、単なる風邪や疲れだった。

そんな風に思いたい。

そう願いながら、勇太は早朝の道を自宅に急ごうとした。

たまたまタクシーが通りがかり、3人で乗った。


落ち着かない勇太の背中をルナとカオルがさすってくれた。

自宅に帰ったとき、葉子が出迎えてくれた。

そして梓の部屋に飛び込んだ。

目に入ったのは、苦しそうにベッドの脇で座り込んでいる梓の姿だった。


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