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調停を終えた夜。

勇太は閉店後のリーフカフェを借りて、嘉菜の母・間門彩奈と話をしている。

彼女が勇太に会いに来た。


彩奈は昼から驚いたままだ。

『マカド』と仕事ができないようにした勇太に課した制限を取り払った。

間門側から申請して、営利目的だと後ろ指を指されることを覚悟していた。

会社がイメージダウンする前に、彩奈が対応するつもりだった。

会社社長の自分自身が謝罪と退陣。

彼女は、それが重い代償とは思わない。

勇太の今後の価値は大きい。

驚くことに、家で一番年下の娘が歌っている曲は勇太作だった。

その歌を伊集院光輝と一緒に歌って、彼に関連したレコード会社で商品化している。

敵対してはならない。

だから、自分の首を差し出すことが、最低限のけじめだと思っていた。


なのに勇太は、自分が傷付くことで火を消してくれた。

「勇太君、すみません。そしてありがとうごさいます」

「いえ、実際に1年前の俺ってクズでした。彩奈さんが下した判断は間違っていません」

「え・・」

「今回、僕から解除申請をすることが当たり前だったんです」

彩奈は、喧嘩を売るような真似をした自分に、こんなにも優しい言葉をかけてくれると思った。

そして嘉菜のことでは安心した。

これで愛娘の嘉菜の将来に大きな不安を残さず済んだ。

そこには素直に感謝している。

それでも、彼には負の称号を残してしまった。

少なくとも嘉菜は、勇太君に会うたびに負い目を感じてしまう。

もしかしたら、この形が嘉菜の恋に、大きな足かせなのかもしれない。

娘の笑顔を消したくない。

一番大切にすべき家が無傷で済んだのに、そんな贅沢を考えてしまう。


もっと分からないことがある。

助けてくれた動機。

勇太は今回の行動で得られるものがない。

少し、期待しているものがある。

調停の2日前に、彩奈は勇太から電話をもらっていた。

単純に勇太は、調停のいい落としどろがあればいいと思った。

『単刀直入に聞きます。今回の調停の持っていき方で、間門のご家族が一番傷付かない方法ってなんですか』

けれど敗者を選ぶ選択肢しか考えていなかった彩奈には、即答できなかった。

『・・大人と子供で立場が違うし、難しいわ』

『・・では質問を変えます。一番、傷付けたくない人を教えて下さい』

『嘉菜・・』

彩奈は本当はダメだと思った。だけどつい、本音が漏れてしまった。

しかし勇太は納得した。

パラレル勇太は嘉菜が次世代の間門の重要人物だということまでは調べていた。

姉妹の中で最初にチン●を武器に接近して、取り返しのつかない迷惑をかけていたかも知れない相手。

何か使命感があった。

『分かりました。嘉菜さんを守れるように、しっかり考えてみます』

『・・よろしくお願いします』

その時は、彩奈の気持ちも揺れていた。そう返事をしただけだった。


彩奈は今、それを思い出して改めて勇太に聞いた。

「今回のことは、嘉菜のためにやってくれたんですよね。なぜ、そこまで・・」

勇太は答えた。転生のことは説明できないが、パラレル勇太が原因のトラブル。自分がなんとかするべきだ。

だから、この世界のひとつのキーワードを忘れていた。ルナにも言ったやつだ。


「嘉菜さんは大切な梓の姉。嘉菜さんと付き合っている吉田真子さんも恩人です。2人のためです」

「娘達のため・・と思っていいんですね」

勇太は憑依した身体のやからしを、自分が尻拭いするという意味8割、女の子2人のため2割の気持ちで言った。

「僕がしっかり責任を取りたかったんです」

彩奈は、驚いて勇太の目を見た。

「・・嘉菜への責任。そして真子ちゃんへの責任・・。はっきりお聞きしました」

「はい」

パラレル国語辞典を開くと、用語例に必ずある。

男子から女子への『責任を取る』→プロポーズ、求婚の言葉。

まさか彩奈も、勇太がパラレル勇太を絡め、発言しているとは思わない。

彩奈はストレートに、得られるはずだった利を捨てても娘を望んでくれたと思った。

「あの、彩奈さん?」

「あ、はい。分かっています・・」

彩奈はあまりの嬉しさに、夜のリーフカフェを借りていることを忘れていた。

娘の嘉菜が吉田真子と付き合い始めて、タッグを組んで勇太との仲を縮めたとは聞いていた。

2人一緒なら、すでに愛を語る域まで入ったかと感心した。

女なんか誰でも選べる勇太が、自分の娘のために捨て身の覚悟を見せてくれた。

親として反対する理由はない。

経歴に多少の傷が付いても、自分が社長を続けて『マカド』でバックアップすればいい。

「勇太君、これからも嘉菜のこと、よろしくお願いします」

「はい」

◆◆◆

彩奈は家に帰り、嘉菜の部屋に行った。

そして単刀直入に聞いた。

「嘉菜、勇太君のことはどう思ってるの?」

「あ、いえ、あの・・間門が人工受精差別をしてるってイメージをなくすためにも・・」

「ふふ、建前じゃなくて・・」

「ど、どうしたんですか、お母さん」

「内緒。うまくいくといいわね」

「・・はい」


彩奈は嘉菜の恋が、必ず叶うと思った。


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