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164 人工受精で社会の認識が変わる◇間門彩奈◇
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我慢モードに入った嘉菜が、家に関する資料を置いてある部屋で声を殺して泣いている。
嘉菜を探しにきた実母彩奈は、小さな嗚咽を聞いている。
◇以下、間門彩奈◇
嘉菜は我慢を続けてきた子だ。父親の膝の上に始まり、姉妹に多くのものを譲ってきた。
「優しいお父さんと同居していること自体が、恵まれているんですよ」
姉2人が習っていたピアノに興味があったのに、時間が取られる趣味は我慢した。
学校の成績維持しながら、経営の勉強。努力を続け、充実していると言いながら表情が消えていった。
全ては家のため。
なのに、その娘の初めてのお願いを1年前の大人の独断で潰してしまっていた。
なぜ、こんなことになってしまったのだろう・・
ある理由から娘達と男子との縁談がないのに、葉子の娘が簡単に男子を手に入れたようで、悔しくもあった。
それもあって4年前、勇太に会いに行った。
別居していても、葉子とは陽介さんを介した妻同士。その家に男子を養子に入れたいと相談があった。
陽介さんだけでなく私個人にも連絡をくれた。一応は葉子も義理を果たしてくれた。
陽介さんと一緒に、私と香里奈が妻代表として坂元家を訪ねた。
勇太は実母を亡くしたと聞いていた。励ましの意味も込めて、幾らかの金銭も包んだ。
礼は尽くしたつもりだ。なのに希少な男子とはいえ、こちらを薄目で見て悪態をついた。
初対面の印象は最悪。
そのときに調査したら、評判は最低だった。1年前に再調査を行ったら尚悪くなっていた。
金に汚く女性を金を引っ張る道具くらいにしか思っていないことも知った。
自分だけブランド物の服を着て、世話をしてくれる葉子と梓が質素になっているというではないか。
勇太をクズと決めつけた。
妻10人で話し合った。
勇太が知恵を付けて、間門家の娘に何かされたら後悔する。なにせ陽介さんの娘は、26人もいる。
別居妻の娘6人に害はないと思ったけれど、同居妻10人の娘20人に害が及ぶことが怖かった。
大学に入って一人暮らしを始めた娘4人も、男子と交際したことがないと言っていた。
そこを勇太に狙われたら、何が起こるか分からないと思った。
勇太も希少な男子だ。
すでに手続きしてあった相互財産放棄では危険だと思えた。勇太に対して『マカド』と利益のやり取りができないように制約を強めた。
あれから1年近く、坂元勇太の名前を再び今年6月に聞いた。まさかと思い、他の妻達とネット映像をチラリと見た。
普通体型の爽やかな笑顔。
あの腐った目をしたデブとは別人だった。
同姓同名の別人だと思って安心した。
その頃は間門の大人達が多忙だった。『マカド』の欧州初展開のことで社長の私のチームが動いていた。
一方、香里奈のチームと陽介さんは、東南アジアに対応していた。政権交代した国があり、男子の陽介さんが顔繋ぎに出向いていた。
相手の大臣に気に入られている・・
家の大人達は4月から国内外で大忙しだった。
9月末に落ち着いた。
久々に『坂元勇太』の名前を耳にして検索したら、同時に『坂元梓』の名前が浮かんだ。
まさかと思って調べ直した。人気のエロカワ男子は、あのゲス男と同一人物だった。
私は目が曇っていた。
勇太に、この1年間で、あそこまで変わる要素があったことを見抜けなかった。
娘の涙の原因は間門の大人達ではない。
私だ。
嘉菜のことで動くが、一緒に解決したい問題も浮かんだ。
ちょうど、会社幹部のイメージを変える時だと、陽介さんや他の妻達と話している時期だった。
勇太との復縁要請のことを考えると頭が痛い。
けれど勇太が有名になっていく。現状維持は会社のマイナスにもつながる。
勇太と揉めることは、あの伊集院光輝の後ろ楯と敵対する可能性もある。
子供の代に持ち越させる訳にはいかない。
坂元勇太のことで最終決断を下したのは私自身。
見誤った自分が勇太のことで責任を取る。私財を差し出してもいい。それでもダメなら会社を辞めて許しを乞う。
私のところで食い止める。
私ひとりと引き換えに会社や家族の懸念材料を取り払えれば、お釣りがくる。
貴族風な血筋の存続。これが会社のマイナスになり始めている。
存続自体には問題ない。
そこにこだわる親戚が問題なのだ。間門の女達ではなく、女達の本家の女ども。
家を傾けた無能の集まりのくせにうるさい。
だけど実際に、陽介さんと間門の同居妻の出自は由緒ある家。
それを親族がアピールする。奴らを会社に関わらせてないのにうるさい。
社会の常識は変わった。実質的に会社を回している私と香里奈が肌で感じている。
会社、取引先の有望な人間に人工受精生まれが増えてきた。
令和5年の人工受精出生率が84パーセント。会社の面接に来た来年の新卒学生は、人工受精率が半分まで増えた。
また、ライバル社のひとつが勝手に衰退しているけど人工受精のことが引き金。
両親が明確かどうかで社員に優劣を付けたオバハン社長が、人工受精生まれの社員にモラハラで訴えられた。
人工受精で生まれた人間と家族は、そこの商品を避けている。
また、いまだに娘達に男性婚約者がいないことで、私の姉が陽介さんを嘲笑った。
それから陽介さんは、娘に婚約者がいないのは自分のせいだと思っている。
胸が痛かった。
嘉菜と勇太のことがある前に、間門は人工受精生まれに偏見がない。
それをアピールをすべきだと夫婦11人で話してきた。
本家が口を出してきたら、金銭的援助を切るだけだ。
人工受精差別をして代々の取引先から手を切られている奴らなんて先はない。
姉にも腹が立つ。援助は減らすし、それをゼロにしてもいい。
他の嫁も、自分の実家に対して同じ方針だ。
初めて見せた嘉菜の屈託ない笑顔。我慢しようとして歪んだ泣き顔まで見せられた。
翌朝、私は可愛い嘉菜に何とかすると約束した。
個人のことは断られた。だけど嘉菜のために勝手に動く。
陽介さんを通じて葉子に話を聞くと勇太は、間門家と坂元家のことを気にしておらず、ヘイトはないとだけ確認した。
そこから2週間、坂元家の3人に間門家に招待する前に、下準備も整った。
嘉菜を探しにきた実母彩奈は、小さな嗚咽を聞いている。
◇以下、間門彩奈◇
嘉菜は我慢を続けてきた子だ。父親の膝の上に始まり、姉妹に多くのものを譲ってきた。
「優しいお父さんと同居していること自体が、恵まれているんですよ」
姉2人が習っていたピアノに興味があったのに、時間が取られる趣味は我慢した。
学校の成績維持しながら、経営の勉強。努力を続け、充実していると言いながら表情が消えていった。
全ては家のため。
なのに、その娘の初めてのお願いを1年前の大人の独断で潰してしまっていた。
なぜ、こんなことになってしまったのだろう・・
ある理由から娘達と男子との縁談がないのに、葉子の娘が簡単に男子を手に入れたようで、悔しくもあった。
それもあって4年前、勇太に会いに行った。
別居していても、葉子とは陽介さんを介した妻同士。その家に男子を養子に入れたいと相談があった。
陽介さんだけでなく私個人にも連絡をくれた。一応は葉子も義理を果たしてくれた。
陽介さんと一緒に、私と香里奈が妻代表として坂元家を訪ねた。
勇太は実母を亡くしたと聞いていた。励ましの意味も込めて、幾らかの金銭も包んだ。
礼は尽くしたつもりだ。なのに希少な男子とはいえ、こちらを薄目で見て悪態をついた。
初対面の印象は最悪。
そのときに調査したら、評判は最低だった。1年前に再調査を行ったら尚悪くなっていた。
金に汚く女性を金を引っ張る道具くらいにしか思っていないことも知った。
自分だけブランド物の服を着て、世話をしてくれる葉子と梓が質素になっているというではないか。
勇太をクズと決めつけた。
妻10人で話し合った。
勇太が知恵を付けて、間門家の娘に何かされたら後悔する。なにせ陽介さんの娘は、26人もいる。
別居妻の娘6人に害はないと思ったけれど、同居妻10人の娘20人に害が及ぶことが怖かった。
大学に入って一人暮らしを始めた娘4人も、男子と交際したことがないと言っていた。
そこを勇太に狙われたら、何が起こるか分からないと思った。
勇太も希少な男子だ。
すでに手続きしてあった相互財産放棄では危険だと思えた。勇太に対して『マカド』と利益のやり取りができないように制約を強めた。
あれから1年近く、坂元勇太の名前を再び今年6月に聞いた。まさかと思い、他の妻達とネット映像をチラリと見た。
普通体型の爽やかな笑顔。
あの腐った目をしたデブとは別人だった。
同姓同名の別人だと思って安心した。
その頃は間門の大人達が多忙だった。『マカド』の欧州初展開のことで社長の私のチームが動いていた。
一方、香里奈のチームと陽介さんは、東南アジアに対応していた。政権交代した国があり、男子の陽介さんが顔繋ぎに出向いていた。
相手の大臣に気に入られている・・
家の大人達は4月から国内外で大忙しだった。
9月末に落ち着いた。
久々に『坂元勇太』の名前を耳にして検索したら、同時に『坂元梓』の名前が浮かんだ。
まさかと思って調べ直した。人気のエロカワ男子は、あのゲス男と同一人物だった。
私は目が曇っていた。
勇太に、この1年間で、あそこまで変わる要素があったことを見抜けなかった。
娘の涙の原因は間門の大人達ではない。
私だ。
嘉菜のことで動くが、一緒に解決したい問題も浮かんだ。
ちょうど、会社幹部のイメージを変える時だと、陽介さんや他の妻達と話している時期だった。
勇太との復縁要請のことを考えると頭が痛い。
けれど勇太が有名になっていく。現状維持は会社のマイナスにもつながる。
勇太と揉めることは、あの伊集院光輝の後ろ楯と敵対する可能性もある。
子供の代に持ち越させる訳にはいかない。
坂元勇太のことで最終決断を下したのは私自身。
見誤った自分が勇太のことで責任を取る。私財を差し出してもいい。それでもダメなら会社を辞めて許しを乞う。
私のところで食い止める。
私ひとりと引き換えに会社や家族の懸念材料を取り払えれば、お釣りがくる。
貴族風な血筋の存続。これが会社のマイナスになり始めている。
存続自体には問題ない。
そこにこだわる親戚が問題なのだ。間門の女達ではなく、女達の本家の女ども。
家を傾けた無能の集まりのくせにうるさい。
だけど実際に、陽介さんと間門の同居妻の出自は由緒ある家。
それを親族がアピールする。奴らを会社に関わらせてないのにうるさい。
社会の常識は変わった。実質的に会社を回している私と香里奈が肌で感じている。
会社、取引先の有望な人間に人工受精生まれが増えてきた。
令和5年の人工受精出生率が84パーセント。会社の面接に来た来年の新卒学生は、人工受精率が半分まで増えた。
また、ライバル社のひとつが勝手に衰退しているけど人工受精のことが引き金。
両親が明確かどうかで社員に優劣を付けたオバハン社長が、人工受精生まれの社員にモラハラで訴えられた。
人工受精で生まれた人間と家族は、そこの商品を避けている。
また、いまだに娘達に男性婚約者がいないことで、私の姉が陽介さんを嘲笑った。
それから陽介さんは、娘に婚約者がいないのは自分のせいだと思っている。
胸が痛かった。
嘉菜と勇太のことがある前に、間門は人工受精生まれに偏見がない。
それをアピールをすべきだと夫婦11人で話してきた。
本家が口を出してきたら、金銭的援助を切るだけだ。
人工受精差別をして代々の取引先から手を切られている奴らなんて先はない。
姉にも腹が立つ。援助は減らすし、それをゼロにしてもいい。
他の嫁も、自分の実家に対して同じ方針だ。
初めて見せた嘉菜の屈託ない笑顔。我慢しようとして歪んだ泣き顔まで見せられた。
翌朝、私は可愛い嘉菜に何とかすると約束した。
個人のことは断られた。だけど嘉菜のために勝手に動く。
陽介さんを通じて葉子に話を聞くと勇太は、間門家と坂元家のことを気にしておらず、ヘイトはないとだけ確認した。
そこから2週間、坂元家の3人に間門家に招待する前に、下準備も整った。
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