146 / 254
146 小さな村とパラレル昭和
しおりを挟む
勇太は、パラレル勇太のダメ人格ができるとき、参考にしてしまった人に会った。
原山良作さん72歳。
ハンサムで8人の女性と海辺のカフェのテラスにいる。
彼が育った時代背景、特に男子を巡る世の中が、本当の意味で変わっていくときに青春時代を過ごした原山さん。
魅力的な人だ。
端的に言えば、原山さんは最終的に公的機関で保護対象となった。しかし、その経緯では自分で行動して自由を勝ち取った人。
自由のために戦った、最後の日本男子のひとりだ。
温室育ちのパラレル勇太は、原山さんの生き方を想像できなかった。
口調、態度、表面的な格好良さだけを真似した。アドバイスも今の時代の世界観に合わないものばかりを自分にインストールした。
パラレル勇太の記憶でも、今の勇太で見ても悪い人ではなさそうだ。
その証拠に、一緒にいる同世代の女性8人がみんないい笑顔だ。女性同士も仲がいいのが分かる。
ただ、これから聞きたい話を探りにいくと、深く暗い目になる。
だけど意識しているのか、目の色が明るく切り替わる。
「勇太とは4年以上も会ってなかったな。いい男になったぜ」
「はは、お陰様で」
「ふふふ、良かったね勇太」
「いやあ、嫁達には俺の口調とかに感化されて、今の時代に合わない男子になったんじゃねえかって、心配されてたんだよ」
「ホントに」
「良ちゃんって、子供に影響力あるから」
「息子のひとりも、変なキャラ作って手を焼いたでしょ」
「良かった。勇太君がまともそうで、ね」
こう言われると、パラレル勇太は見事なほど、時代に合わない男になってましたとも言えない。
「で、前に見た従妹ちゃんと籍入れてて、このルナちゃんとも結婚すんだな」
「まあ、来年3月に、もう1人のカオルって子も一緒に籍を入れます」
原山老人が、じーと勇太とルナを見ている。2人は真っ直ぐ原山さんを見ている。
「うん、4年以上空いたけど、勇太はいい具合に雰囲気が変わったな」
「そうですかね・・」
「だよ。3人の彼女が頑張って変えてくれたんかな。ルナちゃんもおっぱいでけえしな! あははは」
真っ赤になるルナ。嫁の中の2人から頭を軽くぺん、される原山さん。
「いやっはっはっは」
「もう、良作さんたら」
「孫に嫌われるわよ~」
「孫が騒ぎ出すと、ダース単位で攻めてくるわよ~」
「ぐっ、みんなきびしー」
一気に喋って笑った原山老人が息をついた瞬間、奥さんの1人が飲み物を差し出した。
「おっと依子、ありがとよ。ちょうど喉渇いたとこだ」
「これが、伝説の『あ、うんの呼吸』ってやつですね」。ルナが感慨深げだ。
言われてみれば、前世の熟年カップルにはよくあった光景。だけど、男女比狂いの世界ではレアものなんだ。勇太は、そう思った。
◆◆
勇太は、当然ながらパラレル勇太ではない。だけど原山老人に興味が沸いている。
勇太が前世で学んだ『昭和』と違う、男女比1対12の世界の激動期を歩いてきた人だ。
この世界の男子にしては腹が据わっている。そして、とても明るい。
やっぱり生い立ちが起因していた。
最初に感化された当時、まだ子供で表面しか見ていなかったパラレル勇太は、原山さんの子供時代の話を知らなかった。
原山さんはためらったけど、奥さん達が頷いた。
静かに、当時を思い出しながら原山さんは語り始めた。
◇以下、原山良作。
俺は昭和27年生まれだよ。
終戦から7年、戦勝国の意向を取り入れた憲法が制定されて5~6年だったかな。
男子に関してはアメリカ、イギリス、フランス、3か国の『国際男子保護憲章』ってのが叩き台になったそうだ。
その3つの国じゃなくて、社会主義の国が日本国憲法作ってたら、男子保護は20年遅れてたな。
男子を子作りマシーンとすることが許されねえ時代に入っていた。けどよ、日本全体に浸透していた訳ではないな。
俺も、正確に中身を知ったのは13歳だもんな。
新しい常識が都市部から次第に地方へと伝わっている時代だったんだろう。
俺はな、その新しい時代が来てなかった場所に生まれちまった。日本海側の山あいの農村だ。
都市部の生まれなら、扱い自体が違った子供時代になってたと思うぞ。
小作の家に男子が生まれたら種馬として使い潰してもいいって、古い風習が残ってた。
俺んちは、その村でも地位が低かった。
普通なら男児を村長の家に差し出す。
だけどな、お袋は拒否した。
時代が変わりつつあることだけ知ってた。俺の将来が悲惨な種馬生活にならないように戦おうとしてた。
だから俺を手放さず、畑を耕しながら育ててくれた。
お袋なりの戦いを続けてくれた。
そんな人が俺を育ててくれた。
原山良作さん72歳。
ハンサムで8人の女性と海辺のカフェのテラスにいる。
彼が育った時代背景、特に男子を巡る世の中が、本当の意味で変わっていくときに青春時代を過ごした原山さん。
魅力的な人だ。
端的に言えば、原山さんは最終的に公的機関で保護対象となった。しかし、その経緯では自分で行動して自由を勝ち取った人。
自由のために戦った、最後の日本男子のひとりだ。
温室育ちのパラレル勇太は、原山さんの生き方を想像できなかった。
口調、態度、表面的な格好良さだけを真似した。アドバイスも今の時代の世界観に合わないものばかりを自分にインストールした。
パラレル勇太の記憶でも、今の勇太で見ても悪い人ではなさそうだ。
その証拠に、一緒にいる同世代の女性8人がみんないい笑顔だ。女性同士も仲がいいのが分かる。
ただ、これから聞きたい話を探りにいくと、深く暗い目になる。
だけど意識しているのか、目の色が明るく切り替わる。
「勇太とは4年以上も会ってなかったな。いい男になったぜ」
「はは、お陰様で」
「ふふふ、良かったね勇太」
「いやあ、嫁達には俺の口調とかに感化されて、今の時代に合わない男子になったんじゃねえかって、心配されてたんだよ」
「ホントに」
「良ちゃんって、子供に影響力あるから」
「息子のひとりも、変なキャラ作って手を焼いたでしょ」
「良かった。勇太君がまともそうで、ね」
こう言われると、パラレル勇太は見事なほど、時代に合わない男になってましたとも言えない。
「で、前に見た従妹ちゃんと籍入れてて、このルナちゃんとも結婚すんだな」
「まあ、来年3月に、もう1人のカオルって子も一緒に籍を入れます」
原山老人が、じーと勇太とルナを見ている。2人は真っ直ぐ原山さんを見ている。
「うん、4年以上空いたけど、勇太はいい具合に雰囲気が変わったな」
「そうですかね・・」
「だよ。3人の彼女が頑張って変えてくれたんかな。ルナちゃんもおっぱいでけえしな! あははは」
真っ赤になるルナ。嫁の中の2人から頭を軽くぺん、される原山さん。
「いやっはっはっは」
「もう、良作さんたら」
「孫に嫌われるわよ~」
「孫が騒ぎ出すと、ダース単位で攻めてくるわよ~」
「ぐっ、みんなきびしー」
一気に喋って笑った原山老人が息をついた瞬間、奥さんの1人が飲み物を差し出した。
「おっと依子、ありがとよ。ちょうど喉渇いたとこだ」
「これが、伝説の『あ、うんの呼吸』ってやつですね」。ルナが感慨深げだ。
言われてみれば、前世の熟年カップルにはよくあった光景。だけど、男女比狂いの世界ではレアものなんだ。勇太は、そう思った。
◆◆
勇太は、当然ながらパラレル勇太ではない。だけど原山老人に興味が沸いている。
勇太が前世で学んだ『昭和』と違う、男女比1対12の世界の激動期を歩いてきた人だ。
この世界の男子にしては腹が据わっている。そして、とても明るい。
やっぱり生い立ちが起因していた。
最初に感化された当時、まだ子供で表面しか見ていなかったパラレル勇太は、原山さんの子供時代の話を知らなかった。
原山さんはためらったけど、奥さん達が頷いた。
静かに、当時を思い出しながら原山さんは語り始めた。
◇以下、原山良作。
俺は昭和27年生まれだよ。
終戦から7年、戦勝国の意向を取り入れた憲法が制定されて5~6年だったかな。
男子に関してはアメリカ、イギリス、フランス、3か国の『国際男子保護憲章』ってのが叩き台になったそうだ。
その3つの国じゃなくて、社会主義の国が日本国憲法作ってたら、男子保護は20年遅れてたな。
男子を子作りマシーンとすることが許されねえ時代に入っていた。けどよ、日本全体に浸透していた訳ではないな。
俺も、正確に中身を知ったのは13歳だもんな。
新しい常識が都市部から次第に地方へと伝わっている時代だったんだろう。
俺はな、その新しい時代が来てなかった場所に生まれちまった。日本海側の山あいの農村だ。
都市部の生まれなら、扱い自体が違った子供時代になってたと思うぞ。
小作の家に男子が生まれたら種馬として使い潰してもいいって、古い風習が残ってた。
俺んちは、その村でも地位が低かった。
普通なら男児を村長の家に差し出す。
だけどな、お袋は拒否した。
時代が変わりつつあることだけ知ってた。俺の将来が悲惨な種馬生活にならないように戦おうとしてた。
だから俺を手放さず、畑を耕しながら育ててくれた。
お袋なりの戦いを続けてくれた。
そんな人が俺を育ててくれた。
53
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる