上 下
135 / 296

135 女神印の吊り橋効果

しおりを挟む
勇太は、パラレル勇太のせいで不和だった2年3組のクラスメイトと打ち解けてきた。

そのせいもあるけど忙しい。

パンのウスヤに金銭的な余裕も出て、パートさんを雇った。おかげで勇太のパン屋の手伝いも週3に減った。

代わりに、看護師軍団との夜中のファミレス会が増えて、中学生との早朝ランニングをカオルを交えて再開。

放課後は自分のクラスの劇シンデレラの大道具作りも加わった。

勇太ら大道具班はカボチャの馬車も完成させて、次はお城のセット作り。

今日は赤絨毯を敷いたお城のホール風背景を布で作った。目の錯覚で奥行きを作ろうと美術美の面々が主導している。

木曜日なので伊集院君は登校していない。


そのときに、事故が起こった。

背景の出来上がりを確認するために布を広げようとした。

教卓や机をどかして、黒板上の天井に布の端をピン止めしていた。

委員長の吉田真子が黒板の左上に届かず、机の上に椅子を乗せた。その上に立っていた。

勇太は、下に並べる小物を取りに行って帰ってきた。

「危ないよ委員長~。代わるから待ってて~」

「え、男の子に危ないことさせられないよ」

優しい~など口々に言っていた。ムードはいい。

「うんしょ。画ビョウ刺さらない~」
「真子、一旦降りて足場を移動しよう」
「もうちょいで、届くから・・あっ」

机の上に乗せた椅子の上で爪先立ちした真子は足を踏み外した。

とっさに下で机を支えてくれているクラスメイトの上に落ちないように、身体をひねった。

だけど、黒板の下に背中から落ちそうになっている。

みんな固まった。

その中で一人だけ動いていた。


勇太は狭い教室でフルダッシュした。

真子をキャッチできるタイミング。落ちる場所にたどり着ければい。そんな反射行動だ。

ただ、その先には黒板がある。

勇太はジャンプした。

意外に恐怖はない。

完全な女神印の回復力頼み。

黒板にぶつかると同時に、真子をお姫様抱っこのような感じで空中キャッチ。

勇太のミッションはコンプリート。

勢いが付いて真子が黒板と勇太に挟まれたけど、落下の衝撃に比べたら微々たるもの。

弾力がいくらかある黒板に弾かれて、勇太が下になって落下。真子をかばいながら、どんっと背中と後頭部から床に落ちた。

追加で落ちてきた椅子は、奇跡的に横にいた女子がキャッチした。

真子の体は横抱きにして、なんとか真子を擦り傷程度で済ませた。

「けほっ。委員長、大丈夫?」
「え?え?勇太く・・ん」

勇太はとっさに痛い頭を働かせた。女神印の回復力で治るといっても、肋骨が前も後ろも痛む。

転生後、何度か怪我している勇太は冷静だ。勇太的には深刻ではない。

30分ほどで回復するだろうけど、その30分の間に騒ぎになりそうだ。

見ると真子はガタガタ震えている。

「ご、ごめんなさい、勇太君。私のせいで怪我・・」

勇太は無理に笑った。

「ああ大丈夫。ルナやカオルと柔道の練習してたら、こんな衝撃なんて普通だから」

柔道で2メートルの高さから落ちてくる女子を受け止める訓練?
そんなんしないでしょ。みんな言いたいが言葉が出ない。

「それよか委員長、立って」
「あ、あの、あの・・」

腰が抜けて立てない吉田を勇太が立たせた。そして肩をぽんぽんした。

黒板に押し付けられて、真子の右頬に赤い跡が付いている。

「どこも痛くない?」
「あ、うん、勇太君が助けてくれたから」
「良かった」

「良くないよ、保健室行こう」
「そうだね、念のために委員長を診てもらおう」
「違うよ、勇太君が先だよ」

「ええ、俺はいいよ。ほら普通に動けるから俺は大丈夫だって~」

クラスメイトは勇太が根っ子から優しくなったと思った。

そして真子が顔を真っ赤にしている。

勇太が真子を身を挺して助けた。

男子が嫁や娘でもない女子を助けるなんてレアだ。

そもそもの原因が女子の真子。なのに怒りもしない。その上に真子のことを気遣っている。

普通、女子が不注意で男子にのし掛かって怪我をされたら、かなりの問題になる。

けれど勇太は、せっかく距離が縮まったクラスメイトと再びギクシャクしたくない。

「みんな~、大事にならずに済んだから、アクシデントの話は口外しないってことで」

「けど・・」とみんなが口にする。

「伊集院君に心配させたくないでしょ。俺が小さなたんこぶ作った程度だから問題ないって。ほらほら、腕も動くから。あっはっは~」

「ゆ、勇太くん・・」

「委員長、気にしないの~。作業再開しよう。俺が布を張り付けるから。ほらほら、画鋲ちょうだ~い」

しきりに真子の肩を優しくたたいている。

「クッキーあるから、あとでお茶しよう」

女神印の声を響かせながら勇太は道化を演じる。

「ドンマイ、ドンマイ~」

わざとらしい笑い。だからこそ、みんなは勇太の気遣いを感じる。


クラスメイトが吉田真子委員長の顔を見ると、潤んだ目をして頬を赤く染めている。

みんな、勇太は罪作りな男だと思った。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

男女比1対99の世界で引き篭もります!

夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公! 前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!! 偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...