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149 新天地で見つけた丸顔天使

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◇原山良作72歳◇

昭和38年8月1日。

故郷の村を逃げてパラレル市に着いたのはいいけど、腹が減ってた。

いや、くたくただった。

食いもんも最小限しか食ってねえ。水筒の水だけは補充してた。列車の座席とかで寝てたから、睡眠不足。

女装のために着てたワンピースも、夏場に3日間くらい着替えてない。相当臭かったと思うぞ。

何はともあれ、パラレル市に降り立った。俺の中では新天地の大都会だ。

なんてことはない中堅都市。あとで知ってびっくりだ、あはは。

そんでも4階建てのビルなんて間近で見たのは初めて。駅前で光ってた信号機も、何のためにあるのか最初は分かんなかった。

村と違って簡単にパンと牛乳も買えた。本当は、最初に目に入ったラーメン屋に入ってみたかったが、薄汚い子供1人で入る勇気はなかった。

お袋と一緒なら・・

いや、目から出てるのは汗だ。


当時は駅の近くに大きな公園があった。そこの木の陰で寝ることにした。

午後8時。5人の中学1年生女子が公園で花火をやってたんだ。その中に、今もちょうど隣にいてくれる依子がいたな。

な、依子、長い付き合いになったよな。

声かけられて、女装してても怖かった。

けど「親戚がここまで迎えに来る」って言ったら、一緒に花火しながら待ってようって、誘ってくれた。

ちょっと年上の姉さんばかりだったけど、疲労困憊なのに一緒に花火させてもらった。

村では、村長の娘の妨害で同世代の子供と遊んだことがなかった。すげえ楽しかったよ。

でな、俺は女装してたけど立ち振舞いはイマイチだった。

花火が終わって、女子のうちの4人は帰った。依子は公園近くでやってた定食屋の娘。家が近いから、一緒にいてくれた。

1人で待ってるって言ったけど、当然ながら迎えなんて来ない。

迎えが来なかったら、どこで寝るんだって聞かれた。

「ここで寝る」って言ったら依子に驚かれた。

「男子の野宿なんて危なすぎるよ」だってさ。

精度の低い女装してた自分を棚に上げて、俺は心底驚いた。

いきなり走って逃げようとしたら、膝がカクッて。あ、体に力入んねえ。

そんまんま、目の前が暗くなった。
・・・・


気が付いたら、依子の家で寝かされてた。もう次の日の昼だった。

依子と、依子のお袋さんが枕元にいた。

「お、目が覚めたね。安心しなよ。何か事情があるんだろうけど、ここは安全。役所にも届けてきたから」

「や、役所?」

「大丈夫だよ。ね、お母さん」
「そうだよ。今の日本は誘拐とか監禁された男子を助ける制度が出来たの。あんたみたいに訳がありそうな男の子を助けるための人がいるんだよ」

「・・ああ、そうなんだ」

「改めて言うけど、あたしは依子。あんたは?」

「・・良作」

一度しか言わねえけど、目の前に丸い顔の天使がいたぞ・・

おい依子、おめえのことだとは言ってねえ。いい年してにやけるな。


役所の人に保護施設に来るかって言われた。けど、俺は役所の人も怖かった。

前の日に俺が男だって気付いても普通に接してくれた依子と友達4人を、もう信頼して依存してた。

そんな内容のこと呟いたら、『臨時男性保護師』とかいうのに依子の母ちゃんが任命されて、俺を食堂に置いてくれた。

適当?だよな。今の時代ならありえないけど、東京オリンピックの前で厚生省の人間もてんてこ舞いの人手不足。

俺が依子から離れないもんだから、大丈夫だろうって適当判断だ。あっはっは。


依子んちの食堂は繁盛した。
なんでかって、俺が手伝ったんだよ。

夏休みが明けたら初めて小学校に通わせてもらえることになって勉強を始めた。

算数も国語もちんぷんかんぷんだけど、男子が『異物』でなくて『貴重』なのだけは分かったよ。

けど、人に世話になりっぱなしは性に合わねえ。
その前までは、ほぼ自給自足で暮らしてたし、働かざるもの食うべからずの精神が身についてた。

男子があまり働いてないって知らなかったから、世話になり始めて8日目から勝手に食堂に出た。

依子の母ちゃん手伝って野菜切ったり、客の注文取りに行ったりした。

たちまち評判の『看板息子』だ。

その光景が珍しい世の中って、知らなんだ。このときは無知がいい方に作用したな。


俺の人気が出て、金持ちの女が何人も食堂に来た。いい暮らしさせてやろうって妖しい目で言われた。

依子と友達でいつも守ってくれた。みんな今は嫁だな。

俺は依子が最優先だった。最初に俺が13歳で15歳の依子にプロポーズして、唖然とする依子を押し倒してセックスしたさ。

1回ヤッて、反撃されて3回ヤラれたな。処女と童貞だったのによ。

あて、依子、頭はたくな。

嫁の16人か・・。みんな依子の友達、先輩後輩、親戚だ。

依子、ここは耳塞いでろ。あのな、俺が大好きな丸顔天使様が連れてきた子は、みんな好きになれたんだよ。

・・そんで、この海辺の街に越してきて大人数で住める家作って、今に至ると。

ま、そんな感じだ。


    
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