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168 純情乙女と肉食乙女

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肉食女子だらけのパラレル世界産とは思えない、純情派の間門嘉菜。

途切れると思った勇太、異母妹・梓との縁ができて、ご機嫌である。

法的な縁は結び直せていないけど、切れた縁をつなぎ直してくれている父と母親達が確約してくれた。

母・彩奈も覚悟を悟らせないように、最近はいつも微笑んでいる。

だから嘉菜は以前と同じく、家の会社を継ぐための勉学に集中できる。

仕事と家が絡むときは隙も妥協もない。

勇太との結婚を狙うのも家のイメージを良くするため。という名目。

ぼそっ。「本当は、会社とか家抜きで、勇太さんと会いたいんですけどね・・うふふ」

真空パックで保存した、勇太からもらったゴブリンパンに呼びかけた。

やっぱり、乙女なのである。肉食ではない、純粋な乙女。

この世界では希少種とも呼ばれる。

◆◆◆
勇太が間門家を訪れて4日が過ぎた。10月29日の火曜日。

「はあ~~、私ってなんなんでしょう••」
パラレル中央図書館に向かって歩きながら、大きなため息をつく嘉菜がいる。

来たるべき日に備えて、勇太との仲を深めようと思った。週末もパラレル市の図書館に行って、休憩のとき歩いて10分のリーフカフェを訪れた。

自分専用の車もある。免許は16歳で取っている。

ちなみにこの世界、高校生で妊娠しても復学可能だが、退学する人間もいる。
若い子育て世代から要望が殺到して、自動車免許の取得可能年齢が18歳から16歳まで引き下げられた。

嘉菜は仕事のことを考えて、早めに免許を取った。

なので自宅からパラレル市までの20キロの距離は問題にならない。

最近は時に頭の回路が誤作動するけど、本来の嘉菜はハイスペック女子。

土曜日は朝から会社関連の倉庫直行。その後、自社で展開している店舗で店長と意見を交わしてから図書館に行った。

英語と近代経済史を勉強したあと、お昼を食べにリーフカフェに行った。

勇太がいた。

まともにしゃべれなかった。

以上。


自分でも、あの決意は何だったのだろうと思った。

前の日にハグを頼んだとき、思った以上にたくましい腕に驚いた。本人を目の前にして緊張した。

「よし、明日はリベンジですね」

日曜日? まったく同じ結果。

月曜日のカフェ定休日をはさんだ火曜日の夕方。学校が終わって図書館で調べものをしたあと、懲りずにリーフカフェに行ってみた。

「あ、嘉菜さーん」
「あ、こ、こんにちは勇太さん」

勇太がいた。梓、ルナ、カオルの嫁トリオもいた。梓はバイトのシフトに入っていて、ルナとカオルが相手をしてくれた。

嘉菜は勇太の親戚と名乗れない。これは意外と足かせだった。

梓とは異母姉妹。これは名乗ってもいい。けれど、それを人前でアピールすると、自動的に梓の夫の勇太も親戚だと周囲に知らせることになる。

これが間門側が勇太に課した制限にひっかかる。当然、逆もしかり。

勇太の顔を見るたびに、そういうことが頭の中を巡ってしまう。ただでさえ緊張しているから、まともに会話にならない。

『重婚による権利行使、権利放棄、そのリスク』を以前に学んだ。便利な制度だと思ったけれど、当事者になるときついものがある。

優しい梓がルナ、カオルに事情を話してくれている。女同士はトレーニングウエアなど間門の会社で扱う商品の話で弾んだ。

だけど、勇太に制限をかけたままの間門の人間は、勇太と音楽、服飾と商売が絡む話ができない。

好きな音楽の話など制約に引っかからない。失言しても誰が告発する訳でもない。

だけど弁護士を立てて作った制約書の中身を読み尽くした嘉菜は、重くとらえている。

根が真面目すぎる。

軽い口調で勇太に話しかけるお姉さんを羨ましく思いながらみてるだけ。

今日、火曜日も勇太と進展なくカフェを出た。勇太の嫁達と仲良くなれたからよしとしようと、自分に言い聞かせた。

夕方6時。外は薄暗い。

車を停めてある図書館の駐車場に向かっていると、嘉菜は閉館間近の図書館ロビーで佇んでいる女子に気が付いた。

吉田真子だ。

「はああ~~~」
なぜかため息をついている。

恋する純情乙女・嘉菜は、恋する肉食乙女・真子を一方的に知っている。

勇太関連のネット映像で、最近は必ず出てくる。勇太の4番目の嫁候補と噂されている。勇太と同じパラ高2年3組。勇太と親しい。

伊集院君に「僕と勇太君ならどっちがいい?」とアプローチされる場面が何度もネットで流れている。

伊集院君は、仕事の関連で嘉菜も会ったことがある。ハンサムで笑顔が眩しすぎた覚えがある。

ネット民の真子の評価はすごい。勇太と親密な上、あの伊集院君をキープ程度でとどめている魔性の女。称賛、ヘイトを同時に集めている。

伊集院君は、勇太に真子を意識させるために言っているだけ。
見事な誤報だけど、嘉菜は信じている。

「あ、あの吉田真子さんですよね」
「?」

嘉菜は思い切って、真子に声をかけた。

恋が1日に1ミクロンくらいしか進展していないのに、勇太の嫁になる気は満々。だからいずれは嫁同士となる真子にアドバイスをもらおうと考えた。

柔道アイドル不知火マイコ並みに、恋愛脳が暴走している。

「あ、リーフカフェで日曜日もいた人ですよね」
「はい、いました。間門嘉菜と申します。お時間よろしいでしょうか」

目を合わせた瞬間に、2人は思った。


『あ、この人、自分と同じ匂いがする』


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