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167 『女棒』『男棒』

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間門の女達の心配をよそに、勇太&梓と陽介の娘達は仲良くなった。

勇太達が帰る時間が近づき、年頃の娘12人にすごく惜しまれた。

ご飯を食べて、嘉菜のリクエストで1曲だけ歌ったら、勇太は暑くなって上着を脱いだ。

薄い半袖シャツ1枚のボタン2個空け。

女子達の目は勇太の胸元に釘付けだ。

「嘉菜さん、また会いましょう」
「は、はい。必ず会いに行きます。いい?梓ちゃん」

「いつでも来て下さい」

別れ際、嘉菜は海軍カフェでやりそこねたハグを勇太に求めた。勇太はあっさり応じてくれた。

他の娘達もお願いしたかったが、今日の影の主役は嘉菜だから遠慮するしかなかった。


やはり嘉菜の顔を見た梓が言った。
「・・これ、ホントにヤバい」

◆◆

みんなで連絡先を交換して、間門家を辞した。

法律的な勇太の『制限解除』なと問題は残っている。

だけど陽介も彩奈も、ものすごく安心した顔で見送ってくれた。

勇太は、彩奈の4年前とは違いすぎる菩薩のような笑顔が少し気になった。


帰りの車中、勇太は疑問が沸いていた。

間門家の、あまりにも丁寧な自分の扱いについて。

伊集院君に聞いて予備知識もある。血筋、お金の両方がある家は娘達と男子の婚姻を結びたがる。

伊集院君の同性代の従姉妹5人は、10歳から男子とお見合いをして婚約者の有無に関わらず男子に慣れていると聞いた。

だから、該当しそうな間門家の娘達も場数を踏んでいると思った。

そう思っていたのに、勇太は自分程度を前にして緊張していた気がした。

「う~ん?」
「どうしたのユウ兄ちゃん」

「なんか、嘉菜さんをはじめ、あの家の女の子って男子慣れしてないっていうか・・」

「私も思った。お金がある家の女の子って、男子を取り込もうとするって聞くよね」

2人が不思議がっていると、葉子がヒントをくれた。

「あのね、陽介さんが『女棒』って言われて悩んでるらしいの」

「あちゃ~、陽介パパって女棒だったのか~」

「女棒?」

「あれ、ユウ兄ちゃん知らないの?」

梓は簡単に分かって、勇太は分からなかった。

「・・うん、教えて」

「女棒。棒はペ●スのこと。要するに、女ばっかり生ませる男子のことを指すんだよ。ね、お母さん」

「うん。陽介さんのチ●ポって反り返って立派なんだけどね・・」
「ユウ兄ちゃんのも、立派だよ」
「へえ~~、さすが」

久々に梓と葉子の口から生々しい言葉が出てきた。

勇太が運転していたら、ハンドルを取られていただろう。


勇太は、女の子ばっかでもいいやん、と思ったがそこが問題らしい。

梓の父・陽介には全部で26人の子供がいる。

だけど全員が女。

男女比1対12でも確率としては2人は男の子が生まれていていい。けれどゼロ。

徹底して女を作っちゃう●ニス。これが『女棒』

人工維持に不都合はないけど、血族の存続を大切にする家には一大事。

2世代に1人くらいは直系男子がいないと、『由緒ある血』が増やしにくくなる。

だから江戸時代から、『女棒』の子は、武家・貴族社会では価値が落ちるとされてきた。

『女棒』由来の子が男児を生んだ例も普通にある。陽介も精子提供をしているから、知らない場所で男児が生まれているかもしれない。

現代では、根拠がなく信憑性は低いとされている。

けれども迷信めいたものがまかり通る元貴族社会。さすがに陽介のように26人連続で女子を作ると目立ってしまった。

色んな事情が重なり、血筋がいい家で男子を持つ親は、陽介の子とはお見合いをさせないのだ。

一般男子は『女棒』の家の子をもらうとか関係ない。

元カノから考えても、彩奈自身に血のこだわりはない。

以前、こっそり部下の息子に間門家の印象を聞いもらった。反応次第では、娘と会わせたいと思った。

その高2男子には、ダメ出しされた。

長く続く家系を指して「俺の彼女達の半分が人工受精生まれだから、それを下に見そうな家の女は嫌だ」と断られた。

妻達全員、陽介との出会いはお見合い。普通恋愛のやり方を知らない。

昨年は陽介が、彩奈の本家の人間に女棒が親戚にいるとイメージが悪いと難癖を付けられた。

最近の陽介は、子供達に縁談がないことは自分の『女棒』せいだと漏らすようになった。

梓の結婚は嬉しけど、自分を気遣う同居妻のことを考えると、祝いにいくのがためらわれたそうだ。

それが遅れた言い訳。

仕事絡み以上に陽介のケアのことがあり、彩奈だけでなく、間門家の親世代は考え方を軟化させたそうだ。

妻達は陽介を苦しめるくらいなら、自由恋愛を娘達に勧めている。

嘉菜は努力家で根が優しい。

だから母親も、絶縁状態の相手に手のひら返しをしてまで、勇太との縁を繋ぐ協力をした。

問題は勇太が、相手がそこまで考えて動いていると思っていないことだ。

「梓」
「ん?」

「梓と嘉菜さん達が疎遠だったのは俺のせいだ。俺が拒絶されたままでも、梓と姉妹だけは仲良くできるように努力するからね」

「あ、うん」

あまり嘉菜の思いが伝わっていない勇太。

梓は吉田真子のときと同様に、嘉菜も前途多難そうだなと感じている。


「女棒」があれば「男棒」もある。

そのひとりが、昭和のハーレム野郎・原山良作72歳だ。

妻16人。子供が40人いるが、息子は7人。孫やひ孫も会わせた子孫の男女比は1対6となる。

これは立派な『男棒』。男女比1対12世界では称賛されるペニ●持ちである。

だから、良作も嫁も名家の出なんていないのに、格式がある家の四女、五女あたりとの縁談話が後を断たない。

良作の最初の子は男子。その子が結婚してできた最初の子、良作の初孫も男子。これもインパクトがあった。

今日も良作は、縁談を持ってきた人間に怒鳴っている。

「あいつらの結婚は、あいつらのモンだ。本人に来させろ。外野が強要するんなら、俺は家族と一緒に戦うぞ」

ブレない。



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