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160 パラレル世界の男だって娘が可愛い

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勇太が梓との婚姻報告を梓の父・間門陽介するため、間門の家に出向いた。勇太の義母の葉子も一緒だ。

パラレル勇太が陽介の同居の妻10人から総スカンを食らっていた。

だから勇太は考えていた。

形式上の挨拶だけして、場合によっては陽介だけ外に連れ出して食事でもするかと。

なのに、陽介の妻全員が歓迎ムードっぽい。

そして12~21歳の娘12人がワンピース、スーツと、とにかく高そうな服を着ている。


「いらっしゃい、久しぶりね勇太君」

「お久しぶりです彩奈さん。その節は過分な金銭まで頂いたのに、礼を欠く真似をして申し訳ありませんでした」

背筋を伸ばしたあと、深々と頭を下げた勇太。構えていた陽介の第一夫人・彩奈40歳が驚いた。

「・・いえ、こちらもその後は態度を硬化させ、色々な義理を欠いてしまいました。なのに本日はご足労ありがとうごさいます」

彩奈は目元がきついが細面の美形だ。

この人が第二夫人の香里奈さん43歳と会社を回し、31人家族の稼ぎ頭となっている。

葉子の話でも、自分も含めてあらゆるものに厳しい眼を向ける人。

陽介にだけベタ惚れ、というのが特徴。実子は娘1人。

「勇太さん、お越しくださいましてありがとうございます。嘉菜と申します」

「こんばんは・・あれ、カナさん」

勇太は顔も名前も知っている。リーフカフェに最近来てくれる。

聞かなくても嘉菜は彩奈の娘と分かる160センチのスレンダー美人。

何度か会話を交わしているのに、すごく緊張した顔だ。ちょっと疑問。

「初めまして、勇太お兄ちゃん、梓お姉ちゃん」
「梓ちゃん初めましてー」
「梓さん、これからよろしくね」

いくら勇太や梓が最近は目立ってるとはいえ、熱烈な歓迎ぶりだ。

「お上がり下さい葉子さん。梓ちゃん」
「え、あの・・今日は一体・・」

「葉子さん、少し込み入った話をよろしいでしょうか」
「・・はい」

葉子は夫人達、梓は子供達に促され家に入った。

色んなパターンを考えていた。

父陽介だけ娘の結婚歓迎で、嫁全員の塩対応とか、何通りも。

だけど、これだけは考えていなかった。家族総出の歓迎ぶり。

まず、驚く葉子と梓が屋敷の奥に連れられていった。

取り残された陽介と勇太。というか、意図的に男子2人にさせられた。


陽介が苦笑いで口を開いた。

「すまんな勇太君、家の女達が一方的で・・」
「ははは、みなさんお元気で」

「こんな門の前だけど、ちょっといいかな」
「あ、はい」

「今の君となら話できそうだね」
「あはは、お会いしてなかった4年間で、僕も多少は変わりましたかね」

「葉子のカフェの手伝いとか、音楽活動、色々と聞いてるよ」

「はい。心を入れ替えましたから」

「うんうん。実は、跡継ぎ娘の嘉菜のために、勇太君に来てもらった。手のひら返しみたいで申し訳ない」

「・・?」


ぶっちゃけ、勇太と間門家の付き合いに法的制限をかけたママ達が、娘達に怒られた。

で、陽介が葉子に頼んで勇太を連れてきてもらった。

身も蓋もない話だ。

勇太は陽介さんと葉子義母さんに籍が入ってるから、疎遠になったくらい問題ないでしょ。これからでも、仲良くすればいいじゃないですかと言ってしまった。

陽介は苦笑いしている。

勇太は勘違いしている。パラレル勇太も勉強不足だから、記憶の中にも手がかりはない。

『疎遠』でなく法的な『制限』なのだ。

これが間門の娘達の逆鱗に触れた。


時間を9月3日まで遡る。

第一夫人・彩奈の娘・嘉菜が勇太のファンになった。

歌のユニット純子&風花を結成した日。勇太も入れて3人でパラレル市内の公園でゲリラライブをした。

高3の嘉菜は学業、跡を継ぐための勉強と多忙な中、息抜きしようと友人に誘われパラレル市に来た。

そして偶然にライブに遭遇。

その時は友人に聞いて『あ、彼が噂のエロカワ男子なんですね』くらいの感じ。

そこで、わずか3メートルの距離で勇太の生歌を聞いてしまった。

勇太は前世の家族への想いを、女神印の響く声に乗せた。

切なすぎる歌を聞いて、外でクールな表情を崩したことがなかった嘉菜が涙をこぼしてしまった。

魅了されてリーフカフェにも行った。間門の姉妹と初めて男子の話もした。

勇太の女は嫁1人、婚約者2人と少ないことも知った。

嫁の名は坂元梓。

普通なら、異母妹と同姓同名やんとなる。

だけど、この家ではパラレル勇太のことがある以前に、坂元葉子、坂元梓の名前は大人達の間でタブーとなっていた。

重婚で簡単に縁を繋げるけど、その縁を一方的に切れる世界でもある。

葉子は自由を好む。最初から夫の陽介の家で同居も考えず、坂元姓も変えなかった。

17年前、陽介の他の嫁達も若くて尖っていた。葉子と妻達で縁を結ばなかった。

なので陽介も家の中で葉子と梓の名前を出すのは遠慮している。

関わった家の行事といえば、陽介の誕生パーティーのみ。梓が小5の年まで母子で参加した。

間門の会社も絡むから親族、仕事関係で三桁の人が集まる。嘉菜は陽介に抱き上げられた梓を見て『父親が認知だけした異母姉妹かな・・』程度の認識。

パラレル勇太が中1で葉子と同居して養子として籍に入った。形上は間門家と繋がれる立場になった。

だけど陽介の第一、第二夫人がパラレル勇太に会って怒った。

他の妻達も賛同し、パラレル勇太が間門の家の門をくぐることがないようにと葉子に告げた。

通告を受けた葉子は、陽介の誕生日ですら間門家に行かなくなった。

たまに陽介が会いに来てくれるし、世話になってる陽介の気苦労を増やす必要はないと思った。

梓が婚姻可能年齢の15歳になった1年前、興信所を雇ってパラレル勇太を調査した。

結果は最低点。

もし梓とパラレル勇太が結婚しても、間門の家の財産を狙えないように法的制限をかけた。

坂元家の存在はタブー。嘉菜も他の子供も親から知らされていなかった。

外の家族は父・陽介のデリケートな一面も含む話。いずれ嘉菜が家を継ぐときに、書類として渡され、そこで財産譲渡制限等も含めた父派生の血縁状況を知る予定だった。

この時点で嘉菜は何も知らなかった。

週末、わざわざパラレル市の図書館に行って、リーフカフェで息抜きするのが楽しみになった。

ある日は勇太の方から気付いてくれた。
「最近、よく来てくれるカナさんでしたよね。ありがとうございま~す」と笑顔を見せてくれた。

胸がほっこりした。


親と勇太の確執なんて知らない。ささやかな喜びを噛み締めていた。


    
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