上 下
176 / 254

176『愛』しか理由が思い浮かばない

しおりを挟む
勇太は、パラレル勇太の責任を取るために、不名誉な称号が付く覚悟で行動をした。

梓、ルナ、カオルは勇太に惚れ直した。

過去の自分の過ちの精算、梓と異母姉妹達を傷付けないためとはいえ、危険な賭けに出た。

そうする前に、きちんと自分達に相談して謝ってくれた。

自分の未来ではなく、自分の未来の家族を心配してくれた。

それで十分だった。



十分と思っていない人が沢山いる。

いや、勇太のことが理解できないと言った方がいい。

焦点になっているのは『動機』だ。

勇太の非公式ファンクラブ員などが、早くも情報を仕入れている。

『男子絡みの調停マニア』という、前世の裁判の傍聴マニアの仲間みたいのがいる。

マニア仲間の情報網で、正確な情報をつかんでいた。調停で勝つと思っていた勇太が、優位性を捨てて負けを選んだ。

なぜ捨てた。

ここは男女比1対12の世界。

『マカド』相手に今回の案件。勇太は慰謝料を請求すれば三桁万円の後半は軽くもらえた。

人気男子を弾いたことへのマイナスイメージを回復せねばならない。
その誠意も示したことを金銭で上乗せすれば、四桁万円も楽勝だっただろう。

それを捨て、勇太は不名誉な調停の負け履歴まで付けた。

何かを守ったはずだ。

妻の梓と間門家の異母姉妹達との絆?

人気の男子が、あえてリスクを背負うには動機として弱い。

得られるものがなさすぎる。


勇太はパラレル勇太のけじめを付けた。彼の中では重いものだが、誰もそんなことは知らない。

すると、ひとつの可能性が浮かび上がった。

この世界の女子からしたら、まさかの理由すぎた。

◆◆
11月11日、月曜日。

◇以下、吉田真子主観◇

調停の前の日、勇太君には電話をもらっていました。

「調停の場で少し予定になかったことをやる。驚いて嘉菜さんが何か言おうとしたら、止めてほしいんだ」

「何をやるの?」

好きになった男子の真剣な声。息を飲みました。

「内容は言えない」
「それって・・」


「しっかり自分の責任を取って、ただ委員長や嘉菜さんを守りたい」

ドキッとしました。せ、責任?

私を守るって・・いや、嘉菜さんもだけど、どういう意味で・・

混乱したけど承諾しました。もちろん嘉菜さんには内緒にしました。

調停当日、勇太君が何を言い出しても大丈夫なように身構えていました。

けれど結果として、私の読みは甘かったです。

予想では、間門側から解除申請されたあと、勇太君が何かを提示すると思っていました。

例えば人気が出そうな歌を無償提供するとか。そうやって遺恨がないことを示すかと思っていました。

社長・彩奈さんの秘書をやってるミユキ母さんとも話しました。

『マカド』の企業ダメージは瞬間的に大きいけど、勇太君が敵意がないことを示してくれれば、回復も早い。

そこが限界かと思っていました。

けれど、ふたを開けてみたら、彼は自分だけが傷を負うことを選びました。

本当に驚きました。事前に何かすると聞いていたから、ギリギリで対応できました。


今朝も学校で理由を聞きましたが、過去の清算としか言ってくれませんでした。

嘉菜さんとも話しました。

意見が一致しました。

やっぱり、私達には理由がひとつだけしか思い浮かびません。

調停の前から、嘉菜さんと2人で勇太君に会いに行くと、以前より柔らかな笑顔を見せてくれるようになっていました。

そして、責任とは・・何に対しての・・。まさかの・・

けれど、あの捨て身の行動から理解しろと、いうことだとしたら・・

それが、あまりにもおこがましいというか、私ごときが口に出していい言葉ではありません。

期待と、それを勘違いだと否定する心。

気持ちが高揚したまま、きょうもパラ高2年3組で授業を受けています。

月曜日なのに、伊集院君が登校しています。勇太君が心配で来ました。

放課後、勇太君がルナさんと部活に行きました。

伊集院君のところにクラスメイトと一緒に集まりました。

嘉菜さんも自分の学校を早めに出て、2年3組に入ってきました。


伊集院君から笑顔が消え真剣な面持ち。

「真子君、嘉菜君、経緯を聞かせて欲しい」

そうです、彼も勇太君の行動が理解できないのです。

彼も勇太君に電話をしたけど、私と同じことを言われたそうです。

やっとできた、普通に話せる同性の友達。大切にしているのです。

・・・・

「そうなんだ真子君、嘉菜君。間門さんの方からは、勇太君に対して誠意を見せようとしたんだね」

「はい。慰謝料も用意していました」

「そうなの伊集院君。大っぴらには言えないけど、勇太君に迷惑をかけないことになってたの」

「・・そこをあえて、勇太君が負けを選んだか」

伊集院君の表情が、ふいに緩みました。そして私と目を合わせました。

私はドキッとしました。いえ、伊集院君に対してときめいた訳でなく、考えを読まれた気がしたのです。

「今回の結果で勇太君と彼のファミリーは何かしら損する。間門家の大人たちは心に傷を残した。それでも勇太君は守るべきものを守ったよね」

ドキドキしています。

「ふふ、真子君、もう答えは出ているんだね」


「け、けど、そんなことのために・・」

「それしか思い付かない。今回のポイントは、真子君と嘉菜君も付き合い始めたこと。勇太君に取って大切な2人が間門側にいた。そこから導き出される結論は・・」

心の中で、伊集院君やめて~~と叫ぶ自分。むっちゃ期待してる自分がいます。


「真子君と嘉菜君への『愛』しか思い付かない」

あ、伊集院がドヤ顔だ。

嘉菜さんが、口を手で押さえて涙ぐんでいます。

きゃ~、きゃ~、きゃ~とクラスメイトが声を上げて、気が早い祝福をくれました。

伊集院君が肯定してくれた。

私の勘違いじゃなかったんだ。

◇◇

思い切り勘違いである。

しかし勇太の外堀は埋まっていくし、勇太も嘉菜からの好意を自覚した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...