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172 パラレル勇太のやらかしだから、俺が責任を取るべき

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勇太は間門との約束を破った。


11月4日、祭日の月曜日。パラレル南体育館横にある、家庭裁判所の調停室を借りた。

間門家から、最低人間だったパラレル勇太に課した制限を解除するための、話合いの場が持たれた。

建前は、両者のいがみ合いが続くと第三者に経済的な被害が及ぶから。

その第三者代表役の柔道連盟の鬼塚一子が、両者に和解するように申し立てた。

勇太は、間門家には4年前から警戒されていた。

厳密にはパラレル勇太だが、1年前には法的効力がある制限を幾つか付けられた。


今回は、仕掛けた間門側から勇太と柔道連盟等に謝罪し、解除を求める。

これにより間門の大人達は、営利目的で勇太と復縁を求めたレッテルを張られる。

第三者からの申請だから、男子保護局からの取り調べだけは緩くなる程度。

間門陽介はじめ、間門の大人は運営する会社のマイナスイメージがあることは覚悟している。

試算では、1年間は売り上げ10パーセント以上減の恐れがある。

だけど勇太との確執は、伊集院家との確執に繋がる。子供の代の負の遺産になる可能性も高い。

誰より、家を継ぐために努力を続ける嘉菜を悲しませる。

その彼女になってくれた吉田真子まで苦しめる。

家族に内緒で、家の実権を握る間門彩奈は全責任を負って遠くに消える気でいる。


家を代表して陽介が謝罪と解除要請をしようとすると、意外なことが起こった。


勇太が暴走した。


「あの・・僕の音楽活動が、間門さんと和解できないと阻害されます。4年前に原因作ったことは謝りますから、解除の方向でお願いします」

家庭裁判所の調停員、男子保護局員ら、本当に中立の人間はメモを取ったりしている。

各陣営の弁護士は、鬼塚一子から聞いたクレームと内容が違うと思ったが、権利や金銭の取り合いが絡む問題。

予定外のことは常に起こっている。

勇太は続ける。

「正直、僕もここで間門さんにダメ出しされたら厳しいんです。申し訳ないけど、何とかしてもらえませんか」


自分に非があると勇太が認めた。

調停員の質問、男子保護局からの質問にも、勇太が反省の言葉を口にしている。

この世界で今回のケースは小規模で特殊な裁判のようなもの。

調停室に当事者が入った時点では、役割が定まっていない。

今回はロックされた勇太の権利の解除申請を行った方が犯人の立場。すなわち被告人になる。

受ける側が絶対的に有利な、原告となる。

勝訴確実だった勇太が、わざわざ自分から犯人となった。

事前の打ち合わせと、180度反対方向を向いてしまった。

だから間門陽介、彩奈、嘉奈、そして鬼塚一子は、本当に驚いている。

なぜ勇太が悪者になるのだろうかと。

驚いた嘉菜が、許されていないのに声を出そうとしたが、吉田真子が手をつかんで黙らせた。

真子はなにかを知っている。

制限をかけられた勇太から謝って解除を申し出る。これは過去の非を認めることになる。

思わず、間門陽介、彩奈が次々と口を開こうとして、自分の弁護士に止められた。

弁護士の役割上、自分の雇い主に追い風が吹き始めたのに、止める通りはない。

そもそも最初にパラレル勇太が、問題ある人格として制限をかけたのは間門側。

非を認めたということは、『容疑者』となった勇太が犯人ですと、白状したようなもの。

なので間門家の1年前の制限強化が正当なものであると認められた。

極論でいくと、間門が勇太を犯人だ、と訴えた。勇太が公的な場所で、そうです私が犯人ですと明言した。

めだたし、めでたし、なのである。

陽介、彩奈の間門夫妻が青ざめている。間門夫妻は跡取り娘の思い人の経歴に傷を付けることになる。

撤回しようにも、もう大筋は覆らない。

今回は裁判的な効力を持つ調停で勇太が負けを認めた。

なので前世なら軽犯罪1回くらいの記録が経歴に付いてしまう。

本来は重婚法から派生した、危険人物をシャットアウトできる制度。

その流れで、調停で白黒つけた場合、非があった方に『調停履歴あり』という要注意人物マークが付く。

家庭裁判所のホームページで検索すると、誰でも内容が分かる。

こうすれば、結婚しようとする相手が危険人物の可能性がありますよ、大丈夫ですかの注意喚起になる。

『人格、人間関係等に問題があった坂元勇太が、間門家の正当な理由により権利を制限されていた』

それを認めた。

和解金、慰謝料が発生したときは勇太が払う。

間門側から解除申請をさせれば、精神的苦痛を理由に慰謝料を取れた。

勇太は、ハイリスク・ノーリターン以下の道を選んだ。

誰もが馬鹿だと言うだろう。


けれど、勇太は転生直後に決めたことがある。

パラレル勇太のやらかしの責任は、自分が取ると。

パラ高では謝罪で済んだけど、大きなトラブルも覚悟していた。

今がその時だと思った。
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